第102話 皇帝を止められるのは…
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クロマがそう言い終わった時辺りは重い空気に包まれていた。最早一言も発してはならない雰囲気を破るように凛夏が口を開いた。
「…あの、それって止められるんですか?」
「…私ではとても止められない。君らは見ていないかもしれないが私の技能開花では皇帝には全く通用しないのだ。…少なくともネルを倒せる人ぐらいでないととても皇帝には勝てない。」
「そのネルと言うのは?」
「ネル・トード。今回ここに来たパラドクスの面々の中で一番タフで実力者なんだ。少なくとも彼を倒す程じゃないと皇帝には勝ち目がまるで無い。」
「ネル・トードって言うと、《双爪乱舞》の…。」
「…!なぜそれを知っている?…そうか、私以外の4人は既に拘束されているという事はネルもまた誰かに敗北したと言う訳か。そして、その相手をしたのは…、ネルに勝ったのは…君なのかい?」
「…まあそうっすね。凛夏のアシストあってこそですけど。」
陸疾のその返答にギールは大袈裟に反応を示した。目の前の人物はパラドクスのリーダーであり、パラドクスの一員を倒したことをこんなにも評価されるとやや違和感があり、陸疾は居心地が悪くなった。
「あぁ、申し訳ない。1人で盛り上がってしまった。ネルはさっきも言った通りパラドクスの中で最も実力がありそして何よりタフだ。つまりアシストがあったとしてもネルを倒せる実力の持ち主なら少なくとも私よりもずっと皇帝に対抗出来る可能性がある。…君名前を何と言う。」
「…相谷陸疾っす。」
「そうか、リクト。君の実力を見込んで頼みがある。この先のとある場所に行きそこで皇帝を止めて来てもらいたい。」
「私からも頼もう。…技能は強大な力であり、例えその使い道が間違っていても技能があれば出来てしまう。皇帝は、…ガレア4世は初めて王族で技能開花に到達した歴史に名を残すはずだった。しかしその技能開花の強大な力によって変わってしまわれた。もし、オリハルコンを手にして技能成熟まで到達すれば最早皇帝を止める人は現れないだろう。…リクト、君はこの瞬間において最もガレア4世を止められる可能性が高い人物になる。…この世界と千年後の未来の希望なのだよ。どうか、…ガレア4世を止めていただきたい。」
ギールとクロマに頭を下げて頼まれた陸疾は困惑していた。陸疾は侵略して来たパラドクスで最も実力のあるネル・トードを倒したことで、帝国の騎士団長と王妃に帝国の皇帝を倒すことを頼まれているのである。最早どうしていいか全く頭に浮かばなかった。そんな陸疾に優しく声をかける人物がいた。
「…相谷くん、いや陸疾。彼らは現代と未来の行く末を思ってこうやって頭を下げている。…しかし危険であるのも確かだ。私は一目見ただけに過ぎないがあの人物を倒すのはかなり困難だと思える。…もし陸疾が危険だと思うなら、私は無理に陸疾が皇帝を倒しに行く事は無いと思う。」
「待て!それじゃあ皇帝は誰が止めるんだ!リクトしか可能性がある者はいないんだぞ!」
「その時は私が行くさ。現代を生きる技能の使い手として、ガーディアンズを率いた者として。せめてもの抵抗はさせてもらおう。」
景計は陸疾に無理に行く必要はないと言ったのだ。頭を下げたギールが凄まじい剣幕で抗議したのをそれ以上の気迫で押さえつけた。その言葉には、その態度には覚悟が漂っていた。そしてそれを間近で見た陸疾もまた覚悟が決まったのだ。
「隊長、俺が最初にパラドクスの基地に行った時に隊長が俺に言ったことを覚えてますか?」
「…どれのことだい?」
「隊長はあの時俺に、一緒に戦って欲しいと言ったんです。あの時は誰と戦うのかもあまり実感して無かったっすけど、多分あの時からこうなる事は決まってたんだと思うんですよ。…だからあの時と同じ事を言いますね。…俺で良ければ力になりましょう。」
陸疾は覚悟を決めてそう言った。皇帝という人物を止められるかの自信は決して無いが、自分にその役目があるのならその力になりたいという強い思いが陸疾の背中を押していたのだ。そんな陸疾に英永が近寄って来た。
「確かお前は拳司や毅彦とも戦ったことがあるだろう?なら俺としても実力は理解出来る。…だがそのままじゃあ皇帝に倒されてしまうだろうな。」
「…どういう意味っすか?」
怪訝な顔をした陸疾の装備を指さして英永は続けた。指さした部分は鎧が壊れかかっており中のチョッキが見えそうになっていた。
「そのネルとかいう奴と戦ってか…お前の装備はやや壊れかかっている。手袋貸しな、俺の予備で良けりゃ装備を整えてやろう。壊れかかった装備で行くのは死にに行くようなもんだ。」
「なるほど、…お願いします。」
「壊れそうに無いやつを設定しておく。後は頑張るんだな。おっと、行く前に装備は解除しておけよ?」
英永が装備を整えると陸疾の装備が変わった。元の装備と変わらない気がするのは似たような見た目の装備を選んでくれたと言うことだろう。整えた装備を確認しつつ助言通り陸疾は一旦装備を解除したのだ。ちょうど装備を解除した直後に後ろの方で何かが起動したような音がした。振り返ると黒い光を放つ扉が陸疾の後ろに作られていた。
陸疾が皇帝を止めるために単身で行くようです。皇帝はギールをあしらえる程の実力者なので果たして勝負になるかどうかも怪しいところであります。少なくとも技能成熟に到達される前に片を付けねばなりません。




