第37話「最強のスキル現状」
食堂はシンプルな作りをしていた。
長いテーブルが2つくらい並べてあり、丁度20人くらいが座れるようになっている。
端っこの方に並んで座ったソラとクロは、とりあえずお茶っぽい飲み物を運んできた店員の女性にメニューを見て注文をすると、現実世界で自分に起きた事を順番に語った。
「うーん、全く同じだな」
「同じだね」
オレの言葉に、頷くクロ。
リアルで起きた事は、二人とも全く同じでこれといって得られるものはなかった。
アップデートの完了を目前に、突如VRゲームの実力者達の前に現れた謎の白い少女達。
彼女達はシノとチームの人達、更にはクロにまで冒険者カードを渡したらしい。
ということは、実力者の対象にはプロゲーマーの弟子というのが含まれているのだろうか。
それならば自分や詩織、真司や志郎にもカードが渡された理由にも納得できる。
問題は公にしていない情報なので、これをどこで彼女達の機関が知ったのかが気になるところ。
しかし、聞いたところで彼女達が素直に答えてくれるとは思えない。
謎は深まる一方だ。
「怖い人達だったよね」
「わかる、うちなんて鍵閉めてたのに開けられたからな」
「鍵? ふぇ……?」
「オレとシオが見てる眼の前でさ、ゆっくりと鍵が開くのは、もうマジでビビったよ」
「やだぁ、夜中にトイレ一人でいけなくなっちゃうからやめてぇ……」
「おっと、それは失礼」
どうやら彼女も、オレと同じでホラー系の話しがダメっぽい。
顔を真っ青にして小刻みに震えるクロに軽く謝罪をすると、ソラは話題を変えることにする。
まぁ、共通の認識を得られた。
それだけでも、現実の問題についてクロと話をした価値はあっただろう。
気持ちを切り替えるために、お茶を一口飲む。
少しほろ苦くも落ち着く味わいに、ソラはホッと一息吐いた。
「それにしても、精霊達のお茶みたいな飲み物は飲んでると落ち着くな」
「…………むぅ」
クロは、少しばかりムスッとしている。
どうやら、先程した白娘共のホラーチックな話にご機嫌斜めらしい。
こういった時はどうしたものか。
昔からシオからはデリカシーに欠けていると怒られているので、ここから彼女の下がった好感度を上げる会話なんて全く思いつかない。
恋愛シュミレーションゲームだけは、昔から大の苦手なのだ。
女の子の相手をするくらいなら、モンスター達と殺し合いたい。
ソラが思案していると、丁度良いタイミングで頼んでいた甘味がテーブルに運ばれてきた。
女性は「こちらが精霊のパルフェになります」と言って薄いコップに盛り付けたデザートを置く。
「うわぁ、パフェだね」
パァッと分かりやすく機嫌を直すクロ。
店員の精霊さんグッジョブ!
心の中で拳を握りしめたソラは、この勢いに便乗させてもらった。
「うん、しかも抹茶パフェっぽいぞ」
見たところ薄く細長いコップの底にコーンフレークを詰めて、その上にバニラアイスクリームっぽい氷菓、白玉団子っぽいものに小豆っぽいものをトッピングして、トドメに抹茶っぽい味のソフトクリームが乗ったカロリー満点のデザートだ。
「い、いただきます」
この世界で初めての実食らしいクロは、恐る恐る木製のスプーンを手に抹茶のソフトクリームをすくって口に運ぶ。
すると「美味しい!」と頬をほころばせて笑顔を浮かべた。
オレも彼女に続いて、小豆とバニラアイスとソフトクリームをスプーンで小分けにして、まとめて口に運ぶ。
「うん、これは確かに美味しい」
抹茶のソフトクリームのほろ苦い味わいに対して、白玉団子のモチモチとした食感、小豆の控えめな甘み、バニラアイスクリームのガツンと来る強い甘み。
そして最後にコーンフレークのサクサクした食感。
しかもこのデザート、疲労度を5パーセントも回復してくれる優れ物。
「ん〜♪」
どうやらパルフェを気に入ったのか、クロは上機嫌に食べ進める。
その様子に一安心したオレは、パルフェを口にしながら自分の現在のステータスとスキル一覧を表示させた。
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【冒険者】ソラ
【レベル】26
【職業】付与魔術師
【スキルレベル】29
【HP】520
【MP】260
【筋力】26
【片手剣熟練度】34
【積載量】225
【攻撃スキル】
・ストライクソードⅡ
・ソニックソードⅡ
・ガードブレイクⅡ
・デュアルネイルⅡ
・トリプルストリームⅡ
・クアッドスラッシュ
【防御スキル】
・ソードガードⅡ
【補助スキル】
・魔法耐性Ⅱ
・物理耐性Ⅱ
・状態異常耐性Ⅱ
・洞察
・感知
・火属性付与Ⅱ
・水属性付与Ⅱ
・風属性付与Ⅱ
・土属性付与Ⅱ
・雷属性付与
・光属性付与
・闇属性付与
・攻撃力上昇付与
・防御力上昇付与
・素早さ上昇付与
