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第23話「捨てる神あれば拾う女神あり」

 これは流石に酷い落とし穴だ、とソラは心の底から思った。

 攻略ガチ勢は初期のなんの効果も無く、高く売れる服ならば必ず手放すだろう。

 そんな彼等に、まさか初期装備が必須となるクエストを用意するとは鬼畜の所業だ。

 これを考えた奴は人間ではない。

 マップ開放を自分でする必要がないとはいえ、まさかこのようなクエストを容赦なくぶち込んでくるとは、これが個別のストーリーならプレイヤー達からクレームが殺到する事間違いなしである。

 普通に防具店とかに行ってたら、オレも売ってた可能性は高い。


 だって防御力と耐久力【F−】だもん。


 他のプレイヤー達に追いかけ回されなければ、ソラも装備を変えてアリアに会うことが出来なかっただろう。

 そう考えると感謝するべきなのだが、嬉々として追いかけ回す彼等の顔を思い出すと不思議とそんな気持ちは1ミリも湧いてこなかった。


 うへぇ、ということはシオや師匠達はこのクエストには頼れないだろうなぁ。


 彼女達は効率重視だから、必ず昨日の内に初期の衣装は売ってしまっているだろう。

 となると残るはシンとロウの二人か。

 メニュー画面を開いてフレンド欄を確認してみると、期待していた通りログインしていた。

 オレは即座に二人に、


『初期の服は売った?』


 とメッセージを飛ばした。

 すると5秒もしないうちに二人から、


『ちょうど売ったところだ』


『上下で4万エルはお得でしたね』


 と返ってきた。


 ぐふぁ、間に合わなかった……!?


 吐血して、ソラはその場に両手と両膝をついて露骨にガッカリした。

 そのただならぬ様子に、シルフとアリアが何事なのかとビックリする。

 しばらくしてシンとロウの二人から、


『何かあったのか』


『どうかしましたか』


 というメッセージが送られてきたので、

ソラは『大丈夫。なんでもない』と返してフレンドチャットを閉じた。


「くぅ、あと少し気づくのが早ければ……ッ」


「ソラ様、大丈夫ですか」


「う、うーん。大丈夫じゃないかな」


 アリアの心配する声にソラは苦笑いした。

 こうなったら最終手段として、シオか師匠に事情を説明して、初心者から衣装を買い取ってもらい参加してもらうしかない。

 エルを無駄に消費させてしまうのは心苦しいが、このクエストの事を聞けば彼女達も喜んで協力してくれるはずだ。

 善は急げという言葉もある。

 そうと決まればフレンド欄を開いて、シオと師匠の名前を探す。

 その直後の事だった。

 新規で一件のメッセージがオレの受信ボックスに届く。

 先程メッセージのやり取りをしていたシンかロウだろうか。

 彼等の事だ、心配している可能性は十分にある。

 ソラは一応受信ボックスを開いた。

 するとそこには、意外な人物からのメッセージが届いていた。


『フレンド申請ありがとう』


 送り主の名前は、クロ。

 ……まさかな、とオレは彼女に挨拶のお返しと共に一つだけ質問をした。


『こんばんは、一つだけ質問したいんだけどクロって初期装備の服は売らずに持ってる?』


 送信して、少しだけ待つと彼女からの答えが帰ってくる。

 ソラは恐る恐る開くと、その内容に目を通した。


『団長からは売るように言われたけど、大切に持ってる』


 ──ああ、神はオレを見放さなかった。


 いや、クロは女の子だから女神か。

 そんなどうでも良いような事を思いながらも、ソラはアリアとシルフに尋ねた。


「この服を着ていれば、森に一回だけ入れるんですよね?」


「はい、そうです」


「わかりました、それと今から一人だけ心強い仲間を呼ぼうと思うんですけど良いですか?」


「ソラ様のお仲間なら、お呼び頂いても大丈夫ですよ」


「女王様、ありがとうございます」


 素早く『今から誓約の森に来れる?』とメッセージを打ち、クロに送信する。

 しばらくすると彼女から、こんなメッセージが返ってきた。


『団長から許可もらったから遊びに行くね』


 よっしゃあ!

 強い仲間一名確保だ!





