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第56話「最強の過去話」

 あれから5体のビッグスパイダーとの戦闘をした後、しばらく歩くと目的の建造物の先端が見えてきた。


「あれが風の神殿か」


 遂に、ここまで来た。

 十分ほど歩くと、先端だけでなく神殿の全体がソラ達の眼の前に現れる。

 遠目からでもその存在は確認できたが、間近で見ると、神殿の威容にオレは圧倒された。

 サイズは目測だけど、全長は10メートル以上か。

 巨大な石造りの建物で、デザインとしては、ヨーロッパの大きな協会に近い。

 外壁の素材は真っ白な石で作られていて、触れてみると滑らかな感触だけが手の中に残る。


 〈洞察〉スキルを発動して見ると、ソラの視界には【破壊不可能オブジェクト】という文字が表示された。


 大体の建物には防御力と耐久力があるのだが、どうやらダンジョンにはそういったものが無いようす。

 巨大な木製の扉を開けて中に入ってみると、中は広い空間で、左右と2階に上がるルートが薄っすらと見える。

 唯一の光源と呼べるものは、建物の中にも生息している発光する樹木〈精霊の木〉だけだ。

 実に心もとない明かりに、ソラは顔をしかめる。

 

 とりあえず自分の感知スキルを使い、モンスターの位置を事前に把握しながら、探索するのが一番だと思った。


 さて、近くにモンスターはいるのか。


 スキルを使用して、最初のフロアを調べようとするソラ。

 ここで一つだけ、意外な事に気がついた。


「あれ、範囲がこれ以上広げられないな」


 なんとこれまで、万能な事に定評のあった感知スキル。

 流石にチート過ぎるのか、ダンジョン内だとシステムによって、範囲が最大2メートルまでしか広げられない。

 

