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第93話「サタナスと宿屋」

 しばらくして、建物の中に避難した人達が外に出てきて、街は元の賑やかさを取り戻す。

 路地は活気に溢れていて、屋台からは呼び込みの大きな声が左右から飛び交う。


 そのままだと注目を浴びてしまう銀髪を、ソラは黒いコートに付いているフードを被ることで完全に隠した。


 とりあえずオレ達は少女を連れて、少し移動して目立たなそうな裏路地に入って陣取る。


 三人の視線は、一人の少女に向けられた。


 赤髪に金色の瞳、小麦色の肌に真っ赤なワンピースを身に纏う少女サタナス。


 ソラの〈洞察〉スキルですら詳細を視る事のできない特殊な少女は、まだ少しだけ怯えた様子でこちらを見ている。

 一応危害を加えるつもりはない意思表示として、武装は解除しているのだが、ここまで怯えられると胸が痛い。

 年齢が一番近いクロが話しかけようとすると、彼女はビクッとなり一歩だけ後ろに下がった。

 これは下手に刺激したら、この場から逃げそうな気がする。


 アリスは腕組をして何か考え事をしているし、ここはやはり天使長様の力を持つオレが対応するしかないか。

 というわけで三人を代表してソラが前に出る。先ずは腰を落として視線を合わせ、小さな少女を怖がらせないように慎重になって質問をした。


「ここまで一緒に来た女の人は、どこにいったんだ?」


「わからない。やることがあるからって、謝ってた……」


「……その人は、サタナスのお姉さん?」


「ううん、知らない人。でもここにいたら天使様にあえるって言ってた」


 知らない人なのに、彼女を此処まで連れてきて更にはオレが来る事まで予見していた。

 恐らくは、何らかのお助けキャラ的な存在だろう。

 クエストを進めたら、その内会えたりするのか。

 興味深い話ではあるが女の人について更に聞いてみると、サタナスは知らない分からないと言って、それ以上の情報を聞き出す事は出来なかった。


「分かった、それなら質問を変えようか。サタナスが目を覚ましたのは、違う街なのか」


「ううん、ちがうよ。目をさましたのは、大きな火口のまえだよ」


「大きな火口の前?」


「この溶岩地帯で大きな火口といえば一つしかないわ。かつて魔竜王を封印したといわれる〈エリ火山〉よ」


「ま、魔竜王を封印した火山……」


 アリスの言葉に対して、オレは額にびっしり汗を浮かべる。


 何か情報を並べただけでも、この子はとんでもない存在なのではないかと思った。


 このタイミングで現れた、正体不明の少女サタナス。


 両親はいなく、謎の女の人に連れられて此処までやってきて、更にその人はオレが此処に来ることを知っていた。


 サタナスが目を覚ましたのは、魔竜王が封印されている大火山の側。オマケに襲撃した〈レッサードラゴン〉が何か探していた様子から推測するに、奴らの狙いは間違いなく彼女だと思われる。


