第101話 皇帝の目論見
読んでくださりありがとうございます。
急にギールは焦ったような表情で耳元を押さえだした。景計たちからはなにも見えないが恐らく通信機の類のものを操作しているのだろう。しかしデータではこの世界に侵略して来たのは5人であり、ギール以外の4人はすでに拘束されている。ではギールは誰と通信しているのだろうか。
その場にいる全員が身構えた瞬間ギールの目の前にブラックホールのようなものが現れ、目に痛々しい程の装飾品を身に付けた壮年の男が若そうに見える女を脅すように掴み上げながら現れたのだ。男は掴み上げた女を放り投げた。ギールが素早くその女をキャッチし丁寧に地面に座らせたのだ。男ほどでは無いがこの女もまたかなりの身なりをしていた。
「なんだこのザマは?…ギール、説明してもらおうか。」
「…申し訳ありません、…皇帝陛下。」
「貴様が千年前など騎士団だけで蹂躙可能だと言うから期待したと言うのに、蹂躙はおろか敗北しかかっているとはな。」
「しかし私はまだ負け…」
「やかましい!…そいつを回復させておけ、癪だが帰るにはそいつが必要だ。これより我自らこの世界を蹂躙してやろう。貴様はそこでそれを見ているが良い。」
少し迷ったような表情をしてギールは自身が皇帝と言った人物めがけて走り出した。背後には先程と同じ湯気のようなものが見える。
「―技能開花―《爆煙蒸…」
音もせずギールのすぐ近くに移動した男はたった1発ギールの腹部を殴った。それでギールは何も出来なくなったのである。
「威勢が良いのは良いことだが、…我にそれは効かんぞ?騎士団長である貴様はそれを骨の髄まで知っていると思うがな。騎士団長、貴様の役目はそいつを回復させること、ただそれだけだ。分かったな。」
男はそれを言うとどこかへ歩いて行った。ただそれを見送るだけしかギールには出来なかった。それを見ながらゆっくり英永がギールに歩いて近づいた。
「…あれは何者だ?パラドクスの…、あんたに関係しているようには見えるが。」
「あの男は…、ドルトモール・ガレア四世…皇帝だ。そしてあいつが掴んでいた…、!待て姫様は無事か⁈」
思い出したかのように慌ててギールは振り返った。姫様とギールが呼んだその人は景計に背中を預けながらペットボトルの飲み物を飲んでいた。
「…ふぅ、美味であった。この世界の飲み物も悪くない。さて自己紹介が遅れたな、私は先程の皇帝の姪にあたるドルトモール・クロマと言う。」
「姪…ですか?」
「…クロマ様はガレア四世の実の姪であり私どもの帝国の王妃を務めておられる。そうだな…、どこまで説明すれば良いものか。あまり悠長に説明している時間は無いのだ。」
少しギールが考え迷っていたその時その場に2人の人物が現れたのだ。そう陸疾と凛夏である。2人は景計の姿を見て知らない3人にやや困惑しながらこちらに駆け寄ろうとしていた。
「隊長!かなりの爆発が見えたんで加勢しに来たんですけど…。これどういう状況ですか?」
「…やべぇな、状況がカオスになって来た。カズとりあえずこの状況を何とかしろ。」
「…何とかしろって言われてもねぇ。とりあえず手短には説明するから理解してくれ。」
そこから景計からやや急ぎ気味の説明がなされた。理解出来なければ再度の説明が必要なのだが幸いそれは必要なさそうだ。
「…つまり、この人はディメンションズのリーダーの英永さんでこの人はパラドクスのリーダーのギールさん。そしてこの女の人は王妃のクロマ様であると。そして今は皇帝とか言う人がどこかへ向かっていてやばい状況ってことですか?」
「…ああ、その通りだ。」
「それで皇帝ってのはどこへ向かっているんです?」
「それは私から説明しよう。」
陸疾のその質問にクロマが反応を示した。どうやらギールでは無くクロマが答えてくれるようだ。てっきりギールから説明されると思ってギールに向いていた顔を慌ててクロマの方に向けた。
「この世界には千年後にも存在するオリハルコンと呼ばれるものがあるのだ。」
「…そのオリハルコンというのは一体何ですか?」
「オリハルコンは技能が大幅に活性化するきっかけとなった物質のことだよ。今から四百年後くらいに発見されたものだ。それは一欠片で技能を何倍も増幅させることが出来る。その原石がこの近辺に埋まっているとされているんだよ。」
「…それでその皇帝とやらは何をしようと?」
「そのオリハルコンの原石の力を使えば技能はさらに進化し…技能成熟と呼ばれる段階まで行き着くことが出来るようになるとされている。皇帝は千年前の世界を蹂躙し圧倒的な力で支配した上でオリハルコンの力で技能成熟に行き着き、世界を我が物にしようとしているのだよ。」
つまり皇帝はオリハルコンを使って誰も届かないほどの高みへ到達しすべてを上からねじ伏せ支配しようとしているという事ですね。




