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第90話「ファフニール城」

 城の門まで着くと、そこでソラ達は馬車を降りて中に入る。


 すると先ず目の前に広がっていたのは、東京ドーム10個分ほどの巨大な、ファフニール庭園だった。


 常日頃から庭師によって、丁寧に整えられているのが分かるほどに、植木や生け垣が一種の芸術品のようにオレ達を迎えてくれる。


 庭師は風の精霊の女性らしく、仲が良いのかアリスが庭師の腕前を自慢するように、説明しながら歩くこと30分。


 巡回する多数の兵士達を尻目に、庭園エリアに踏み込む段階で見えていた50メートル以上の巨大な建造物、ファフニール城の間近まで来た。


 城の作りとしては、ファンタジーゲームの定番ネタであるヨーロッパの城の外観で、壁は白で屋根は派手な赤色。

 窓は沢山あり、全面から見える限りでも40箇所くらいはある。


 遠目からソラの〈洞察Ⅱ〉スキルが見抜いた城の防御力は当然のSランク。


 〈リヴァイアサン〉の必殺スキルでなければ、アレに傷を付けるのは不可能だろう。


 そのままアリスと共に、大きな扉を守る大柄な兵士の横を通って、三人は城の中に入った。


 先ず踏み込んだのは、大理石のように輝く石造りの広いメインホール。

 左右に通路があり、奥には2階に上がるための階段が見える。


 右の通路は道具屋とスキルショップがあって、左の通路には彼女達王族のお抱えの鍛冶職人と神殿の〈大司祭〉がいるとアリスは説明してくれた。


 鍛冶職人と〈大司祭〉がいるのかは分からないが、普通のお城では絶対に存在しない道具屋とスキルショップに、ソラはクロと顔を見合わせて苦笑する。


「お城のスキルショップかぁ、街にあるショップとラインナップは変わらないのかな」


「わたし昨日は忙しかったから、スキルショップまだ一度も見てない」


「お、それなら後で見に行ってみるか」


「うん!」


 お城の中にあるというスキルショップが、どんな品揃えをしているのかには興味がある。


 もしかしたら、レアなスキルとかが売っているかもしれない。


 後でクロと見に行く事を心に決めると、ソラは先導するアリスについていく。

 

 城の中はとても広く、基本的には長い通路と長い階段を移動するだけの、実につまらないものだった。


 ようやく王の間っぽい、大きな扉の前に到着すると、玉座には一人の男性が静かに座っていた。


 髪はアリスと同じ真紅で、瞳は宝石のような深い輝きを秘めた金色。

 頭からは角が生えていて、臀部あたりからはトカゲのような尻尾が生えている。


 見た目の年齢は三十代くらいだけど、こちらも竜人族だと考えれば、確実にそれの倍以上の年齢であることは間違いない。


 身に纏っているのは、よく見かけるヨーロッパの王族衣装で、上は赤色を基調としてズボンは真っ白なものをチョイスしている。


 アレがこの国の……。


 半分くらいまで歩いたところで足を止めると、アリスは頂きに座す真紅の髪の男性を見て、こう言った。


「父上、冒険者ソラ様と冒険者クロ様をお連れしました」


「おお、アリス。よくぞ連れてきてくれた」


 玉座に座っていた男性は立ち上がると、側に控えていた執事から装飾を施された細剣を受け取り、ゆっくりとソラ達に歩み寄る。


 念の為に〈洞察Ⅱ〉を発動して彼の事を見ると、そこにはこう表示されていた。


 〈竜王〉オッテル・ファフニール。


 【レベル】100。


 【職業】竜騎士。


 黒騎士のハルトと同じように、彼の職業も神殿の初期選択肢にはないものだ。


 一体どうやって入手するのか、その方法は未だに分かっていない。


 以前にハルトに尋ねたことがあるけど、彼もどうやって〈黒騎士〉を入手したのか覚えていなくて、実に申し訳無さそうな顔をしていた。


 そんな事を考えていると、オッテルが無言で細剣を鞘から抜き放つ。


 ……うん?


