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第8話「スキルポイント」

 部屋に戻ると蒼空はベッドの上に置いてあるVRヘッドギアを手に取り、頭に被った。

 基本的に充電アダプターに繋げっぱなしなので、バッテリー残量を気にする必要はない。

 被ることで電源が自動で入ると、蒼空は仮想空間に入るための言葉ワードを口にした。


「ゲームスタート!」


 性転換した状態でちゃんとVRヘッドギアの脳波認証が認識してくれるか心配だったが、普通に認証されると脳に接続されて仮想空間が目の前に広がる。

 現実の上條蒼空の身体はベッドの上に寝たまま、意識は再び冒険者のソラとして王都ユグドラシルの大地に降り立った。


 とりあえず戻ってくることは出来たか。


 頬を撫でる風。

 靴で踏みしめる石畳いしだたみの硬い感触。

 お昼時という事もあり、風に運ばれてきた肉を焼いたような香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。

 確かこのゲームは〈料理〉もできると一部の人達の話題になっていた。

 仮想空間で味覚の実現は難しいと聞いていたが、この香りから推察するに期待できるのではないか。

 こうしていると、先程リアルで昼飯を食べたというのにまたお腹が空いてきてしまいそうだ。

 ソラは頭を左右に振って湧き上がってきた食欲を振り払うと、先ず自分の身体をチェックする事にした。


 まぁ、変わるわけないよな。


 当然のことながら、仮想空間の自分の身体は呪いによって性転換したままだ。

 上下の装備は初期の状態で、腰に下げているのは少女の身体にはちょっとだけ大きいノーマルソード。

 長い銀髪を手に取り、ソラは苦々しい表情を浮かべる。

 やはり魔王を倒すしか道はないのか。

 それ以外で解呪する方法が、この世界のどこかにあるのか。

 どちらにしても、今やるべきことはレベルを上げて装備を整えて強くなるしかないのだ。

 どんなに難しいゲームだろうとクリアしてきたソラは、不敵の笑みを浮かべて周囲の確認をした。

 当然のことながら、ここは寸分違わず最後にログアウトした神殿の前だ。

 チラリと扉が開きっぱなしの神殿の中を一瞥すると、他の新人の冒険者が職業を設定している様子。

 それ以外で特筆すべき事はなく、どれだけ探してもシンとロウの姿は見当たらない。

 どうやら二人共、まだログインをしていないようだ。

 シンはともかく、真面目でしっかりしているロウが時間が来ても姿を現さないのはとても珍しい。

 しかしただ突っ立っていても仕方ないので、ログインする前にスマホで自分のアカウントに飛ばしたメールを開き、そこから妹のフレンドコードをコピーする。

 ステータス画面を開いてフレンド枠をタッチすると、検索の中にコードを入力するところを発見。

 コピーしたコードを貼り付けて、検索を開始した。

 すると一件のプレイヤーが表示される。


 【冒険者】シオ

 【レベル】13

 【クラン名】宵闇よいやみ狩人かりゅうど

 【現在ログアウト中】


 ふむ、名前はいつもの自分の名前を削ったものか。

 レベルはトッププレイヤーと言っていたので納得の高さである。

 流石に此処からでは使っている武器の種類とか、どんな職業なのかは見えないようだ。

 それとなんかやたらカッコイイ名前のクランだな、とソラは思った。


 えーと、フレンド申請を飛ばして……これで良いのかな?


