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第34話「VR緊急会議」

本日1/30日、ジャンル別総合ランキングにのせて頂きました。

読んで下さる方々、応援して下さる方々、誠にありがとうございます!

「……緊急プライベートVRチャット会議なんて久しぶりだな」


 プライベートVRチャットとは、普通のチャットと違い口頭で会話のやり取りが出来る空間の事。

 パソコンに入れたアプリで部屋を作って、フレンドにパスワードを教えてVRヘッドギアでログインする。

 すると自分の作ったアバターで、どんなに遠くにいる人達とも直接会って会話ができるという現代の優れものだ。

 しかもこれの素晴らしいところは、アバターの設定を同期から固定に変更する事で声を男の時のオレに出来る事。

 久しぶりに黒髪の少年に戻ったオレが、簡素な部屋の中心に設置した円卓に両肘を乗せ椅子に腰掛けて待っていると、設置した左右と対面側にある椅子の前に、詩織と真司と志郎の三人がリアルの姿を再現したアバターでログインしてきた。


「よ、昨日ぶり!」


「おまえは大変な事が起きても、いつも元気だよな」


「おはようございます、それが蒼空の良い所だとボクは思いますよ」


「おはよう、真司君、志郎君。朝早くからお兄ちゃんが急に呼び出してごめんね」


 蒼空が右手を大きく上げると、真司は呆れ顔になり志郎はいつもの爽やかな笑顔を浮かべる。

 妹の詩織は「保護者かな?」と思わせるような発言をするが、これはいつもの事なので気にしない。

 他の三人が椅子に腰掛けると、蒼空は会議を始めた。


「さて、この四人で集まったのは他でもない。このアストラルオンライン……長いから今後はアスオンって略すゲームが、現実に影響を与える程の代物だった件についてだ」


「ああ、驚いたよな。まさか朝起きて日課のジョギングしようと思ったら、玄関開けて目の前に木が生えてるなんて思いもしなかったぞ」


「うちは母さんが毎日手入れしていた庭がメチャクチャになってて、目も当てられない惨状です」


「それはお気の毒に……」


 詩織が苦々しい顔をする。

 きっと志郎の親は今頃発狂しているだろう。可哀想に。


「まぁ、多分だけどこのイベントをクリアしたら木は無くなると思うから、それまでの辛抱だな。問題は、それまでに家の中に木が生えてこない事を祈るばかりか」


 今の所は建物の外側にしか生えていないが、それだけでも世間は大騒ぎだ。


 なんせ道路にも木が生えている。


 今は除去する作業が進められてるが、トラック等の物流の搬送に多大な影響がでるだろう。


「あの胡散臭い女達が言ってる事って信用……するしかないんだが、推奨レベル80ってクリアできるのか?」


「リリースされてまだ三日目ですからね。全体のレベルの平均は、恐らく10前後くらいだと思います」


「そういえば、二人は今どのくらいなの?」


 詩織が尋ねると、真司と志郎は不敵な笑みを浮かべて各々の現在のレベルを口にした。


「俺が今レベル14で」


「ボクもレベル14ですね」


「おお、メチャクチャ上がったな」


「そういうおまえはレベル24だけどな」


「四六時中戦ってたのに、レベル差が縮まらなくて困ってますよ」


「いや、たぶん永久に縮まらないんじゃないかな……」


「なんでだよ」


「まさかその口振りから察するに、また何かありましたね?」


「え、お兄ちゃん経験値系のレアスキル持ってるの?」


「いや、スキルじゃないんだけどさ……」


 今後の事も考えてオレは、三人に魔王との戦いでいつの間にか与えられていた〈英雄の器〉という称号について説明した。

 その効果は、獲得した経験値と設定している武器熟練度の上昇。

 この事を口にすると、当然のことながら真司と志郎と詩織は三人して固まる。

 しばらくした後に、オレはムッとした顔の三人に指差しでこう言われた。


「おまえ全経験値上昇のスキルもってるじゃないか!」


「蒼空、流石にチート過ぎませんか?」


「お兄ちゃんだけズルいズルい!」


「しかもこの〈称号〉パーティーにも恩恵あるみたいでな、今一緒にプレイしているクロがレベル18まで上がってるんだわ」


「クロちゃんがやたらレベル上がるの早いなーって思って見てたけど、原因はお兄ちゃんだったのね!」


「アバババババババ!」


 嫉妬のあまり椅子から立ち上がり歩み寄ると、詩織は蒼空の両肩を掴み全力で前後に揺さぶる。

 脳がシェイクされるような感覚に流石のオレも軽く酔い、開放されると床に両手と膝をついてぐったりした。


「まったく、クロちゃんを廃人道に引きずり込まないように気をつけなさいよ」


「ぐぅ、師匠にも同じこと言われたな……」


 そう言うと、親友二人は深くうなずいた。


「蒼空に付き合ってると普通の感覚がおかしくなるからな」


「気をつけて下さい。その子は下手をしたら普通に戻れなくなりますよ」


「おまえら普段オレをどんな目で見てるんだ」


「廃人?」


「非常識?」


「雑食ゲーマー?」


 うん、知ってた。


 ちなみに詩織が口にした雑食ゲーマーとは、神ゲーやクソゲーを無差別にプレイするプレイヤーにつけられる二つ名で、VRゲームの雑食掲示板の住人達の総称だ。

 オレはその掲示板で【雑食四天王】の一人として崇められていて、アスオンをやる前までは他の雑食ゲーマーの人から攻略困難なクソゲームを「やってみて下さい」と気軽に頼まれていたものだ。

