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第63話「黎明の剣」

 眠るクロをハルトが背負い、アリアとソラの四人は神殿から出て、風の精霊達の拠点まで戻る。

 最短ルートで帰った為にリヴァイアサン・ウォーリア数体と遭遇したが、この程度の敵がいくら出てこようが今のオレの敵ではない。

 15スロットもある付与スキル枠を〈攻撃力上昇Ⅱ〉で埋めると、ソラは一人で突撃して全て切り捨てる。

 四人は足を止める事なく、拠点に着いた。

 そこでハルトに背負われていたクロが、ようやく目を覚ます。

 神殿から拠点まで1時間くらい、その間クロは父親の背中にべったりくっついて幸せそうに寝ていた。

 その時の寝顔をスクリーンショットで画像フォルダに保存したソラは、満面の笑顔を浮かべる。


「いやー、眠り姫は良い寝顔でしたな」


「むぅ、寝てる女の子は撮ったらダメなんだよ……」


「許せ、可愛くてつい撮っちゃった」


「許せ、黎乃くろのが可愛くてつい頼んでしまった」


「パパが主犯なの!?」


 父親のカミングアウトに驚く娘。

 クロは申し訳無さそうな顔をするハルトを見ると、溜め息を吐いた。


「……むぅ、パパにそんな顔されたら、怒れないんだけど……」


 複雑な表情を浮かべるクロに、両手を合わせて謝罪するソラとハルト。

 三人のやり取りを、アリアは黙ってずっとニコニコと楽しそうに見ていた。


 そのまま四人は、拠点に入る。


 すると見張りから、三人の帰還を聞いた精霊達が急いで駆け寄ってくると、全員ソラを見て顔を強張らせて硬直。

 回れ右をすると「大変だー!」と叫んで拠点内は大騒ぎになった。


 彼等は、急にどうしたのだろうか。


 その理由を〈ルシフェル〉に尋ねてみると、


〘マスター、精霊族の間では“白銀の髪と金色の瞳”を持つ冒険者の事を、古くから〈英雄〉として言い伝えられています。今までは“白銀の髪”だけだったので〈英雄〉としての条件を満たしていませんでしたが、今回ワタシを使用した事で覚醒したマスターは、“金色の瞳”も宿すことになりました。よって彼等から正しく古き英雄の再来として認識されたのです〙


