一般人、選択する。
え・・?
さっきまでクロさんと一緒にいたのに・・、何処へ行ったんだろう?
と、向こうにクロさんの姿があった。
「クロさん!」
駆け寄ろうとするけれど、走っても前へ進めない・・?え、なんで?どうして??周囲を見渡して、なんとか前へ進もうとするけど、見えない壁がある?
「・・このまま、あっちへ行け」
指差すと、白い淡い光が点滅するように光っている。
「・・あっちは、何があるんですか?」
「お前の世界だ」
「・・・・・・え・・・?」
急にガンと頭を強く殴られたような錯覚に落ちる。
「こっちは危険だ。ノアルと、ティナが道を開いてくれたから、そっちへ戻れ」
「な、なんで・・・」
「・・・お前を守れない・・」
クロさんが、悔しそうに私を見る。
「今なら戻れるから、行け」
「だって、クロさんは?!そっちで・・・」
私と一緒にいる時、嬉しそうに笑ってた。
好きだって言った時、同じように顔を赤くしてたクロさんが・・・、一人になるの?
大神様に、「帰す」って言われた時、辛そうにしていたのに?
ここへ来るまで、クロさんはずっと心配してた・・、自分よりも私も。
「どうして・・・・」
ボロボロと涙が溢れた。
どうして、そんなに優しいんですか・・、どうして人の事ばっかり。
「・・たえ、本当に危険なんだ・・」
「嫌です!ど、どうして・・一人でそう抱えて・・・、確かに私は何もできませんけど・・」
クロさんの所へ行きたいのに、足が一歩も前に進まない。
涙をなんとかしたくて、目元をゴシゴシと擦る。
私が帰ったら、辛い顔・・するくせに。
絶対、するくせに・・・。
何もできない自分が悔しい・・、助けにもならない。足手纏いな自分が嫌だ。
「たえ、頼む・・」
クロさんの辛そうな顔を見て、胸が痛い。
ズキズキする。
どうしてそんなこと言うの?どうして帰るなんて言うと思ったの?
「・・・こんなに好きにさせておいて、ひどいです・・」
クロさんの顔が見られない。
見てしまったら、もっと泣いてしまう。
帰れって言うけど、帰りたくない。クロさんの側にいたいのに。
何もできないけど・・、危険かもしれないけど。
バッグの中が淡く光る気配がして、目をこすって花の栞を出した。
花は、小さく光ると私の前に小さな光の粒になって、クロさんの方へ飛んでいく。私はその光の方へ歩いていくと、クロさんが慌てて、
「ダメだ、こっちへ来るな!帰れなくなる」
私は構わず光の方へついていく。
そうして、見えない壁・・クロさんの真ん前まで来た。光の粒がふわふわと飛んで、クロさんの顔を照らす。
クロさんを見上げると、辛そうな顔で私を見る。
「・・・何も出来ないかもしれないけど、クロさんの側に居させて下さい」
「・・ダメだ・・、本当に」
「私がクロさんの事、大好きでも?」
「・・・好きだから・・・」
そっと見えない壁に触れる。
「何かあっても、私がクロさんを好きな事はずっと変わりません」
「だけど・・・」
ずっと・・、ずっと見守ってくれたのに、二人きりになったら嬉しそうに尻尾を揺らしてたのに・・。自分じゃないんだよね・・クロさんは、ずっと人の事ばかりだ。
光の粒はふわふわと飛んで、クロさんの体を包むと
グイッと壁の前へ体を押す。
「え?・・あ!」
壁を通り抜けたクロさんが、呆然として私を見る。
私はすかさず抱きついた。
「・・・クロさんといます!!!離れません!」
「・・・たえ」
クロさんが、躊躇いながらそっと腕を回す。
「・・・・たえ」
低い声が私を愛しそうに呼ぶ。それだけでまた涙が出る。
私はそれに応えるようにぎゅっと腕に力を込める。
顔を見上げると、嬉しそうなのに、泣きそうな顔だ。
私は背伸びをしてキスをすると、クロさんは驚いた顔をして、そうして柔らかく笑った。
その時、持っていたバッグがキラキラ光って、そちらを見ると、バッグの中から金色の羽が出てきた。
あれ?これ・・祭壇にのせたノアルさんの羽だよね?なんで、バッグに?
バッグから突然羽が出てきたかと思うと、
リン・・と、どこかで鈴の音がする。
そうして、静かな声で、
『お家へ、二人で帰りなさいな』
そんな声が聞こえた瞬間、金色の羽が光って、ゴォっと足元から突き上げるような大きな音がして気がつくと、二人でスミさんの神殿の前に立っていた。




