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第74話「スキルショップ」

 レンガ造りの店が並ぶ中に、新しく追加されたスキルショップはあった。

 すでに何人かプレイヤーが中に入っており、みんな棚に置かれているクリスタルとにらめっこしている。


 銀髪は目立つのでコートのフードを目深まで被って、オレは親友の二人と中に入る。


「いらっしゃいませー」


 元気よく迎えてくれたのは、頭に二本の角と臀部でんぶあたりから爬虫類はちゅうるい系の尻尾を生やした、チャイナ服を纏う見た目10代くらいの少女だ。


 彼女はファンタジーではお馴染みの竜人種であり、高いステータスを持っている戦闘民族である。


 ちなみにこの国の住人は、全員が竜人種で、全体的にレベルは30以上が多い。

 彼女も見たところレベルは33と中々に高く、もしも戦ったとしても並の冒険者では勝つことは不可能だろう。

 そんな事を思いながらも、彼女に会釈えしゃくをして店内を見回す。


 店の作りとしては、本屋みたいな感じだった。


 棚にはスキルをクリスタル状態にした物〈Sクリスタル〉が並んでいて、それぞれ攻撃スキル、防御スキル、補助スキルの三種のカテゴリーで分けられている。

 基本的には現実世界と同じで、商品を手に取って、効果を確認する事まで出来るようだ。

 購入に、レジは使わない。

 その場で行う形式だ。

 早速ソラは補助スキルの〈アームズチェンジ〉と表記されてるクリスタルを手に取ると、効果を確認した。


 補助スキル〈アームズチェンジ〉。

 ショートカット設定することで、予め設定した武器を素早く切り替える事ができるスキル。


「ふむ、2種類のメイン武器を使うプレイヤーとか、武器を落としてしまった時に拾うモーションをしないで、これ一回で手元に戻せるのは強いな」


 お値段を見てみると、お一つで5万エルほどした。


「補助スキルでこのお値段か……」


 他には各種バッドステータスに対する耐性スキルとか、硬直タイム短縮のスキル、クールタイム短縮のスキル、装備重量軽減のスキルとかがある。

 補助スキルの一覧だけでも、気になるのが目白押しだ。


「最後の3つは1つ10万……合計で30万エルもするけど、絶対に買いだな」


 購入画面を開いて会計を済ませると、所持しているエルが減って、アイテムボックスに購入したアイテムが追加される。

 なるほど、購入して即スキルを獲得するわけではないようだ。

 補助スキルの棚に用はなくなったので、次に防御スキルの棚に向かう。

 そこでは、ロウが珍しく眉間にシワを寄せて、悩んでいる姿があった。


「ロウ、どうかしたか?」


「あ、ソラちょうど良いところに来てくれました。このスキル、どっちが良いと思いますか?」


「うん?」


 両手に持ってる〈Sクリスタル〉を受け取り、確認してみる。


 右手の方は防御スキル〈イモウビリティ〉30秒の間、地形に関係なく踏ん張る事と、敵の攻撃でノックバックや怯んだりしなくなる。

 クールタイム、60秒。


 左手の方は防御スキル〈ブレイブメンタル〉30秒の間、状態異常にならなくなる。

 クールタイム、60秒。


 そてしてどちらも、必要【エル】数が20万と中々にえげつない数字である。

 両方を選ぶと、合わせて40万エル。

 そうなると残りは40万エルしか残らないので、ロウとしてはどちらか一つにしたいというところか。

 イモウビリティは、ふっ飛ばされなくなるのは騎士職業からしてみると無駄にはならない。

 かといって精霊の森で、オレ以外のプレイヤーは〈リヴァイアサン〉相手に状態異常で散々苦しめられた経験から、一定時間無効化にするブレイブメンタルは欲しいところ。


 でもオレがロウなら、と考えてソラが提案したのは右手の方だった。


「何故、〈イモウビリティ〉を?」


 理由を尋ねるロウに、オレは自信満々に答える。


「ロウは受けるのが上手いからな、足場の不安なところでもふっ飛ばされなくなるのは、ロウの長所を活かす意味でも無駄にはならないと思う」


「そうですか……ソラがそう言うのでしたら、こちらにしましょう。ところで補助スキルの棚を見に行ってたみたいですけど、何か良いのがありましたか?」


「おう、オレはこの3つをオススメするぞ」


 そう言ってソラが教えたのは〈硬直タイム短縮〉のスキルと〈クールタイム短縮〉のスキルと〈装備重量軽減〉のスキル。

 合わせて30万エルだが、どれも持っていても損はしないスキルだ。


 彼はM型のアバターなので、積載量は今のオレと違って初期で400もある。


 特に困っていないのならば資金を節約する為に〈装備重量軽減〉は買わなくても良い。