 なるほど、理解した。

 しかし言い伝えに出てくる英雄だからと言って、彼等にかしこまられても此方が困る話だ。

 確かにMP無限とか強化された補助スキルの一覧を見ると、普通の冒険者の域は遥かに逸脱している。


 でも、それだけだ。


 英雄とか勇者とか、特別な職業を獲得したわけでもないし、ステータス以外はプレイヤーとしては普通の冒険者と変わらない。

 だからひざまずこうとする彼等をひっ捕まえると、今まで通り普通に接してくれと強く伝えた。

 だがそれでも、大人達はどこか落ち着かない様子だ。


 一方で子供達はいつもの調子で、ソラとすれ違うと元気よく挨拶してくれた。


 笑顔で子供達に挨拶を返しながら、オレは他の三人にこれから拠点で最後にやるべきことを話す。


「先ずは道具屋に行くぞ。クロのメイン武器も、どうにかしないといけないしな」


「あ、わたし剣がないんだった……」


 疲れて眠った事で忘れていたのか、ハッとした顔をするクロ。

 暴走したハルトのラッシュを受け続けた結果、彼女の剣は主を守った末に折れてしまった。

 キリエお手製の〈夜桜〉の代わりになる武器は中々ないとは思うが、どんな武器でも無いよりはマシだ。

 幸いにも連日の戦闘で、オレの資金はトータルで50万エルはある。

 更にドロップアイテムを売れば、その資金は80万エルにはなるだろう。


 どんなに高くても、夜桜と同じくらい良い武器を相棒に買ってやるぜ。


 ソラが意気込んでいると、申し訳無さそうな顔をしたハルトが、アイテムボックスから取り出した一本の剣をクロに差し出した。

 続いて彼は、驚きの言葉を口にする。


「俺とアリサが、精霊王と妖精王の恋仲を助けたときに頂いた剣だ。これを黎乃に託そう」


「パパ……」


「アリサがレベル50になるまで、大切に使っていた剣だ。インゴットにするにはもったいなくてな、メイン武器を変えた後は、記念品として俺が預かっていたんだ」


「ママの剣……」


 受け取った彼女は、黒塗りの鞘から剣を抜く。

 刀身は軽やかな薄いラベンダー色。

 美しく、一種の芸術品のような輝きに、オレとクロとアリアの三人は見惚れる。

 ソラの洞察スキルは、剣の名とスペックを表示した。


 【カテゴリー】片手直剣

 【武器名】黎明れいめいつるぎ

 【レアリティ】C+

 【攻撃力】B−

 【耐久力】D+

 【必要筋力値】28

 【重量】110


 これは、とても良い剣ではないか。


 しかもレベル28になったクロなら、すぐにでも装備できるのが嬉しいところ。


 思いもよらない形で現れた〈夜桜〉以上の剣に、ソラが感心していると、クロは自分の名の一部を冠した剣を鞘に収め「ママ……」と小さな声で呟いた。


 クロ……。


 オレ達は、黙って彼女の黙祷もくとうを見守る。

 しばらくそのままでいると、彼女は何か決意した顔で、オレとハルトに向き合うと剣を握り締めた。


「わたし、強くなる。強くなって、この世界のどこかにいるママを探したい」


「ああ、パートナーとしてオレも付き合うよ」


「俺としては、本当は娘に危険な事はさせたくはないんだが……」


 クロもアストラルオンラインのプレイを義務付けられている事は、ここに来るまでにハルトに説明済だ。

 この世界は、力が無ければ生き抜くことはできない。

 娘を思う気持ちと、現状に対する最適解の板挟みに、ハルトは苦々しい顔をする。

 そこにソラは、自信満々に答えた。


「ハルトさん、最強の付与魔術師がパートナーなんです。心配しないでください」


「……ソラ君」


 申し訳なさそうな顔をするハルト。

 するとクロがソラの腕に抱きつくと、自慢するように父親を見た。


「ソラとわたしは、ベストマッチ」


「ソラ君、パートナーは認めるが嫁にはやらないからな?」


 あれ、なんだか話の流れが変な方向に傾いたぞ。

 射るような眼差しをハルトに向けられて、ソラは額にびっしり汗を浮かべる。


 お父さん、自分と彼女はそんな関係じゃないですよ?


 必死に誤解を解こうとするが、彼の臨戦態勢は解除される気配はない。

 とりあえず、この場から逃げるように耐久値がかなり減ってしまった〈白銀の剣〉を含め、装備を武具屋で整備してもらい、アイテムを買い揃える事にする。


 残念なのはハルトが所有している〈エリクサー〉は、レベル100以上でないと店のリストに出ない上に、彼から譲ってもらう事すらできない事だった。


 用意周到な高ランクアイテムの制限に、ソラは少しガッカリした。

 そんな中で嬉しい事と言えば、精霊のクッキーというアイテムが棚に並んでいた事くらいか。


 効果は、食べることで疲労度を極小回復する事。


 疲労度は、このゲームでは無視することのできない要素の一つだ。

 半分までたまった場合は、移動能力と突進系のスキルの性能が半減化して、全てたまった場合には行動不能になる。


 どれも付与されてしまうと、致命的なデバフだ。


 だから疲労度を下げるアイテムは、廃人プレイをするオレみたいなプレイヤーには必要不可欠。

 しかも普通なら鮮度パラメータが設定されている食べ物のカテゴリーで、劣化しないのがこのアイテムの最大の特徴である。

 オレは今後の事も考えて、それを迷わず100枚ほど購入した。

 ちなみにお値段は、一枚50エル。

 100枚買ったので、合計金額は5000エルほど。

 

 さて、これで準備は完了。


 そう思ってギオルの所に挨拶に行こうと店の外に出ると、そこには拠点の全ての精霊の人達が集まっていた。

 彼らは大結界が修復された件も含めて、オレと出会えて光栄であると感謝の言葉を述べて、その場にひざまずく。

 その光景にソラが困っていると、一人の男性が姿を現した。

 隻腕の端正な顔立ちの精霊の男性、ギオルだ。

 彼はソラとクロにお辞儀をすると、口元に笑みを刻む。


「ソラ様、指輪の回収が終わったのですね」


「……ああ、終わったよ」


「という事は、遂に此方を発たれるのですか」


「うん、そうなる。オレの終着点は、この世界の果てにあるから」


 確かに居心地は良い。

 精霊の人達も余所者であるオレを受け入れてくれて、嫌な人は一人もいない。


 だが、いつまでも此処にはいられない。


 呪いを解くためには、魔王を倒さないといけない。その為にもオレは、まだ歩みを止めるわけにはいかない。

 その道中では、クロの母親も探さなければいけないのだから、やるべき事は沢山ある。

 ギオルの視線を真っ直ぐに受け止めると、彼は嬉しそうに目を細めた。

 それから、深く頭を下げる。


「今までありがとうございました、偉大なる冒険者、ソラ様、クロ様。あなた方は私達の恩人であり、かけがえのない友です」


「ああ、ありがとうギオル。短い間だったけど、世話になった」


「わたしも、楽しかったよ」


 失った右手の代わりに、左手で握手を求める彼に、ソラは応えて左手で握る。

 ギオルは、力強い言葉で、オレ達にこう言った。



「世界最強の冒険者とそのパートナーに、世界樹の加護があらんことを」



 

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