 まだ確定ではないが、最悪は彼女が魔竜王の可能性があるし、もしくは封印に関係する何かなのか。


 どちらにしてもサタナスという存在が今後、竜王のクエストにおいて何らかのキーパーソンになるのは間違いない。


 現状で出来る最善の選択肢は、彼女の身柄を確保して、常に側に置いておくこと。


 ソラは二人に魔竜王と封印の件を伏せて、このまま小さな女の子を、たった一人で放置することはできないと伝える。


 するとクロが快く頷いて、考え事をしていたアリスも渋々(しぶしぶ)といった感じだったが、了承してくれた。


「というわけで、サタナスが良ければオレ達と一緒に行動しないか」


「良いの? サタナスと一緒にいると、ドラゴンにおそわれるよ?」


 ドラゴンに襲われるか。


 襲撃に対して自覚のないタイプだと思っていたのだが、幼い見た目によらず賢いみたいだ。


 不安そうな顔をする彼女に対して、ソラは右手で軽く自身の胸を打つと自信満々に答えた。


「心配するな、オレはこう見えても世界最強の冒険者って言われてるからな」


「そんなソラのパートナーのわたしは、世界二位の冒険者だよ」


「冒険者さま……」


 少女はソラとクロの顔を交互に見ると、笑顔で頷いた。


「うん、わかった。サタナス、お兄ちゃん達といっしょにいる!」


「!?」


 サタナスの口から出た言葉に、ソラは思わず自分の耳を疑った。


「お兄ちゃん、だと……!?」


「違うの?」


「いや、合ってるんだけど……。今のオレってサタナスから見て、男に見えるか?」 


「うん、男の人と同じ青色の魔力が見えるよ」


 青色の魔力とは一体。


 そんなMPを可視化したモノは、オレの強化された〈洞察Ⅱ〉のスキルでも見ることはできない。


 もしかすると、サタナス固有のスキルなんだろうか。


 ソラが思案していると、眼の前に一つのユニーク・サブクエストが表示された。


 そのタイトルは【竜の少女と真紅の指輪】というもの。


 間違いなく、オレが精霊の森からずっと継続して受けている【四聖の指輪物語】に関係するクエストだと思われる。


 強制的にクエストの受注が行われると、内容に目を通したソラは苦々しい顔をした。


 何故ならば、そこに記されていたのはオレが最も苦手とするクエスト【サタナスの護衛】だったから。


 期間は、20日間。

 彼女の護衛をしながら、竜王のクエストを同時に行う試練が始まった。





◆  ◆  ◆





 とりあえず一旦ログアウトする事を決めると、サタナスを守る事を視野に入れて、ソラ達は宿屋に泊まる事になった。


 何故ならば、宿屋の個室はこの世界で最も安全な領域であり、エルを支払ってしまえば例え宿屋の所有者であるNPCでも決められた期日まで立ち入る事はできない。


 そんなこんながあって、場所は変わり〈エウクレイア〉の街のど真ん中辺りにある、王家御用達の温泉付き高級宿屋。


 外観は宿屋というよりは、大きなホテルみたいで、入り口も5人くらいが横並びで入れそうなくらいに広い。


 利用できるのは、竜人族の宿屋を継続的に利用して、ゴールドカードにまで登り詰めた者か王家の者だけ。


 その仕様の為に、普段から宿屋を利用する事がないソラとクロは、本来は入る事はできない場所だ。


 王家の者だけが所持している、竜の家紋が刻まれたゴールドカードを持つアリスが、入り口で警備している竜人族の兵士に話をした後その横を通る。


 これは、ついて行って良いのだろうか。


 少しだけ躊躇ちゅうちょするソラ達を、アリスが振り返って手招く。


 クロと顔を見合わせたオレは、サタナスの小さな手を引いて兵士の横を通る。


 最初に通ったクロには笑顔を向けて、次に小さなサタナスを見た彼の表情は、良いものではなかった。


 例えるならば、まるで汚い物を見るような感じだ。

 それはここに来るまでに、何度も感じていたのと全く同じ、自分達を害するモノに向けるような敵意の視線である。


 彼はオレとサタナスが通ろうとすると、


「すみませんが、来店される際にはフードを脱いでもらっても宜しいでしょうか」


 と言って、通せん坊をする。


 仕方ないのでソラがフードを脱いで素顔を見せると、陽の光を浴びて銀色に輝く髪を見た兵士は、ギョッとした顔をした。


「て、天使長様……!?」


 この世界のNPCの殆どが、オレを見た時の定番となっているコメントをくれると、彼は「これは失礼しました!」と土下座をしそうな勢いで謝罪。


 慌てた様子で道を開ける。


 彼に対してソラは無反応で、サタナスの肩に手を置いて中に入るとアリスとクロとカウンターに向かった。


 一番良い部屋の宿泊代は、たった一日でお一人様100万エルとボッタクリのような金額設定で、完全に趣味の世界である。


 四人分の支払いは全てアリスがして、カギを貰うとオレ達は螺旋らせん階段を使って、最上階にあるスイートルームに向かう。


「こ、こわいよぉ」


 階段の転落防止用の手すりの隙間から下を覗いた少女が、怯えてソラの腰にしがみつく。


 オレは頭を撫でて「大丈夫だよ」と言ってあげると、彼女の手をしっかり握ってあげる。


 それから少し歩いて、目的の部屋に着く。

 アリスが鍵を開けて中に入り、ソラ達は後に続いて入った。


 金額に見合うだけの大きな部屋は、中々に圧巻である。

 最初は金額にドン引きしていたクロも、中に入ると物珍しそうに部屋中を見回っていた。


「ここはお風呂も中々でして、一階にある大浴場は大陸中でも名スポットの一つなのよ」


「ソラ、後で行ってみよう!」


「こらこら、ナチュラルにオレを誘うんじゃない。っていうか、現実で風呂に入ったばっかだろ」


「でも温泉だよ?」


「ここには温泉に入りに来たんじゃなくて、ログアウトしに来たんだ」


 そう言ってメニュー画面を開こうとすると、少しだけしょんぼりするクロに加勢するように、サタナスとアリスが言った。


「サタナス、天使様と温泉入りたい!」


「そ、それなら、みんなで入りましょう。確か今の時間の温泉には、回数付きの金運アップの効能があったはずよ」


「な、き、金運アップ……!?」


 聞き捨てならない言葉に、ソラがあっさりホイホイされると、アリスがニヤリと笑う。


「確かよく会うレッサードラゴンとかだと、倒した時に10万エルは貰えるわね」


「じ、じじ10万も!?」


「でもソラ様はご一緒できないのよね。残念だわ。入るパーティーの人数が多ければ、金運アップの回数はその分増えるのに」


「ぐ、ぐぅぅ……」


 つまりこのメンバーだと最大4回。


 〈レッサードラゴン〉換算だと40万エルも入ってくる計算になる。


 小悪魔的な笑みを浮べて、アリスはクロとサタナスの三人で部屋を出ていこうとする。


 ソラは少し迷った後に、


「お、オレも、お嬢さん方と御一緒させて下さい!」


 と、我ながら実に情けないお願い事をした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] この章をありがとうw
[気になる点] パーティー組めばレベルを上げやすいなら知り合いと組んでレベルを上げれば良いのに何故かやらない。 [一言] 先々でするのか知らないけどモヤモヤしますね。
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