一般人、駆け出す。
寝ている自分を、誰かが見ている気がする。
見ている人の気配が優しくて、その人がそっと私の髪を撫でる。
手が、大きくて温かいな・・ああ、これクロさんの手みたいだ・・。
「クロさん・・」
ポツリと声に出した気がする。
そっと瞼を開けると、朝日がテントに差し込んでいる。
私は、さっと体を起こしてバッグを肩にかける。
トト君も私の起きた気配で体を起こして、私を見る。
「今日をまず乗り切りましょう!」
「うん」
明日の事を心配すると、キリがない。ひとまず、一番危険な今日を乗り切る!
スミさんがテントにやって来て、すぐに奥神殿へと向かう。
「・・・あ!」
トト君の声にドキッとして、前を見ると奥神殿の扉の前に、大神様が降りてきた。
「迎えに来たよ〜」
のんきそうな声で言うけど、結構です!!大神様は、金色の着物のような服をゆったり着て、ニコニコ笑う。スミさんは、私の前に立って大神様を睨む。
「こちらは私の神殿ですよ?ここで無礼を働く事はなりません!!」
「僕と対だからって、随分偉そうだね」
大神様は、スミさんの前に手をかざす。
その瞬間、バチバチと音が鳴って、白い光と金色の光が雷のようにぶつかり合う。
「トト!!」
「はい!!」
スミさんが叫んで、トト君が私の手を繋ぐと転移した。
あ、スミさんの神殿?
「すみません!僕だと、何度か転移しないと遠くへ行けないんです・・、もう一度・・」
そうトト君が言った途端、大神様が目の前にやってきた。
え、スミさんは?!
「ふふ、可笑しい顔」
にっこり笑って、大神様の手がこちらへ伸びてくる。
咄嗟にトト君を庇う。
「たえ!!!」
大きな白い光の輪が空中に浮かんだ途端、大神様の前を塞ぐ。
聞き覚えのある声がして、トト君と一緒に見るとクロさんが立っていた。
「クロさん!!」
トト君と駆け出そうとすると、大神様が私の手首を掴む。
「やめて!!離して!!!」
バッグから栞を投げると、バチンと音がして大神様の手が弾かれた。
足がもつれるけど、クロさんに手を伸ばすと、水が私の手首を掴んでそのままクロさんの胸に引き寄せられた。
「クロさん・・!!」
クロさんが嬉しそうにこちらを見ると、私をぎゅっと抱きしめる。
良かった・・、やっと会えた・・。
大神様はそれをつまらなそうに見て、指を上げるけれど
バチンと、両側から光の縄のようなものが、大神様の手首に巻かれる。
「え?!」
両側の光の方向を見ると、ティナさんとノアルさんが、光の縄を持って大神様の動きをギリギリと止めている。
「クロ!奥神殿へ行け!例のあれを使え!!」
ノアルさんがそう叫ぶと、クロさんは私を抱きしめたまま転移する。
スミさんは、私達を見ると奥神殿の扉を開ける。
「頑張って!」
「すまねぇ!!」
バタンとドアが閉まって、何がなんだかわからない私は呆然とする。
「く、クロさん・・、なんで・・ここ、一緒・・、いいんですか?」
「おぅ・・」
汗を拭って、息が上がった様子のクロさんは私をぎゅっと抱きしめた。
「無事で、良かった・・・」
「・・な・・」
なんで、こんな時までクロさんは、人の事を心配ばかりするんだろう・・。
思わずぼろっと涙が出てきて、ぎゅっと抱きしめ返した。
「クロさんも・・良かったです・・」
「おぅ・・・」
クロさんは、ゆっくり私の頭を撫でてくれた・・。あ、やっぱり朝のクロさんだったのかも・・そう思ったら、嬉しくなった。
クロさんはそっと体を離すと、
「ノアルから、羽貰ってたよな?」
「あ、はい」
金色の羽を出すと、クロさんはそれを奥神殿の祭壇にそっと置いて、私をじっと見つめた。
「・・・手を、」
「あ、はい・・」
クロさんの手を繋ぐと、クロさんは手から淡い光が出て羽が大きく光った。
あまりの眩しさに堪らず目を瞑ると、真っ暗な世界に一人で立っていた。




