第37話 研悟との模擬戦
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「おう、やろうか。…ただ模擬戦連戦ってのは結構疲れるもんだからな。そんなに疲れさせるのも良くないからここは一つ1本勝負だ。疲れないようにすぐに倒してやるよ。」
研悟はニヤリと笑うとそのまま模擬戦会場第6ブースへと歩いて行った。すぐに負けんじゃねぇぞと凛夏の言葉を聞きながら陸疾もまた第6ブースへと歩いて行ったのである。
ブースに入った陸疾はふぅと一つ息を吐いた。研悟と模擬戦で戦ったことがあるとは言えその時は自分の戦闘経験を積むためであり、真剣勝負はこれが初めてである。研悟も遠距離タイプではないため模擬戦のポイントは如何にして自分の射程に相手を誘い込むかが重要であろう。1本勝負であるため計算が狂う事は1発で負けに繋がる。陸疾は綿密に作戦を練ってから模擬戦開始の準備を整えた。
『―、両者の装着が確認されました。これより模擬戦最終1戦目を行います。』
陸疾は平原Aに転送された。これはもちろん陸疾が設定したものである。どちらが先に距離を詰め切れるかが重要だと思った陸疾は相手に見つかるリスクよりも相手を見つける事を優先したのだ。研悟の姿はその場でジャンプしてすぐに見つかった。平原Aの中でも一際広い場所の真ん中で日本刀に手をかけて研悟は佇んでいた。
「…ど真ん中ですね、距離を取るとかしないんすか?」
「距離を取って何になる?どうせ詰めなきゃいけないんだ。それなら遠ざかる必要はないだろう。」
研悟のその言葉には裏打ちされた相当の自信があると陸疾は感じた。研悟の集中を乱してやろうと黒く塗ったボールを研悟目掛けてぶん投げた。ボールは研悟の5メートル程右で弾んだ。その間研悟は微動だにしなかった。
…リアクションは無しか。そもそも爆弾じゃ無いことが見抜かれていたか?全く避ける素振りも無かった。研悟さんの技能解放とか言う攻撃は見たことがある。あの厄介な攻撃を防ぎながら距離を詰めていくしかない。となるとやっぱあれしか無いな。
陸疾は盾を構えて猛然と研悟目掛けてチャージし始めた。凛夏にもくらわせた盾でのタックルである。この方法なら自分を守りながら攻撃が出来、避けられたとしても距離を詰めることが出来る。…陸疾はそう考えたのだった。
研悟はそれに対してわずかしか反応を示さなかった。示す必要が無かったとも言えるだろう。ただ右に一歩踏み込み技能を解放させたのである。
「その程度の守りで俺の居合は防げない。―技能解放―《居合ノ匠》」
研悟が放った斬撃は盾で守られているはずの陸疾の左腕を鋭く斬りつけた。陸疾には何が起こったのかさっぱり分からなかった。ただ分かった事はこの模擬戦の勝負は決してしまったという事だけである。
『―、戦闘終了。相谷陸疾の戦闘不能により、伊狩研悟に1勝が追加されました。』
『規定戦闘数に達しましたのでこれにて模擬戦を終了します。ご利用ありがとうございした。』
…いやぁ、呆気なく終わったな。呆気なさすぎて何にも感情か浮かび上がって来ないわ。《居合ノ匠》がどう言う攻撃なのか一切分からないから対策出来ないんだよね。せめて技能解放ってのが使えるようになれば対処出来るようになるのかな?ブースの外で聞いてみようか。
陸疾がブースから出ると既に研悟はブースから出てケイトや凛夏と話をしていたのであった。慌てて陸疾もその輪に混ざろうと駆け寄ったのである。そのことに1番最初に気づいたのは研悟であった。
「お、まだまだ陸疾には負けねぇよ。こっちにも先輩のメンツってのがあるんだ。」
「もっと善戦出来ると思ってたんすけどね。《居合ノ匠》になす術も無かったっす。…あれどうやるんすか?」
「どうやる…ねぇ、口で言うのは難しいな。とにかく自分の技能に向き合うのさ。するとだんだん技能の使い方が分かってくるのさ。そうすれば技能を解放させる方法も自然と分かるようになる…こんな感じかな。」
…なるほど、さっぱり分からない。そもそも技能に向き合うってどう言う事だ?上手いこと技能を活用していけば良いのか…?
研悟の説明で陸疾は全く理解出来ずに頭にハテナマークを浮かべていた。隣の凛夏もまた同様である。
割とあっさり負けてしまいましたね。まあ負ける時はこんなものですよ。




