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第40話「感謝の気持ち」

 シオ達が〈リヴァイアサン・アーミー〉との護衛戦を繰り広げている最中、ソラがアリアに案内されて向かったのは、ギオルの執務室だった。

 神殿の周辺の環境の変化や、モンスターなどの種類、レベルなど様々な情報を記した調査書が辞典のような分厚さで机の上に山積みになっている。


 オレを呼んだギオルは大きな机を挟んで向こう側にいて、何やら深刻そうな顔をすると開口一番に言った。


「ソラ様、姫様から聞いたのですが〈リヴァイアサン・アーミー〉が出たというのは本当ですか?」


「あの毒を吐く奴らの事だろ。確かここに来る途中も、ちらほら〈感知〉スキルで見かけたな」


「で、伝説のスキルをお持ちなんですね。気になりますが、今は置いておきましょう」


 彼は眉間にシワを寄せると、険しい顔をした。


「……ソラ様、大変恐縮なのですが神殿に向かう前に、少しだけ調査をしてきてもらっても宜しいでしょうか」


 オレの目の前に【イベントクエスト・異変の調査】が表示される。

 どうやら強制クエストらしく、いつもの【Yes/No】の二択が表示されない。


 クエストの達成条件は〈リヴァイアサン・アーミー〉から入手できる〈大蛇の鱗〉一個をギオルに提出する事。


 ……ああ、なるほどな。


 一目でオレは、このクエストの流れを理解した。

 恐らくは〈翡翠の指輪〉を回収するクエストに至るまで、ここでひたすらギオルから出されるクエストを、オレ達はクリアしないといけないのだろう。

 となると、イベント期間から推測するに、これは早々に片付けていかないと長くなる可能性が高い。

 悠長にして結界の復活が遅れると、護衛クエストとレイドボス〈リヴァイアサン〉を相手にしている向こうがもたない可能性がある。


 だがそれとは別に、何やら魅力的な一文がクエストの一番下にあった。


 ──最大50個提出する事で、特別報酬ランク【E】の“装飾アイテム”を入手可能。


 もしかして、これから受けていくクエストは、報酬ランクアップ形式なのか。


 だとしたら、ゲーマーとして狙いは可能な限り常に最高報酬一択しかない。


 クエスト内容を見たオレは、ふと思い出して自分のアイテム一覧を表示。

 そこからログインした際に狩りまくり、入手した50個の〈大蛇の鱗〉を全て取り出すと、ギオルの机の上に置いた。


「これで良いのかな?」


「な……これは」


 目の前に積み上げられた、50枚の緑色に輝く宝石のような鱗。

 何度も瞬きをするギオルは、恐る恐る鱗の一枚を手にして観察する。


 3分くらいかけてじっくり見ると、彼はこちらを見て、信じられないと言わんばかりに顔を強張らせた。


「た、確かに確認しました。これは紛れもなくリヴァイアサン・アーミーの鱗です」


 目の前に【クエスト達成】が表示されると、達成ボーナスの経験値が入る。

 更にギオルは手のひらサイズの宝箱を取り出して、オレの前に置いた。


「こちらが報酬となります」


「ふむ、装飾アイテムか。防具店では見かけなかったな……」


「うん、アクセサリーとかの装備は、まだどこも売ってないね」


「となると、このアスオンで冒険者プレイヤーが入手する初のアイテムか。期待できるぞこれは」


 箱を受け取り開けてみると、そこには二つの腕輪が入っていた。

 見たところ木製で、綺麗なレリーフと緑色の宝石が1つだけ施されている。


 【アイテム名】精霊の腕輪

 【ランク】E

 数億年を生きる大樹から作られた腕輪は、身に付けた者の魔力の消費を軽減してくれる。

 【効果】スキルによるMPの消費量を5軽減する。

 【重量】10


 【注意】同じアイテムによる効果は重複しない。


 ……これは控えめに言って、神アイテムではないか?


 レベルアップとスキルレベルのバランスが悪くて燃費の悪いオレのスキルも、これを装備すれば多少は改善できる。


 オマケに見たところ、装備の重量値がアクセサリーだからか10程度しかない。


 目を輝かせたソラは、大きな腕輪を手に取ると右腕に通す。

 すると腕輪は光り輝き、サイズを調節してオレの腕にピッタリとハマった。


 おお、ファンタジー。


 親友二人が聞けば総ツッコミを受けそうな感想を抱きつつ、オレは宝箱に残った腕輪に視線を向ける。

 これをあげる人は、最初から決まっていた。

 残った腕輪を手に取り、振り返るとソラはクロに差し出す。


「え、わたしに?」


 差し出された腕輪を見て、貰えるとは思っていなかったのか、驚いたクロが後ろに一歩下がった。

 彼女のその反応に、オレは呆れた口調になる。


「他に誰がいるんだよ」


「でもわたし格闘士ファイターだから、そこまでMP使わないし……」


「うん、確かに効率を考えるなら〈騎士〉とか〈魔術師〉とかに渡したほうが、オレも良いとは思う」


 でも、とソラは自分の吐いた言葉を即座に否定すると、クロを真っ直ぐに見つめてこう言った。


「これでも、クロには感謝してるんだ。昨日出会ってから今に至るまで、たった二日間だけど久しぶりのオンラインゲームを、オレはクロのおかげで心の底から楽しくプレイ出来てることに」