 ロウはそれを聞くと礼を言って、この棚の購入を済ませると、先程オレがいた補助スキルの棚に向かう。

 一応、防御スキルの棚を確認してみると、ソラが気になったのは〈ソニックステップ〉だった。


 効果は発動することで、瞬間的に横に移動する事が可能となる。


 タンクとして戦うロウの選択肢には入らなかったようだが、アタッカーとして動くオレには無視できないスキルだ。

 10万エルとお高いお値段だが、戦略の幅が広がるので迷わずに購入。


 次の攻撃スキルの棚に向かうと、今度はシンが先程のロウと同じようにクリスタルを手に、にらめっこしていた。


 ……今度はオマエか。


 ソラは苦笑いすると、シンに歩み寄った。


「おい、オマエは何で悩んでるんだ?」


「ああ、ソラか。攻撃スキルで面白いものを見つけてな、ちょっと悩んでるんだ」


「ちょっと見せてみろ」


 シンから二つのクリスタルを手渡されて、スキルを見てみる。


 右手のクリスタルは攻撃スキル〈ドレイン・アングリフ〉で、効果はダメージを与えた相手のHPを吸収する事。

 クールタイムは20秒。


 左手のクリスタルは攻撃スキル〈ディセーブル・スラスト〉で、効果は防御スキル無効の突き技を放つ事ができる。

 クールタイムは20秒。


 これまたロウと一緒で方向性の違うスキルに、ソラはなんとも言えない顔をした。


 スキルのお値段は一つ25万エルで、二つ合わせると50万エルと、とんでもない数字になる。

 二つとも捨てがたいスキルではあるが、あえてどれか一つと言われるのなら、オレは〈ディセーブル・スラスト〉を選ぶだろうか。


「オレならHP吸収よりは、防御スキル無効だな」


「その理由は?」


「吸収はダメージに依存するっぽいから、頑張って回復したとしても敵の攻撃でいくらでも覆る可能性はある。シンのプレイヤースキルを考慮するなら、ここぞという時に敵の防御スキルを無視できる攻撃スキルは、切り札にもなるだろ」


「なるほど、それは良いな。おまえの助言を受け入れて、コッチにするよ。……それで悪いんだが、防御スキルと補助スキルでオススメなのを教えてくれ」


「ああ、それなら──」


 尋ねられたソラは、自分が選んだ4つのスキルをオススメする。

 しかし総額で40万エルもするので、全て買うとシンの残りのエルは35万しか残らない。

 教えてもらったシンは少し考えるような素振りを見せると、どれをチョイスするのか決めたのか「わかった」と言った。


「俺は、重量には困ってないからな、ステップと短縮二つを選ぶ事にする」


「ああ、この4つの中で職業が騎士じゃないM型なら、オレもそうするだろうな」


「ありがとう、ソラ。ちょっと後でエル稼ぎしないとヤバいが、これで更に強くなれるのは間違いないな」


 律儀に頭を下げて、シンは次に防御スキルのところにいく。


 さて、オレは最後に良い攻撃スキルがないか、探してみるか。


 探してみて、数分後。

 シンが悩んでいた〈ディセーブル・スラスト〉以外に、これといって目ぼしいものはなかった。

 棚に並んでいるのは殆どが属性攻撃のスキルばかりで、付与魔術師のオレからしてみたら、不要の一言である。

 迷わずにソラは〈ディセーブル・スラスト〉を購入すると、竜人の店員さんに確認した。


「すみません、スキルは棚に並んでいるので全部なんですよね?」


「はい、そうですよ。珍しいスキルとかは普通の店には並ばないですね」


 ふむ、つまり普通じゃない店なら、珍しいスキルを取り扱っているという事か。


 これは良い事を聞いた、と店員の少女に礼を言うと、ソラは二人と合流して店の外に出た。

 すると、


「おや、アストラルオンラインの最強パーティーじゃないですか」


「うん?」


 声を掛けられて、ソチラを見る。

 そこには、真紅の髪と真紅の瞳、見た目十代後半のロウに負けず劣らずのイケメン少年ことグレンが立っていた。

 彼はオレの師匠であるシノが団長をしている〈ヘルアンドヘブン〉の副団長であり、以前にシンとロウの二人がかりでも負けたプロゲーマーだ。


「こんなところで出会えたのも、何かの縁です。よろしければ私のおごりで、今から四人でお茶でもしませんか」


 そう言ってグレンが指差したのは、この国の中でも屈指の喫茶店。

 しかも、彼の“おごり”。

 断る理由なんてないオレ達は、彼の提案にコンマ数秒で頷いた。


 だって、最強だなんだ言っても中身は高校生だもの。


 おごりという言葉には、とても弱いのだ。

 

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