一般人、また?!
なぜかクロさんが私のベッドの上にいた。
なぜだ。
神様だとしても、女子の部屋に断りもせず入るのは、どうかと思う・・・。まぁ、いきなり自分のものにしようとする大神様とかは論外だけど。
そっと、洗面所の扉を開けて、ベッドの上を確認するとクロさんはいなかった・・。部屋を出て行ってくれたのかな・・?ホッとした気持ちと、ちょっと残念な気持ちもあって・・、残念と思った方は、ちょっと手でパタパタと避けておいた。
静かに扉から出て、もう一度部屋を見ると誰もいなかった。
うん、良かった。
ベッドの上を見ると、バッグの中に入っていた栞が散らばっていて、腰掛けてなんとなしに裏を見ると、何か書いてある。
触れないようにする
姿を隠す
弾く
「・・・これ、護符の効果かな?」
栞の後ろに、ただし、一回のみ・・とも書いてある。
聞きたかった事を書いていてくれたんだ・・、さり気ない優しさに胸が暖かくなる。・・何かあったら、大事に使わないとだ。栞をそっと束ねて、バッグにしまう。
「枕元に置いておいた方がいいかな・・」
自分の枕元に置いて、ようやく安心した。
・・何ができるか分からない・・。それでも、ちょっとだけ対策ができてホッとした。
次のお祭りの時は、部屋に篭っていた方がいいかな・・、色々考えていると「ミ」と、声がしたのでベッドの下を見ると、ククがいた。
「あれ?クク??」
クロさん・・・?クク・・・??
いや、もうこの際、クロさんでなければ大丈夫だ。
ククは、ひょいとベッドに乗って、私の枕元に来ると、いつものように寝っ転がった。
「んーーー・・・、まぁいっか」
私もククと一緒に寝っ転がって、ククの首の下を撫でる。ゴロゴロと喉が鳴って可愛い。クロさんも、これくらい見た目が可愛いといいんだけど・・、なにせムキムキでオラオラで、甘いんだもん・・。
「クク、来てくれてありがとね。お休み」
そう言って、目を閉じるとククも静かになった。
うん、ひとまず眠って明日に備えよう!
瞼を閉じて、ウトウトしていると・・、
ズズン・・
大きな音がした。
ぱちっと目が開いて、ガバッと体を起こすと、ククはさっとベッドから降りて窓の外を見る。
な、何??
バッグをすぐに肩に掛けて、ベッドから降りて、窓の方を見ると、庭園の真ん中に真っ黒でドロドロに汚れた人が立っている。
クロさんの方へ行こうと思って、クローゼットに向かおうとするとクロさんが先に入ってきた。
「クロさん!!」
「たえ!こっちへ」
クロさんは素早く私の体を抱きしめると、水が体を包んだ。
あ、転移!そう思った瞬間、違う部屋へ転移した。
「ここ・・・」
「奥神殿だ。緊急事態だからな」
周囲を見ると、前に祭壇のようなものがあって、両面の壁から滝のように水が流れて、一段低くなっている四角い浅いプールのような場所に流れている。
「とりあえず、穢れを祓ってくるから、お前はここにいろ。絶対に出てくるな」
「は、はい・・・」
青ざめた顔で、頷くとクロさんは少し辛そうな顔で私をぎゅっと抱きしめると、そっと離して転移して行った。
まさか・・、昨日の今日で・・もう来たの?
震える体を何とか落ち着けようとする。
ふと目の前の祭壇が見えて、思わず駆け寄る。
柏手だっけ?パンパンと手を二回打って、
「クロさんを守ってください!あと、大神様が酷いんで、どうにかして下さい!」
思わずお願いしちゃった。
だって、いきなり襲ってこようとする神様だよ?
守ろうとしてくれるクロさんが、下っ端・・なのが納得できない!ただ、私を守りたいからって神様になったんですよ?優しいですよ?それなのに半獣だからとか、醜いから・・とか、納得できません!!と、手を合わせながら、文句を言っちゃったよ・・。
と、扉の方からノックする音が聞こえた。
「たえさん?トトです!こっちへ逃げます!!」
「トト君?」
慌てて扉を開けた。
目の前にいたのは、トト君でなくて、ニタリと笑った大神様だった。