・跳躍力上昇付与
・異常耐性上昇付与
・付与軽減
――――――――――――――――――――――
リヴァイアサン・アーミー戦でレベルが2上がって、現在のオレのレベルは26だ。
今のところ新しいスキルを覚えていきたいので、獲得したスキルポイントは全て付与魔術師に全振りしている。
だがしかし付与魔術師のスキルは強化されると消費MPも増えるらしく、今まで消費が40だった四属性のスキルコストも〈属性付与Ⅱ〉に進化することで50になっている。
となると付与魔術師をマトモに扱うとなると、付与軽減とMPを確保するためにひたすらレベル上げが必須だ。
少しだけ眉間にシワを寄せると、クロが首を傾げた。
「やっぱり付与魔術師は辛い?」
クロの質問に、ソラは首を横に振った。
「普通の付与魔術師ならここまで苦しまないと思う。オレはスキルポイントの獲得量が4倍だからな、MPが増えるよりもスキルが育つのが早いんだよ」
ただ強化された属性付与は、すごく強いと断言できる。
リヴァイアサン・アーミーで試したが〈風属性付与Ⅱ〉と〈攻撃力上昇付与〉を使用した攻撃スキルは、的確に敵の弱点部位を狙うことができれば一撃で倒すことができた。
つまり敵のHPから推測するならば、強化されたオレの攻撃力は、弱点でダメージ量が2倍になったと仮定しても250以上はある。
しかも物理攻撃を半減する特性が発揮されていなかった事から推測するに、レベル2になった属性付与による攻撃スキルは、もしかしたら魔法攻撃の扱いなのかも知れない。
「この森のモンスターは大体HPが500前後だから、HP1500もあるフォレストベアとか装甲が硬いビートル以外は一撃で倒せるかな」
「ソラ、強すぎない?」
「その代わりに燃費がメチャクチャ悪いけどな。マジックポーションを常に20本以上はキープしてないと、すぐにMP切れしそうだよ」
「だから40本もマジックポーション買ってたの?」
「ああ、当たり前だろ。付与魔術師の真価は、付与スキルを味方にも使用できる事だからな」
「なるほど、勉強になる」
「と言っても、今のところマトモに付与魔術師のスキルを使用しているのは、オレだけだと思うからなんの勉強にもならないぞ」
なんせ戦ってて改めて思ったのだが、洞察スキルが初見の相手に対して余りにも便利すぎる。
例えば森に出てくるモンスターは、森に生息しているのだから火属性が弱点だと思いがちだが、実はそうではない奴らもいる。
〈フォレストビートル〉が良い例だろう。
弱点を見抜けない冒険者なら火属性を選びそうだが、なんとコイツ雷属性が弱点というふざけたやつなのだ。
他にも風属性が弱点の〈ポイズンビー〉や〈フォレストアント〉等もいた。
今他の付与魔術師がどうしているのかは知らないが、汎用性が高まるのはスキルレベル10の攻撃と防御の上昇付与を取得してからなので、最速でも今日か明日までは掛かるのではなかろうか。
そう言うと、クロは空になったパルフェを眺めながら小さな声で呟いた。
「ソラは、強くてとても頼りになるよね。良かったら、わたしと団長のいるクランに入らない?」
「……ッ」
不意な誘いに、心がズキンと痛む。
ソラは歪みそうになる顔を必死に耐えると、精一杯の笑顔を浮かべて首を横に振った。
「あー、せっかくの誘いだけどそれは遠慮させてもらうよ」
「なんで? クランに入ったほうが色々と便利だよ」
「知ってる。クランに入ると、団員の数に応じて王国から援助金が入るんだろ。後は確か、各国で購入するアイテムが安くなるんだっけ?」
「知ってるなら、なんで……」
「昔ちょっとトラブルがあってな。それ以降、クランとかに所属するのはダメなんだ」
彼女はオレの顔をじっと見つめる。
しばらくして小さく頷くと、残念そうな顔をして溜め息を吐いた。
「わかった。ごめんね、急に誘ったりして」
「こちらこそ、期待に応えられなくてごめんな」
そしてソラとクロは、二人揃って黙ってしまう。
……ヤバい、気まずい。
こういう時こそ、男として何か気が利いた話題を提供しなければ。
そう思い口を開こうとすると、
「あ、こんな所にいらしたんですね! ソラ様、クロ様、ギオルが用があるそうです。此方にいらしてください」
「あ、ああ。分かった、待たせると悪いから行こうかクロ」
「う、うん」
絶妙なタイミングで来てくれたアリアに便乗して、強引に気まずい空気から脱する。
席を立つと、ソラは元気いっぱいに先導する彼女の後ろについていく。
クロは、まるで一人にしないで欲しいと言わんばかりに慌てて立ち上がると、オレの後ろにぴったり続いた。
パルフェの料金の支払いを済ませると、三人はその場を後にする。
時間を確認すると、ソラは自分達がやってきた方角の森を見て、小さな声で呟いた。
「……さて、今頃あっちはイベント戦かな?」