第36話 模擬戦の結果は…?
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転送された直後の凛夏は狼狽えていた。自分はマップを住宅地Bに設定したのに平原Aのマップへと転送されたからである。すぐに頭を切り替えてまずは身を隠す場所をと凛夏は周囲を見渡した。丁度人1人が隠れられそうな茂みを見つけそこへ走り出そうとした瞬間視界の端に陸疾のものであろう盾が映った。
「…っち。隠れるのは無理ね。でも距離を取れば槍の攻撃は食らわないし、爆弾も撃ち落とせる。さっき飛ぶように走って来られたけど直線で走って来る分には銃撃は合わせやすいし何とか対処できるはず。」
凛夏は茂みに近づく足を止めて陸疾を迎撃するようだ。陸疾も凛夏の姿に気づき先程同様走って距離を詰めるようだ。凛夏は陸疾が槍を背負っていることから、陸疾が爆弾で撹乱しようとしていると予想し確実に撃ち落とすため呼吸を整えた。予想通り走りながら陸疾は大きく振りかぶって凛夏目掛けて球状の何かを投げつけて来た。
「爆弾か‼︎…⁈」
凛夏はその投げつけられた球状の何かを正確に撃ち、それは爆ぜるはずであった。しかしただ銃弾に当たってどこかへ飛んで行った。予想外の結果に少し判断が遅れたため陸疾が思った以上に距離を詰めて来ていた。バックステップをしながら陸疾に銃撃を浴びせようとした凛夏だったが猛スピードでチャージしてくる盾にはなす術が無かった。
「悪いな、銃弾を防ぎながら攻撃するにはこれしか方法が無かったんだよ。」
『―、戦闘終了。八雲凛夏の戦闘不能により、相谷陸疾に1勝が追加されました。』
『規定戦闘数に達しましたのでこれにて模擬戦を終了します。ご利用ありがとうございした。』
…ふぅ、何とか勝てたな。3勝2敗って事はかなりの良い勝負だったな。…銃撃を防ぐためとは言え思いっきりタックルしちゃったな。VR空間で体に何か影響は無いから大丈夫だろうとは思うけど後でもう一度謝らないとな。
凛夏との5本勝負に見事勝ち越した陸疾は少し申し訳無さそうにブースから出てきた。もう少し良い作戦が無かったか考えているからである。出てきた陸疾を研悟とケイトが出迎えた。
「お、お疲れ。…いやぁ何て言うの?…ナイスタックル?」
「銃撃されちゃうんでね…。あんまりしたくは無かったんすけど…。」
「まあ、対銃戦においては相手がよく使ってくる作戦ではあるネ。凛夏にも言ってはいたんだけどすぐに適切な対処が出来るのは難しいからネ。それより普通に負け越すと思っていたから善戦した凛夏を褒めないとね。」
ケイトのその言葉に研悟も頷いている。どうやら2人の共通理解で勝つのは陸疾と言うのがあったようだ。
「…え、そんなに俺を買ってくれてたんすか?」
「…うーん、どっちかって言うと逆だな。ケイトが模擬戦に付き合ったって言っても戦闘センスはすぐに磨けるもんじゃないしな。経験が浅いとは言えディメンションズの佐久間に勝った事がある陸疾とは勝負にもならんのじゃ無いかって思ってたんだよ。案外あの子戦えるのな。」
そんな会話をしているとブースの中から凛夏が帰ってきた。戻るのが遅かった事から戦闘ログでも見ていたのだろうかぶつくさと何かを呟きながらこちらに向かって歩いている。その様子を見て研悟は何故か吹き出した。負けた自分を笑われた気がして凛夏は不満顔である。
「なんですか、負けた人を笑うなんて研悟さんって性格悪いですね。」
「あぁ、すまん。俺とケイトの最初の模擬戦を思い出してな。先輩風を吹かせようとケイトが俺に模擬戦を挑んで来てその時は俺が勝ったんだけど出てきたケイトはまさに今の凛夏そっくりだったよ。」
そう言うと研悟は堪えきれず笑い出した。そして研悟が言っている事は正しいらしくケイトは恥ずかしそうに下を向いていた。
「…そんな事もあったわネ。凛夏、負けた事を悔やんでいるようだけどあなたかなり善戦したのよ?正直陸疾が全部勝つと思っていたもの。なんて言ったって陸疾は私と模擬戦で引き分けたのよ。しかもまだ戦闘も何もしてないのに。」
「…でも私は結構勝ちたかったんだよね。痛くはないけど最後のタックルは中々衝撃だったわよ?」
「あぁ、ごめん。銃弾を防ぎながら進む方法がそれ以外に浮かばなくて…。」
「ふーん、…まあ仕方ない事か。許すよ。」
「ありがとう。」
とうやら思いっきり凛夏にタックルをかました事は許されたようだ。凛夏が許してくれた事でほっと胸を撫で下ろした陸疾は急に模擬戦に勝ち越した事を実感として感じ始めたのである。
「…そういえば、研悟さん!…模擬戦しましょう。勝った方が模擬戦出来るって話だったはずです。」
3勝2敗で見事陸疾は模擬戦の5本勝負に勝利しました。最後の詰めこそ力任せのごり押しでしたがそれまでの流れは陸疾の計算通りでした。さて、次はいよいよ研悟と陸疾が模擬戦を行います。どんな戦いになるんでしょうか。