「ソラ……」


「だからさ、これは効果云々じゃなく純粋にオレからのお礼として、君に受け取って貰いたいんだ」


 ソラが差し出した腕輪をじっと見つめた後に、クロはゆっくりと両手で受け取る。


 その頬は、少しだけ赤くなっていた。


 彼女は自分の右腕にソレを装備すると、オレを見て微笑を浮かべる。


「ありがとう、大事にするね」


「えー、わたくしも仲間なのに。お二人だけペアルックみたいで羨ましいです!」


「──────ッ!?」


 言われてみたら、確かにそれっぽく見える。

 しかし感謝の意を込めて贈っただけであり、そこまで深い意味を考えていなかった。

 ソラは「あー、なるほど」と納得して。

 ペアルックという言葉に、クロは俯いて頬だけでなく顔全体を真っ赤に染めて黙ってしまう。


 別に恋人同士でもあるまいに、少々オーバー気味な反応ではないか。


 ソラは肩をすくめると、胸の前で腕を組んで、ぷんぷんするアリアにこう言った。


「ハイタッチは知らなかったのに、よくペアルックなんて言葉を知ってるな」


「ええ、大昔に一度だけ凄腕の“二人組”の冒険者様がいらして。その方々から仲睦まじい二人で同じものを身につける事を、ペアルックと呼ぶんだとお母様から教わったのです」


「へぇ、オレ達以外にも冒険者が森に来たことあるんだ」


 と、ソラが言うと、アリアはくすりと笑ってこう答えた。


「と言っても、だいぶ昔の事です。なんでもお父様とお母様の縁結びの助けをされたみたいで、神殿の指輪が封印されているところには、記念に“お二方の像”が作られてるのですよ」


 なるほど、これは面白い話を聞いた。


 運営が書いたと思われる、大昔の冒険者のシナリオ。

 指輪が封印されている場所に行くのが、今から楽しみだ。

 隣にいるクロは、それどころではないのか、何故か念仏のように「ペアルック」という言葉を何度もつぶやいている。


 大丈夫ではなさそうだが、下手に触れると面倒そうなのでとりあえず放置。


 オレは意地悪な笑みを浮かべると、アリアにこう言った。


「まぁ、アリアにも感謝はしてるんだけど、迷惑も掛けられてるから実質相殺かな」


「ソラ様、それは酷すぎませんか!?」


「ハハハ、冗談だよ。まぁ、その内何か似たような物が手に入ったらアリアにもあげるよ」


「や、約束ですからね!」


 というわけで話を一区切りして、オレはギオルに向き直る。

 彼は何だか微笑ましい顔をして、尊いものを拝むかのように両手を合わせていた。


 ……何かの宗教的な奴だろうか。


 ソラが怪訝な顔をして見ていると、我を取り戻したギオルは、小さな咳払いを一つする。


「……ソラ様、彼奴らが孵化した証拠の提出、ありがとうございます。しかし、50枚も集められるなんて凄いですね。どうやったのですか?」

 

「うーん。確か50体くらい、ずっと一人で斬り倒してたら自然と集まったぞ」


「5、50を単独で相手をする? ハッハッハ、随分と御冗談が上手いですね。毒を扱う上に物理攻撃を軽減させる〈リヴァイアサン・アーミー〉を相手に、そんな武勲を立てる事ができたら、オルディン国王から騎士の位を貰えますよ」


 ……何やらオレは遂に、NPCにまで常識を説かれてしまった。

 しかし〈リヴァイアサン・アーミー〉は毒攻撃と物理攻撃が有効ではないという特性をおさえて、しっかり対策すれば簡単に倒せると思うのだが。


 ううむ、これはオレがオカシイのか?


 何だか、釈然としない顔をするソラ。

 そんな複雑な気持ちを抱く彼は、次にふと鼻孔を刺激する香ばしい香りがしてきた事に気がついて、ハッとした顔をした。


 この濃厚で鼻孔を刺激する、焼肉屋に行くと必ず店内に漂っている香りはもしや。

 オレの顔を見て、ギオルは右手の親指を突き立てた。


「どうやら森狼の調理が始まったみたいですね。依頼は後にして、ここは一度食堂に行きましょうか」


「異論なし!」


 ソラは未だに正気を取り戻していないクロの手を握ると、アリアとギオルと共に執務室を出た。

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