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第42話 時計を売ってはいませんか

読んでくださりありがとうございます。


順一郎には気になることがあるようだ。言われて初めて陸疾もそれが気になった。満島古書店にとっては閉めて問題無いかもしれないが基地の入り口を兼ねている関係上閉められるのはやや都合が悪いのだ。


「そこは心配するな、店は甥っ子に任せてある。連絡は来ちゃいないから問題は無いじゃろう。」


「甥っ子って言うと…、友則か。あいつも大変だな。」


「暇つぶしになる上に金もやってるんだ。あいつは結構喜んでいたがな。…そんでお前ら何か買っていかんか?」


「いや、生憎買いたいものは他にあるんでな。…じじぃ、ここで珍しい時計があるって話を聞いたことはねぇか?」


「じじぃじじぃと言うがお前の祖父になった覚えは一度も無いんじゃがの。…時計と言ったな。あそこの眼鏡とあそこのご婦人のところで珍しいものが売ってるって噂だ。ただ高くて誰も買ってないがな。気になるなら行ってみると良い。」


銀二は近くで出品している男性と女性を指さした。それぞれ珍しいものを売っているらしく陸疾たちが探す時計もそこに含まれているに違いないということだ。とりあえず近い方である女性の出品者のところへ向かったのである。


「おや、若い人が来るなんて久しぶりだねぇ。良いものを仕入れた甲斐があったよ。」


銀二よりは若いがやや年老いた女性が嬉しそうに笑っていた。銀二のように新聞を読みながらという訳でもなく陸疾たちにすぐ気づいたことから熱心にフリーマーケットに出品しているんだなと陸疾には感じられた。良いものを仕入れたと言っていた通り雑貨を中心に色々なものが並べられていた。陸疾の趣味には合わなかったが。


「ここで珍しい時計を売ってると聞いたんですがな。どれです?」


「ほう、時計が欲しいとな。うちで1番珍しいのはそこの置き時計だよ。」


店主が指さしたそれは並べられている雑貨の中では一際大きなもので存在感を放っていた。見たところ特に珍しい感じがしないただの置き時計にしか見えなかった。


「その置き時計はね。狂わないんだよ。ちょっと見てな。」


そう言うと店主は文字盤を弄ってめちゃくちゃな時間を示させた。動いたまま文字盤を弄るとは豪快だなと陸疾が感じているとその瞬間、置き時計は現在の時刻を示したのである。最早どのタイミングで直ったのかすら分からなかった。


「…どうだい、すごいだろう?この置き時計は現在の時刻を示すのに特化した代物だよ。無理矢理違う時間にしようとしても次の瞬間には現在の時刻を示しているのさ。…理屈は一切分からないがね。」


「なるほど、珍しい時計に違いない。…そんでいくらなんです?」


「そうだね、2,500円でどうだい?」


「結構するんだね。でも買おう。…ただちょっと値切りたいかな。ちなみに値切りはここではOKなんです?」


「はは、値切りか。買ってくれるんならちょっとは対応してやろう。…どんな値段が好みだい?」


店主は豪快に笑った。まるで客とのやり取りを楽しんでいるかのようである。フリーマーケットで値切りは珍しいことではない。この目の前の若い男はどこまで値切ろうとしているか見極めようとギラついた視線を順一郎に寄越していた。


「そうだな…、1割引でどうだい?」


「なんだい1割引なんかで良いのかい?」


「そりゃそれ以上に安くなるなら嬉しいのはもちろんだけど、そんな無理は言えないさ。」


「ははは、無理じゃないよ別にさ。…そうだな、それじゃあ1割引をしてやろう。それで買うのか?」


「もちろんさ。」


そう言うと順一郎は財布を取り出しまずは札を店主に手渡した。残りの小銭を出そうと小銭入れを開けようとすると店主がそれを止めた。


「あぁ、小銭はいらないよ。これだけもらえりゃ充分さ。そこの置き時計もらって行きな。買ってくれた礼だ。これも持っていくと良い。」


どうやら小銭はいらないようだ。結果として2割引してもらったことになる。さらに好意で小さいグラスももらってしまった。酒のグラスに丁度良いと順一郎は喜んでいたが陸疾は微妙な顔をしていた。


「順一郎さん、その置き時計どうするんです?隊長に言われたものとは関係ないですよね?」


さすがに良く知らない人にばばぁなんて言いません。順一郎は相手が銀二だからこそあの口調なのです。さて目当ての時計ではありませんでしたが順一郎は何か嬉しそうですね。普通に置き時計が欲しかったんでしょうか。

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