 タイムラグは全くなく僅か一秒で申請完了しました、と表示される。

 ソラはそのまま近くのベンチに腰掛けると、ステータス画面を開いたままスキル欄を開きユニークスキルの〈ルシフェル〉をタッチした。


 さて、どんなスキルなのかな。


 今度はちゃんと忘れずに確認するソラ。

 目の前の透明な画面に、ユニークスキルの内容が表示される。


 ユニークスキル〈ルシフェル〉。

 天命残数を1消費する事で〈堕天化〉が可能。

 天使の加護により、スキルポイントの取得が4倍化する。


「よ、よん倍……!?」


 いや、ヤバいだろこれ。

 天命残数とやらを消費する〈堕天化〉はよく分からないから置いておくが、その次の効果は誰が聞いても凄いとしか言えない程の代物だった。

 正直に言って、魔王と戦って一気にレベルアップしたことが些細な事に思える。

 それくらいに〈ルシフェル〉がもたらす獲得スキルポイントの4倍化はチートすぎた。


 だって、これがあれば……。


 受けた衝撃から立ち直る事が出来ないまま、ソラはスキル欄を閉じてステータス画面の職業〈付与魔術師エンチャンター〉をタッチした。


――――――――――――――――――――――――


 【職業】付与魔術師エンチャンター

 【スキルレベル】1

 【補助スキル】火属性付与

 【補助スキル】水属性付与

 【補助スキル】風属性付与

 【補助スキル】土属性付与


 【スキルポイント】残数230


――――――――――――――――――――――――


 サポートシステム曰く、この残230という数字はレベルが1上がるごとに本来は10ずつ増える物らしい。

 プレイヤーはこれを職業に割り振る事でスキルレベルを上げる事が出来る。

 ちなみにスキルレベルは、一律20ポイント割り振る毎に1上がるとの事。

 これならばハズレ職業を選んだとしてしても、スキルポイントさえ温存したら別の職業を一気に育てる事ができる。

 実にプレイヤーに対して良心的なシステムだ。

 ソラは自分のスキルポイントの残数を見て、なんとも言えない気持ちになった。

 スキルアップ4倍によってレベルを2上げただけで150から80も増えて、230になったオレの残数ポイント。

 チートスキルがなければ、ソラの本来の残数は170だ。

 この調子でレベルを上げていけば、自分の付与魔術師エンチャンターは他のプレイヤーの4倍の速度で育つ事になる。


 うわぁ、バレたらヤバいのがどんどん増えていく……。


 雲一つない青く広がる空を見上げて、ソラは乾いた笑い声を漏らす。

 しかし、魔王を倒すのならこれは大きな力だ。

 他でもない魔王がくれたのだから、最大限に有効活用すべきである。

 というわけで気を取り直したオレは、先ず全ポイントを迷うことなく全て付与魔術師エンチャンターに投入した。


 スキルレベルが1から11に上がりました。

 レベル2から10の恩恵として、下記の5つのスキルを取得しました。

 【補助スキル】雷属性付与。

 【補助スキル】光属性付与。

 【補助スキル】闇属性付与。

 【補助スキル】攻撃力上昇付与。

 【補助スキル】防御力上昇付与。



 ふむ、一気に扱える付与スキルが増えた。

 オマケに属性付与だけでなく、汎用性の高そうな攻撃力と防御力アップのスキルまで取得できたのはとても大きい。

 これで対応できる幅がぐっと広がった。自分にとっても、シン達のアシストを考えても実に嬉しい事である。

 ソラは頬をほころばすと、軽く右手で握り拳を作りガッツポーズをした。


「……それにしても、アイツら遅いなぁ」


 待ち合わせした時間から、既に30分以上が経過しようとしている。

 周囲を見回して、ソラは首を傾げた。

 未だにシンとロウの姿は見当たらない。


 もしかしてオレがログインする前に、既に二人は此処で待っていて何かあったのか。


 こんな事なら分かれる前に、ログインしているか確認のできるフレンド登録をしておくべきだった。

 今更後悔しても仕方がないので、一度ログアウトして現実のチャットアプリで連絡をしてみるか。

 ソラがそう考えると。

 ズシンッと大きな音がして、人の歓声みたいなものが聞こえた。

 何事だと思いベンチから立ち上がると、ソラは気になる気持ちを抑えられずにそちらの方角に向かって歩き出す。

 何かのイベントでも始まったのか、それともオンラインゲーム特有のプレイヤー同士のいさかいか。

 シンとロウの二人がいないことを考えると、少しだけ胸騒ぎがした。

 そんな思いを懐きながらしばらく歩くと、噴水のある大きな広場に出た。

 何やら初心者プレイヤーだけじゃなく、装備の整った中級者から上級者っぽい人達が集まっていて、その視線は全て中央に向けられている。

 一体どうしたんだろう。

 そう思ったソラは彼等の視線を追って、その先を見てみる。



 するとそこには、噴水の前に倒れている二人の親友の姿があった。


 

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