 そしてクリアした動画をサイトに投稿しては、大抵みんなからドン引きされる。


 しまいには【雑食王】だの【雑食の化身】だの、褒めてるのか貶されてるのかよく分からないことを言われることもしばしばあった。


「とまぁ、お遊びはここまでにして本題に入ろうか。三人に集まって貰ったのは他でもない今回のイベントに関係することだ」


 蒼空はそう言って三人に視線を向けると、昨日あったことを正直に暴露した。


「実はオレ、今はアスオンで精霊の森の中にいるんだ」


「「「はぁ!?」」」


 オレの発言に、三人が驚きの声を上げる。

 でも相手にしている暇はないので、蒼空は続けて畳み掛けるように自分が進行しているクエストを説明した。


「しかも妖精のお姫様、アリアと一緒に森の結界を弱めているアイテムを取りに行く最中だ」


「蒼空、おまえ!?」


「特殊イベントを引き寄せる体質は、アスオンでも変わらないみたいですね!?」


「お、おおおお兄ちゃん……」


 ショックのあまり、ガクガク震える詩織。

 そういえばお姫様に関する情報を見つけたら、彼女に教えるように言われていた事を思い出す。

 見たところ妹は呪詛みたいな言葉を吐いていて、真司と志郎もあえて触れないようにしていた。


 あ、ヤバいこれは後で殺られる奴だ。


 リアルで骨を覚悟しよう。

 蒼空は詩織から視線をそらすと、今回の方針を口にした。


「とりあえずオレは、このままクエストを遂行する。もしかしたら、復活した結界でリヴァイアサンの弱体化を狙えるかもしれないからな」


「なるほど、そういうことか」


「隠しギミックでレイドボスが弱体化するのは、十分にありえますね」


 このゲームは、クソゲーと違ってシステムはしっかりしている。

 結界が弱まって復活したのなら、結界が強くなればそれなりに効果があるはず。

 無かったらその時はその時だ。

 オレが三人にお願いしたいのは、唯一ただひとつだけ。


「オレが会った女王によると、森には点在している精霊達がいる。みんなにはその人達を女王のいる村に避難させるのと、護衛をしてもらいたいんだ」


「敗北条件その1だな」


「80%以上の精霊達の死亡で敗北でしたね。これはトップクラン達に協力してもらわないと厳しそうですね」


「でも入れるのか? 昨日一回だけトライしたけど丸太で叩き出されたぞ」


「あれは面白かったですね」


 爽やかに笑う志郎。

 蒼空もそこは懸念しているが、今回はイベントの会場が森だ。

 初期の服を着てないと入れないという制限は、今回だけは適応されないはず。

 もしも適応されてたら詰みだ。


「うーん、アップデートが明けたら行けるんじゃないかな。じゃないと強いクランの奴ら全員参加できないし」


 結局の所、一か八か試してみるしかないのだ。

 というわけで、オレ達の視線が詩織に一斉に向けられた。

 妹は未だにショックから立ち直れていないみたいだが、このあたりで復帰してもらわないと困る。


「詩織、師匠の方はオレから呼びかけるから、おまえの方は所属してるクランに動けるか聞いてみてくれ」


「え、あ……うん、わかったわ。みんなに後で呼びかけてみる」


 これで話すことは全部だ。

 後は向こうでリヴァイアサンの情報を集めながら、指輪を回収するだけ。


 あ、一つだけ言い忘れた事がある。


 蒼空は三人に声を掛けると、一番大事な事を伝えた。


「ちなみに精霊の道案内抜きで精霊王のいるところには近寄るなよ。アリアいわく、ガードしているレベル100のゴーレムに消し飛ばされるらしいからな」



「「「レベル100のゴーレム!?」」」



 まぁ、驚くよな。

 オレも初め聞いた時は驚いたよ。


 まるでコントのような驚きぶりに、蒼空は満足そうに笑う。

 話が終わると、真司と志郎は朝食がまだだとログアウトする事にした。


「ああ、そうだ。おまえゲームで魔王の呪い受けてるけど、現実は大丈夫だよな?」


「ボクも真司と同じく気になってました。ラスボスの呪いを受けて、現実に変化とかありませんよね?」


 その質問に、オレはノータイムで答えた。


「大丈夫に決まってるだろ。なんだ、おまえらオレに女になって欲しいのか」


「バカか。もしかしたらって心配しただけだ」


「その調子なら大丈夫そうですね。でも何か変化があったら相談してください。ボク達は、親友なんですから」


「ああ、ありがとな。困ったことがあったら遠慮なく相談するよ」


 そう言うと、二人はログアウトする。

 蒼空は見送ると、その場で佇んだ。

 背後で、残った詩織が「お兄ちゃん……」と心配そうな声をかける。

 オレはそれに対して手を振って、大丈夫だと伝えると、小さな声で呟いた。




「二人とも、ごめんな」




 いずれバレる事は理解している。


 しかし、タイミングは今ではない。


 臆病な自分に対して、相変わらず情けない男だな、と呟くと蒼空は部屋を解散させた。

 

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[良い点] この章をありがとう [一言] ソラ。。
[気になる点] > いずれバレる事は理解している。  しかし、タイミングは今ではない。 何故に?むしろ今しかないと思うのだけど。 カッコつけてるような言い回しだけど、カミングアウトするのをビビってる…
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