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第79話「初めての武器強化」

 それからソラ達は手持ちの強化素材である〈フォール鉱石〉を全て使い、キリエに武器の強化を頼んだ。


 本日実装された新しいコンテンツである強化には、成功率というものが存在する。


 内容としては、良くありがちな素材を積み重ねる事で、強化率が上がる仕様。


 ちなみにキリエいわく、職業のスキルレベルが高ければ高いほど、強化素材一つあたりの強化率が上がるらしい。


 NPCのスキルレベルは、鍛冶職人の集まる国〈ヘファイストス王国〉ですらトップクラスの職人が15なのに対して、彼女のスキルレベルは20。


 少ない素材で成功率を100%まで引き上げる事が出来るので〈フォール鉱石〉を全て提出する事で、一気に無強化の状態から+8まで強化する事が出来た。


 というわけで、先ずオレが選択した強化の内訳は、強度+4と荷重+4だ。

 鋭さを上げて、クリティカル率を上げるのも面白そうではあった。

 だがやはり先ずは、ド安定な攻撃重視の方が良いだろうという判断をした。


 注文を受けたキリエは、鍛冶炉で強化素材を溶かして、液状になったソレを白銀の剣身に振りかける。


 すると武器が淡い光を放ち、後はスミスハンマーで打つ作業だけとなった。


 彼女は先程と同じ真剣な表情で、再び握ったつちで武器を打ちながら、見守るオレ達におもむろに話をしてくれた。


「……さっきの武器の作成だけど、ちゃんと真芯を打たないと、クオリティが上下するんだよ。オートで任せる事もできるんだけど、そうしたらNPCと同じで、平均的なモノにしかならないのさ」


 だから常に彼女は、心鉄となるインゴットと向き合い、握ったスミスハンマーに魂を込めて真芯を狙い打つ。


 この部屋の壁に掛けられている大量の試作品達は、その研鑽けんさんの過程で生まれた、キリエの努力と時間を注いだ大切な結晶達。


 良い武器や防具を作るのは、自分の探究心を満たすためではない。


 全ては命を掛けて戦う冒険者達の為に、自分ができる最上位のクオリティの相棒を届けるために。


 鍛冶職人として立つキリエは、剣と向き合いながら一切の乱れもなく、真っ直ぐに槌を振り下ろす。


 キィンキィン、とリズム良く金属を打つ音が部屋中に響き渡る。


 その音を心地よいと思いながら、ソラは彼女の言葉に耳を傾けた。


「武器はアンタ達の命を支える、唯一無二の相棒だ。ソレを預かる以上は、アタシ達も“魂”をかけなきゃいけない」


 それが鍛冶職人であるキリエのこころざしであり、彼女が所属するクランの掲げる信条。


 全てを聞いたソラは、一人納得した。


 ……ああ、こりゃ人気があるわけだな、と。


 トップ層の人達は、キリエが所属する生産職プレイヤーが集うクラン〈天目一個テンモクイッコ〉の装備やアイテムを愛用している。


 品質や性能が良いのは分かるのだが、お値段は一般の物よりは割高だ。


 なんで安いアイテムで代用できるものまで、全て〈天目一個〉産にするのか疑問に思っていたのだが。


 こうして全てを聞いた今なら、彼らが〈天目一個〉のアイテムや装備にこだわる理由が良く分かる。


 トッププレイヤー達が〈アストラルオンライン〉の攻略に真剣に取り組んでいるのに対して、彼女達は真剣にオレ達が長く戦えるように装備やアイテムと向き合っているのだ。


 ふと一つだけ疑問に思ったソラは、尋ねてみた。


「キリエさんは、なんで鍛冶職人を選んだんですか?」


 キリエは苦笑すると、こう答えた。


「アタシが鍛冶職人を選んだのは、昔読んだマンガの鍛冶職人の女の子に影響されてるからさ」


「マンガ、ですか」


「ああ、内容は良くあるファンタジーもので、大好きな勇者の為に叶わぬ恋心と己の全てを注いで、鍛冶職人の女の子は伝説の剣をよみがえらせるんだ。その剣に込められた思いの力で、後に勇者が助けられるシーンは涙無しじゃ語れないね」


