第100話 パラドクスの隠し事
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「参ったな、いつ気づいた?」
「もう1人を見失った時から…だな。相手の技能が分からない以上地面への警戒を怠ってはいけない。そして相手の攻撃をただ回避するだけでなくそこから狙いを類推することが大切である。この程度の爆弾に引っかかる私ではない。」
「…なら仕方ないね。ヒデ、どうやら技能解放するしか無さそうだ。準備はいいか?」
「あぁ、俺は合わせれば良いんだろう?―技能解放―《完全予知》」
「そう、私に合わせてくれたら良いのさ。―技能解放―《次元演算術》」
景計、英永両者の技能解放が同時に発動した。その次の瞬間ギールは目の前の光景に戸惑いを覚えたのである。なにしろ2人ともほぼ同じタイミングで上空目掛けて多くの弓矢を放ったからである。それだけでは狙いなど分かるはずも無かった。
「厄介だな。ほぼ途切れなく弓矢が襲ってくる。回避出来ない事は無い…が。!」
「あんたはそれを全部回避してくる。『予知』を使わずともそれは分かるさ。」
上空からの矢を全て回避したギールの背後に大きめの石が命中したのである。ギールは油断していた訳ではない。全神経を飛んでくる矢の回避に集中させて見事にそれを全て回避して見せたのである。しかし放たれた矢の本当の狙いは仕掛けた罠を作動させることにあり、それによって全ての矢を回避したギールの死角から投石器による投石がギールを襲ったのである。
「…これは石か…?なるほど、こういう戦い方は私たちの時代には無い。仲間たちが敗北する訳だ。…だが二度同じ攻撃は通用しない。石ではなく刃物なら勝負は決まっていたかもな。」
「確かに刃物ならあなたを倒せていただろうが…。私たちは出来ればあなたを生け捕りにしたいのですよ。色々と聞きたいこともありますしね。」
景計は表情を変えることなくそう言った。色々と聞きたいことがある、その言葉の真意がギールには分からなかったが少し苦い表情が顔に出てしまっていた。
「何が聞きたいのかさっぱり分からないな。…果たして君たちがそれを知って何になるんだい?」
「やはり…何か裏があるようだね。ヒデ、何か『予知』出来たかい?」
景計は後ろの英永を振り返った。特に英永はギールから攻撃も貰っていないはずだが何やら表情が少し青みがかっていた。
「…何だこれは。人間が出来ることなのか?」
「…?何を『予知』したんだ?」
英永のただならぬ表情に景計は少し焦りを覚えた。それを見たギールは満足そうな顔を浮かべて2人に近づいて来たのだ。
「なるほど、確かに人間が出来ることでは無いかもしれないな。私の技能開花はその攻撃範囲も!それにより発生する爆風も!…その全てが技能解放を遥かに凌駕する。」
言いながらギールの背後には白く巨大な湯気のようなものが見えていた。もしこれが爆発し爆風を放つならその威力は凄まじいものになるだろう。
「刮目せよ。―技能開花―《爆煙蒸気・零式》」
その瞬間ギールの後方から大きな轟音を放ちながら凄まじい爆風が巻き起こった。辛うじて踏ん張って耐えられたものの次に来るであろう追撃を回避する事は出来そうに無かった。技能解放の《蒸気爆風》でさえかなりの身体能力の向上であったのだ。《爆煙蒸気・零式》の身体能力の向上は想像を絶する。
「これは…ちょっとやばそうだな。ヒデ、『予知』したのはこれかい?」
「悠長に喋る余裕は無いぞ!」
最早目視不可能なレベルの移動で一気に距離を詰めたギールは英永の腹部を思い切り殴り飛ばした。当然のように着ていたチョッキが貫通してしまうかと思われる衝撃が英永を襲った。チョッキがかなり衝撃を吸収してくれていたため幸いにも英永は吹っ飛ばされることなく地面には立っていた。しかし2度は受けられそうには無かった。英永の表情は未だ青みがかっている。
「ヒデ!なぜ回避しようとしない!」
「少なくとも…目で反応して回避は不可能だろうな。そして分かっていたとしても避けられるものでは無い。君たちの会話からも発動させた技能解放の名前からも彼の技能は『予知』、…そうだろう?だから狙わせてもらったよ。回避などは出来ないことを悟らせるためにね。彼の言うように最早この技能開花は人間が出来ることからかなり離れていると言えるだろう。…さて、『予知』の君に聞こうか。君に君たちの勝利が『予知』出来たかい?」
やはりパラドクスのリーダーであるギールは相当の実力の持ち主である。生け捕りなど目指さずに最初から命を狙っていれば結果は変わっていたかもしれない。そんな後悔が景計の頭には浮かんでいた。丈と組み立てた作戦はあくまで『予知』で相手をある程度対処するのが前提であった。『予知』では対処出来なかったかと景計が後悔していると英永が口を開いた。
「…回避をするのが無駄に思えてな。…さっき俺が『予知』したのは、あんたの技能開花で俺やカズ、丈の…誰でもねぇ誰かを攻撃しようとして、…すぐに返り討ちに遭う場面だ。あんたの技能開花が凄まじいのはこうして食らわずとも見れば分かる。…だがあれは…誰だ?」
「…?何を言って?私の技能開花が届かない相手…だと?そんなものこの世界に存在するはずがない。存在するとすれば皇…。まさか!」
前話でギール自身が言っていたように彼はパラドクスのリーダーであり帝国騎士団長でもあります。そしてパラドクスの実態はとある目的のために帝国騎士団で構成される集団なのです。さて英永の『予知』で見た人物は一体誰なんでしょうか。