 これでは、潜んでいるモンスターとのエンカウントは、避けることができなさそうだ。


 ソラは一旦外に出ると、二人にこう言った。


「とりあえず、クロとアリアには風属性を1つと毒対策に耐性付与を4つ付けとくぞ」


「はい、わかりました!」


「……うん」


 勢いの良い返事をするアリアと、対していつもより少しテンションの低いクロ。

 やはりアレから、彼女は余り表には出さないが、どこか無理をしているように見える。

 かと言ってこればかりは、何て声を掛けてあげたら良いのか分からない。

 下手な慰めは、むしろ逆効果になるだろう。

 どうしたものか、と考えながらも付与スキルを使用する。


 ソラはMPが無くなるとマジックポーションを飲んで、スキルを再度使用。


 これを数回ほど繰り返した。


 そして全員に付与が終わり、空になったマジックポーションの瓶が光になって消えると準備が完了する。

 アリアは魔法灯マジックランプを持っているので、ギオルからもらったマップはオレの管理だ。

 ダンジョンを進む陣形は、アリアを先頭に、後ろをオレとクロがついていく形になる。


「なんで、わたくしが一番前なのです!?」


 と、アリアから抗議されたが、この中では現在、彼女がレベル的にも装備的にも一番上だ。

 総防御力は【A】で【E+】のオレよりも圧倒的に硬いし、HPも1000で文字通り桁が一つ違う。

 更に今まで忘れていたのだが。彼女の着ている衣服には、MPを任意で【100】消費する事で、上級防御魔法〈風精霊の結界〉を発生させるスキルが付属している。


 いざという時は、それで何とかできるだろう。


 というわけで、途中オレがマップを見ながら行き先を指示して進む。

 その途中で何度か、大蛇に太い手足が生えたレベル30のモンスター〈リヴァイアサン・ウォーリア〉と遭遇。

 しかし攻撃パターンは、アーミーに〈ポイズンクロー〉という毒爪攻撃が増えただけ。

 攻撃するタイミングに合わせて〈ソニックソードⅢ〉を放ってやると、ウォーリアはあっさり転倒して、そこにクロの〈ストライクソードⅡ〉を受けてHPは残り3割に。

 アリアが冷静に狙撃して、残った3割が消し飛ぶと四散する。

 これ以上ないコンビネーションによって、ギオルがマッピングしてくれたダンジョン内を危なげ無く突き進みながら、出会うウォーリアを片っ端から倒す。

 それによって、ソラのレベルは31から33まで上がり、クロは24から26に上がった。


 ダンジョンの中を進むと、途中何度か補給物資という名の宝箱を回収。


 中身は全て〈フォール鉱石〉という名前のアイテムだった。

 説明文を読むと、何やら武器の強化に使えるらしい。


 でもキリエからは鍛冶師について、武器を強化できるなんて事は一つも聞いていない。


 という事は〈アンチドートの秘薬〉が追加されたのと同じように、後に何らかのコンテンツが追加される布石なのだろうか。

 クロと仲良く半分にしながら、角待ちしていたウォーリアを感知スキルでギリギリ発見。

 オレが先行して、その後は二人に畳み掛けてもらう。

 ウォーリアを最小限の攻撃で倒すと、剣を収めるクロの姿にソラは苦笑した。


「それにしても、クロは技のキレがどんどん鋭くなっていくな。クオリティもオレと遜色ないレベルだ。見てると、ずっと昔に一緒にプレイしていた“アイツ”の事を思い出すよ」


「……アイツ?」


 オレの話に興味があるのか、クロが顔を上げて見てくる。

 少しでも彼女の気が紛れるのなら、とソラは歩きながら続きを語った。


「アイツっていうのは、オレの“弟子”のことだよ。クロと同じ女の子で、プレイヤーネームはイリヤ。リアルで一度だけ会った事あるんだけど、確か金髪のハーフっ娘だったかな」


「ソラ様にお弟子様がいたなんて、驚きなのです」


「そのイリヤって人、強かったの?」


 クロの問いかけに、ソラは頷いた。


「もちろん、センスはクロと同じくらいあったかな。教えた事はあっという間に覚えるし、優秀な子だったよ」


「……その人って、可愛かった?」


「え、まぁ、ファンクラブができる程度には可愛かったよ」


「ふーん、可愛かったんだ」


 何やらクロの顔が、少しだけムスッとなる。

 落ち込まれるよりはマシだが、鋭く冷たい視線を向けられて、ソラは額にびっしり汗を浮かべた。


「可愛かったけど、付き合ってないぞ?」


「うん、詳しくはシノとシオに聞くね」


「oh……」


 信じてもらえないだと。

 というか、別にクロと付き合っているわけではないのに、なんで自分はこんなにも追い詰められているのだろうか。

 不思議な状況に疑問を抱きながら、気を取り直したソラは、逸れた話の軌道を元に戻す。


「でもアイツは、ミスを引きずるクセを持っててな。何かある度に落ち込んでるのを、いつもオレはアドバイスをして、次に頑張れば良いって励ましてたんだ」


「……ソラの弟子って聞くと、同じくらい化け物だと思ってたから意外」


「化け物ってクロ、オレ自身は師匠に比べたらまだ普通の範疇はんちゅうだと思うぞ」


「え、それ冗談で言ってる?」


「ソラ様は十分に、普通の範囲を逸脱していると思うのです」


「おまえら……」


 二人して酷い事を言うもんだ。

 化け物と呼ばれてたのは、チートスペックを誇っていた使用キャラの力が7割であり、オレの力なんて3割程度しかない。

 それに他のゲームでは、上を見れば自分より上の技術を持ってるプレイヤーなんて沢山いる。

 だから、これだけは断言できた。


 オレは、特別なんかじゃない。


 少しだけ傷つきながら、ソラは深いため息を吐いた。

 そこにクロが、前のめりになって聞いてくる。


「イリヤは、このゲームやってないの?」


「うーん、わからん。最後に一緒にゲームをプレイした後に、お互いに連絡をしなくなって3年も経ってるからな」


「3年!?」


「ケンカ?」


 アリアが驚き、クロが疑問を投げ掛けてくる。

 流石にアイツと起きた事を全部語ると、場の雰囲気が暗くなりそうなので、オレは少し悩むとこう言った。


「ケンカじゃないよ」


「ケンカじゃないなら、なんで?」


「あー、なんていうか。アレは……」


 ソラは後ろ髪を掻きながら、足を止める。

 そして、自嘲気味に笑った。


「まぁ、オレは良い師匠にはなれなかったんだよ。だから……」


 大切な弟子を、失うことになった。

 そう言葉にしそうになり、口を閉ざす。


「ソラ様……」


「ソラ……」


「ごめん、湿っぽくなったな。この通路を抜けたら、ギオルのマッピングしたエリアは終わりだ。ここからは気を引き締めていこう」


 アリアは、口を閉ざして先頭を歩く。

 その後ろに続くソラの隣に、クロが並び立つ。

 彼女は、不意に手を繋いでくると、こう言った。


「ソラも、色々あったんだね」


「クロ程じゃないよ」


 二人して苦笑すると、ソラは彼女の手を強く握った。


 

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