「つまりそのマンガの女の子は、キリエさんにとっては師匠なんですね」


「まぁ、そうなるね。と言ってもアタシが打っているのは、伝説の剣じゃないけど」


 そう言って、彼女は槌を振るう。


 話が終わって待つこと、30分程が経過しただろうか。


 最後の一打で強化が完了すると、彼女から剣を手渡されたソラは、剣の柄を握り具合を確かめる。


 ズシッと、重たい感触。


 これまで使ってきた相棒とは、比較にならない攻撃力を秘めているのが、握った柄から伝わってくる。


「……うん、最高の剣だ」


「それなら、さっそく試し切りしてみるかい?」


 キリエがメニュー画面を開いて、何か操作をすると、離れた位置に床からテレビなんかでよく見る巻藁まきわらが出てきた。

 レベルは40。

 溶岩地帯に出てくる、中級者殺しのフレイムゴーレムくらいの耐久値か。


 よし、やってみるか。


 三人の期待を込めた視線を受けながら、ソラは深呼吸を一つ。

 抜身の剣を右下段に構えて使い慣れた攻撃スキル〈ソニックソードⅣ〉を発動。


 左足に力を込めて、強く地面を蹴った。


 瞬間移動に近い速度で目標との距離を詰めると、そこから攻撃をキャンセルして〈デュアルネイルⅣ〉に繋げる。

 グルンと高速の水平2連撃を放ち、巻藁を三分割にした。

 耐久値が0になった巻藁は、光の粒子となって霧散する。


「よし、良い感じだ」


「「「………………うーん」」」


 流れるような動作で、剣を腰に下げている鞘に収めると、他の三人が苦い顔をしている事に気がつく。


 ソラは小首を傾げると、


「どうかしたのか?」


 と言って、三人に歩み寄った。

 すると彼らは、先程の動きに対してこう評した。


「いや、相変わらずヤバい動きしてるなぁ、と思ってな」


「……あの速度でキャンセル技を使うなんて、新幹線が急カーブするようなものだと思います」


「アタシの目じゃ、目の前からいなくなったと思ったら巻藁が三分割されてたね」


 つまり三人が言いたい事は、オレの動きは普通じゃないと言う事だな。

 もう異常者扱いには慣れてしまったので、ソラは言われたことに対してスルーする事にして、改めて腰に下げている新しい相棒に視線を落とした。


 白銀と翡翠ヒスイ色を宿した剣、試しに使った感想としては、完璧な出来栄えだ。


 強化で新たに追加された、攻撃力を上げる代償として重量を増やす〈荷重〉。


 +1する毎に重量が5増えて、現在の〈白銀の魔剣〉の重量は、合計で170まで増えている。


 今のオレの装備は、装備重量軽減スキルによって、防具の重量を合計した数値は80だ。


 剣の重量もスキルによって軽減され、剣と防具を合わせた、現在のトータルした数値は240。

 重量に後10ほど余裕があるので、後に強化で荷重を+2も積む事ができるのは、とても嬉しいところ。


 これで後12回も強化できるって思うと、胸が熱くなるな……。


 作業が全て終わると、オレ達三人は彼女と共に店の中に戻り、そこから真っ直ぐに出入り口に向かう。

 扉を開いて外に出ようとした時、ソラはキリエを見ると深々と頭を下げた。


「キリエさん、今日は作業場を見せてくれて、ありがとうございます。この相棒にどれだけの思いが込められているのかも、知ることができましたし、改めて攻略を頑張ろうって思いました」


「ああ、アタシもアンタ達の事を応援してるよ。何か困ったことがあったら、遠慮なく訪ねてきな」


「はい!」


「それじゃ、キリエさん」


「また来ますね」


 オレ達は彼女に手を振ると、その場から歩き去って、次に転移門のある大広場を目指して歩き出した。


 今から向かうのは〈ヘファイストス王国〉。


 とりあえずは、炎で閉ざされている次の国に進むための道を、どうにかする方法を探さなければ。


 そう思った、矢先の事だった。


 アラーム音が鳴り響き、同時に緊急クエストの通知がやってくる。


 メニュー画面を開こうとすると、先にソラのサポートの〈ルシフェル〉は、その内容を読み上げてくれた。


 【襲撃クエスト発生】


 【内容】ヘファイストス王国を攻めてきた邪悪な竜の群れを撃退せよ。


 【参加条件】無し


 【勝利条件】全邪竜の討伐。


 【敗北条件】竜結晶の破壊。


 【推奨レベル】50


 内容を知ったソラ達は、急いで大広場に向かった。

 

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