第46話 跳躍の可能性
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陸疾は恐る恐る目を開いた。陸疾の視界には順一郎と周りの建物が映ったが先程までいたディメンションズの姿は見えなかった。
「…え?これ撤退出来たんすか?誰もいないっすけど。」
「いや、違う。ここは俺の技能解放で作った空間だ。」
「作った…空間?」
「そうだ。―技能解放―《感知外障壁》。それがこの空間の名前だ。」
「すげ…。つまりこれ使って安全に撤退するって事ですよね。いやあ研悟さんを模倣してくる敵が出てくるなんてびっくりしましたよ。ひとまず無事に帰れそうで良かったっす。」
陸疾は3人も目の前に現れたディメンションズに相当驚いていたようだ。だからだろうか撤退と順一郎が言った時いち早く反応を示したのだ。完全に帰れることを確信している能天気な陸疾であったが順一郎は渋い顔である。
「残念だが、恐らく撤退は難しい。…というか無理だろう。相手の樫原は俺の技能もその効果も知っている。一度対峙したことがあるからな。そしてこの空間は移動が出来ない。半径5メートルの球状の空間内の人間の動きを空間外から視認出来ないようにするだけだ。」
「…つまり空間外に出ようとすると相手にすぐにバレると。相手がどこかに探しに行けばバレずに撤退出来る…とか?」
「相手が樫原じゃ無けりゃそれで問題無さそうだがな。恐らくあいつはこの空間がどこにあるのかを見つけ出し待ち伏せして来るだろう。そして俺の技能はこれだけだ。戦闘は少し強めの一般人程度。待ち伏せされてりゃまあ一瞬で負けるだろうな。そうなったら依頼が破綻して最悪俺ら2人ともあの世だ。」
冷静にかつ正確に順一郎は今の状況を分析してみせた。そしてその結果とても厳しい状況であることが分かったのである。
「…それ詰んでません?何か何か方法無いんすか!この状況を打開出来るようなすっげぇ方法無いんすか‼︎」
「…あるぞ、1つだけな。」
「なんだあるんじゃないすか。それやりましょう。どんな方法なんすか?」
「お前が今この場で技能を解放させるんだ。それしか無い。」
そう言い切った順一郎の表情は真剣なものであった。それが余計に陸疾には信じられなかったのである。
「…それしか無いんすか?」
「あぁ、それしか無い。」
「…けどその技能解放ってのはそんなすぐにハイ出来ましたって言う代物でも無いっすよね?」
「よく知ってるな。その通りだ。」
「…それ詰んでません?」
「お前がそう言う諦めムードならな。何事もやってみなくちゃ分からない。そうだろ?」
順一郎は表情を一切崩さない。順一郎は陸疾より戦闘経験も技能についての知識も遥かに上である。その上で陸疾が技能解放を習熟することが唯一の勝算であると言っているのだ。そこまで言われれば最早陸疾は無理とは言えない。そもそもやらねば勝ちは無いのだ。
「良いか、技能解放は自分の技能と向き合ってどのようにその技能を活かすかによって作り上げられる。例えば俺の《感知外障壁》は『感知』されないために作り上げた意識の壁なんだよ。これは相手がどう自分を感知するかを『感知』した結果だ。つまりお前が自分の技能で何がしたいのかそれが技能解放への一歩だ。」
技能と向き合うこと。それは研悟もまた言っていたことである。順一郎の話を踏まえれば研悟は自分の技能である『集中』によって自分の居合攻撃の精度を上げようとした結果が《居合ノ匠》に結びついたという訳だ。
ならば『跳躍』そして『変則』で自分は何がしたいだろうか。『跳躍』中心にしようか、『変則』中心にしようか、はたまたどちらも活かしてみようか。それすら決めるのが難しかった。
「…どうだ?何かやりたいことは浮かんだか?」
「…何も浮かばないっす。そもそもどっちを中心に考えたら良いんすかね。」
「そうだな、…やりたいこと、いややってみたいことと言っても良いかもしれん。それを考えている内は本当にやりたいことじゃないのかもな。そう言うもんは何かの拍子に頭に浮かぶもんだからな。」
「…なるほど、やってみたいことならあるかもしれない。」
「ほう!そりゃどんなことだ?」
「…空飛びたいんすよ。空中とかでも割と自由に動いてみたい。そんな願望はありますね。」
なんと陸疾は空を飛ぶ願望があるようです。でも陸疾は同じとぶでも『跳躍』なのです。その差が上手く埋められればいいんですがね。