◆  ◆  ◆





 場所は変わり〈誓約の道〉。

 ソラが一人で森の外で待っていると、黒いドレスではなく初期の衣装に変えた長い黒髪の少女、クロが歩いてくるのが見えた。


「ソラー!」


 彼女はオレの姿を見つけると、明るい笑顔を浮かべて駆け出した。

 それを両手を広げ受け止めてあげると、ソラは改めて彼女に礼を言う。


「来てくれてありがとう、助かるよ」


「ううん、マップが開放できなくて攻略止まってたから、団長が抜けても問題ないって」


「ふふふ、それならオレ達で師匠達を驚かせてやろうぜ」


「驚かせる?」


 首を傾げる彼女を離すと、オレは手を握って森に足を踏み入れる。

 するとクロが足を止めて、慌ててソラを引き止めようとした。


「だ、ダメ! この森は精霊達の誓約で何度入っても追い出されるの!」


「果たしてそうかな」


「ソラ、それってどういう──ひゃ!?」


 力いっぱいクロの手を引っ張ると、ソラは森の中に思いっきり踏み込む。

 彼女は踏ん張る事ができなくて、一緒に森の中に入った。

 すると二人の背後で木々達が来た道を封鎖する。

 その光景をクロは、信じられないと言わんばかりに目を見開いて眺めた。


「え、え……どういうこと。昨日試した時は動けなくなって、丸太みたいなのが飛んできて叩き出されたのに」


 なにそれ面白そう。


 強制的に森から出されることは知っていたが、スタンさせて丸太が飛んでくるのか。

 中々にユニークな仕掛けだな、とソラは思いながらクロに親指を上に立ててみせた。


「ふ、やってみないと分からないもんだろ?」


「ソラ、一体なにをしたの。こんなこと団長も出来なかったのに……」


「師匠達に教えないって約束してくれるなら教えるよ」


「団長に……なんで? 攻略情報は共有するものって団長からは教わってるけど」


「普通ならそうなんだけど、今回のはダメなんだ」


 クエストクリア報酬を複数で分けないといけないからな!


 師匠が知れば絶対に森に入ってくるし、オレの事を伏せさせたとしてもクエスト中に遭遇する可能性は十分にある。

 そうなれば、勘の鋭い師匠は必ずクエストに一枚噛ませろと言ってくるはずだ。 

 しかしクロを参加させて、現在の人数はオレと彼女で二人だ。

 これ以上の増加は避けなければ。

 そもそもこういった特殊なイベントにおけるベストな人数は一人で、次に妥協して二人、ギリギリ許容して三人だ。

 クロはこういったゲームの基本を知らないのか、暗い顔をすると小さな声で呟いた。


「でも団長、森に入れなくて困ってた」


「それならオレとクロで、師匠の代わりに森でやる事を終わらせてあげたら喜ぶんじゃないかな」


「団長喜ぶ?」


「ああ、オレが保証しよう。師匠は喜んでクロの頭を撫でてくれるぞ」


「……うん、わかった!」


 ぶっちゃけ師匠が喜ぶのはウソなんだが、この子純粋すぎないか。

 お兄さん、お嬢さんが悪い人に騙されないかとても心配になるのですが。

 とりあえず納得してくれたクロの手を握って歩き出すと、ソラはパーティ申請をしながら森に入るための謎解きを教えてあげた。


「森に入る方法なんだけど、それには世界樹の力を借りないといけないんだ」


「ユグドラシルの事?」


「ああ、この最初の衣装には〈ユグドラシル〉の加護があって、それで一回だけ森の中に入る事ができるらしい」


「うわー! そんなの見つけるなんて、ソラって凄いね!」


 パーティ申請を受けて、それから目を輝かせてソラを見つめるクロ。


 オレも奇跡的に知ったんだけどね。


 現在はクエストを受注した事で、オレが森に入るのはフリーパスになっている。

 ちなみに女王様に確認したのだが、自由に森を出入りできるソラがパーティを組んだとしても〈衣装〉の条件をクリアしないと森に踏み込んだ時点で強制的にその仲間は外に出されるとの事。

 抜け穴は一つもない。

 流石は不正に厳しい事に定評のあるゲームである。

 そう思いながら歩いていると、スケルトンソルジャーと戦った広い場所に出た。


「アリア、仲間を連れてきたぞ」


 しかし彼女からの返事はない。

 ここら辺で隠れているように指示したのだが、なんだか嫌な予感がスル。

 しばらくすると、どこからか彼女の悲鳴が聞こえてきた。


「ソラ、誰かが襲われてる!」


「………………ッ!?」


 隠れているように言ったのに、動いたなあの小娘。

 ソラは剣を抜くと、クロと一緒に悲鳴がする方角に向かって駆け出した。

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