 経験則から、なんだか嫌な予感がした直後の事であった。

 オッテルが地面を蹴ると、先程アリスが使った技と同じ細剣突進技〈ソニックピアス〉を発動。


 残像すら発生させる程の速度で急接近してきた彼は技をキャンセルして、そのまま突き技〈リニアピアス〉を放ってきた。


 アリスとは、比較にならない程の速度と鋭さ。


 狙いが心臓であることを、彼の視線から察知したソラは、直撃を貰えば一撃でHPを削り切られそうな必殺の突き技に対して抜刀。


 紙一重で〈ソードガードⅣ〉を発動して〈リニアピアス〉をこれ以上ないタイミングで横から叩く。


「く……ッ」


 流石は、レベル100。


 攻撃スキルでブーストしているとはいえ、細剣とは思えない程に一撃が重い。


 このままでは押し切られる。


 そう思ったソラは〈付与魔術士〉としての力を行使した。


 鋭く息を吐き、使用できるだけのMPを消費して〈攻撃力上昇Ⅲ〉を自身に付与。

 超強化された力を以て〈リニアピアス〉を強引に上に流した。


「なんと!?」


 受け流されるとは、思っていなかったのだろう。


 姿勢が崩れたオッテルは、信じられないと言わんばかりに、目を大きく見開く。


 仕掛けてきたのはあっちだ、容赦する必要はない。 


 次はこっちの番だと、ソラは素早く剣を左下段に構えて最も威力のあるスキル〈レイジスラントⅢ〉を選択する。


「ハッ!」


 左足を軸に踏ん張り、右足を前に踏み込んで生まれた力を余すことなく変換。


 下段から上段に、刃を振り上げる。


 狙いはオッテルではない。


 彼の持つ細剣を狙って放たれた鋭い斬撃は、竜王のメイン武器を、その手から弾き飛ばした。


「なんとぉ!?」


 ランクAの王家の細剣は、上空をクルクルと回った後に、二人から離れた所の赤い絨毯じゅうたんかれた床に突き刺さる。


 シーン、と静まる玉座の間。


 硬直時間短縮のスキルによって、20秒から10秒間に半減したスキル硬直が解けると。


 剣を鞘に収め、ソラは相手に伝わるように、わざとらしく大きな溜め息を吐いた。


「まったく、竜人の王族っていうのは、親子揃って人を試すのが好きなのか?」


 目を細めて、オッテルを睨みつける。


 彼はソラの視線を受けながら、剣を弾き飛ばされた衝撃で〈麻痺パラライシス〉状態になっている自分の右手を見て、嬉しそうな顔をした。


「ハハハハハ! すまんすまん、強い者を見るとどうも血がたぎってしまってな! まさか受け流されるだけではなく、そこから剣を弾き飛ばされるとは思いもしなかったぞ!」


 どうやら竜人族というのは、やたら好戦的な種族らしい。

 呆れた顔をすると、彼は頭を下げて謝罪をした。


「しかし、これ程の強さなら問題はないな。冒険者ソラ殿、是非ともその御力で我々の危機をお助けください」





◆  ◆  ◆





 竜王達を悩ませている問題というのは、ここのところ王国の外にある村を〈レッサードラゴン〉の変異体が襲撃する事件が頻発している事だった。


 しかも変異体は〈グレータードラゴン〉以上の強さで、先日討伐に向かった騎士隊が返り討ちにされたらしい。


 そこで選ばれたのが先日の緊急クエストで〈グレータードラゴン〉を倒した、三人の冒険者の一人であるオレだ。


 他の二人は、このエリアにはいないので諦めたと、竜王オッテルは苦笑した。


 話が終わると、ソラの眼の前には一つのクエストが表示される。


 【変異竜の討伐】


 【クエスト達成条件】レッサードラゴン亜種の討伐。


 【報酬】50万エル


 報酬の金額を見たソラは、思わず二度見した。


 ご、50万エルだと?


 個人が受けるクエストとしては、過去最高の数値にテンションが上がってしまう。


 今の所持エルは80万程なので、このクエストを達成したら合計で130万エルになる。


 この城のスキルショップがどれ程のお値段なのかは知らないが、他のプレイヤーが入り込めない場所だ。


 エルはいくらあっても困ることは無い。


「引き受けてくれるか、冒険者ソラ」


 と、真面目な顔をするオッテル。


 高額の報酬に満面の笑みを浮かべたオレは、二つ返事でクエスト開始の【Yes】をタッチするのだった。


 

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