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第236話「ラセツのメッセージ」

アストラル・オンライン第一巻発売中。


粗が多すぎた本編を大幅に書き下ろし、生まれ変わった〈アストラル・オンライン〉を応援いただけたら幸いです。

 四之村に無事に到着したオレ達。

 いつものように二組に別れて、聞き込みイベントを全て完了する。

 だがやはりラセツは出発した後で、この村でも予想していた通り会うことはできなかった。


 いよいよ残る村は、五之村と六之村。

 今のところ村巡りをしているだけで、これといって大した進展は何も無い。

 だがそろそろ何か起きるのではないかと思っていたら、その予想は見事に的中した。


「ラセツ姫から、セツナ姫にこれを預かっております」


「本当か!?」


 なんと最後に話かけた村長の老婆が、ラセツから〈オーブ・レコード〉を預かっているとアイテムを渡してきた。


 ──〈オーブ・レコード〉とは、この世界では映像を撮影し保存する事ができる、一種のビデオカメラみたいなもの。

 外で視聴するのは村の人達や、万が一にも〈闇の信仰者〉に見られる可能性があるため、オレ達は宿屋の一室を借りてそこで再生する事にした。


 プライバシーがしっかり保護されているお高い宿は、例え〈忍者〉職であっても入ることは困難な程に強固だ。

 中に入り(かぎ)をしっかりかけたオレは、手のひらサイズの宝玉を手にするセツナに再生するよう(うなが)す。


「セツナ、頼む」


「わ、わかった」


 どこか緊張した面持ちで彼女は頷き、皆が見ている前で宝玉を綺麗な指先でワンタッチ。

 青い手のひらサイズの結晶は注に浮いた後に、淡い光を放って何も無い空間に記録した映像を投影する。


 先ず目の前に現れたのは、これを撮影した主である黒髪の武装をした和装の少女だった。

 外見の顔立ちとか体つきは、写真で見た通りの和風美少女って感じ。

 勝ち気な姉とは違い、表情は穏やかで大人しい印象が映像でも伝わってくる。


 とても人に危害を加えそうには見えない。

 こんな女の子が父親に重傷を負わすなど、どう考えてもあり得ないと思った。

 そんな個人的な感想を懐きながらも、オレはもう一つの相違点に眉をひそめた。


 彼女と同じ真っ白な肌には、何やら黒い模様みたいなのが浮かび上がっている。

 ファンタジーの世界ならば入れ墨の一種かと思ってしまうところだが、よく観察していると〈洞察〉スキルがソレは普通の模様ではない事を映像越しに教えてくれた。


 ──〈暴食(ぼうしょく)呪紋(じゅもん)〉。


 肉体を失った〈暴食の大災厄〉が、巫女の身体を乗っ取ろうとしている状態。

 進行度合いは後一週間以内で、完全に掌握されてしまう事が分かる。

 期限的にはかなり猶予があるけど、この時点でそんなに長いのは何かありそうな気がしてしまう。


 深読みというよりは、メタ読みというヤツ。

 例えばホラーゲームで追いかけっこが始まるときは、大抵隠れる場所があったり通路が入り組んでいたりするので非常に分かりやすい。

 今回のケースで言うならば〈闇の信仰者〉と師匠がやり合っているところから鑑みるに、恐らくは拉致られるんじゃないかなと嫌な想像が働いてしまった。


(一応聞いておくけど掌握された場合に、彼女はどうなるんだルシフェル?)


『私の推測ですと、あのタイプの呪いは対象の人格を閉じ込めて主人格として掌握すると思われます』


(消してしまう最悪のパターンじゃないのは幸いだけど、彼女の心身がどこまで耐えられるか分からないからな。どちらにしても急がないといけないか)


 そんなやり取りを頭の中でする一方で、映像の中にいるラセツは口を開いた。


『姉上、ここまで追い掛けて下さってありがとうございます』


「ラセツ……」


『うちの身体は見ての通り〈暴食の大災厄〉に支配されつつあります。本当は自刃して怪物ごと命を天に返そうと思っていたのですが、それは父上が身を(てい)して止められたので……』


「なるほど、だから父上の背中に短刀が刺さっていたんだな」


『父上は自身の血を使用し一時的に大災厄の進行を抑える術を掛け、うちに生きてほしいと願いました。ですから精一杯抗う事にしたんです』


「それなら何で、うち等を頼ってくれなかったんだ!? なんでオマエは一人で抗うことを選んだんだ!」


『……本当は頼りたかったんですよ、じゃないと姉上がすごく怒るのは知っているので。ですが今は気を緩めてしまうと……っ』


 映像に大きなノイズが発生する。 

 苦しそうに顔を歪めたラセツの背からは、禍々しい形状のハエの羽らしきものが出現した。


 神話に出てくる妖精のような姿に、思わず目を見張る。

 六枚の羽からは真っ黒な鱗粉(りんぷん)が撒き散らされていて、彼女の周囲に張り巡らされていた結界を黒く染めていた。


暴食之毒(グラトニー・ヴェノム)〉という名のボス固有スキルだと、オレの見抜く目は鱗粉の正体を看破する。

 アレは付与されてしまったら、解除するには()()した巫女の祈りが必要となるらしい。


 横目で隣りにいるセツナを見る、彼女の巫女としての力は残念ながら未だ覚醒していない様子。

 今までの戦いを思い返せば〈大災厄〉を倒す際には、担当の巫女は必ず覚醒していた。

 つまり白騎士がやってきて倒したのは良いが、完全討伐には条件が足りていなかった可能性が大いに考えられる。


 余計な事をしてくれたな、と苦々しく思うけれど、あくまでもこれは結果論だ。

 それにVRMMOの中で他者の攻略に口出しをするのは、通常ではマナー違反である。

 だからこれは胸の内に留めておき、落ち着きを取り戻したラセツに意識を集中する。


『はぁはぁ……こ、このように身体の一部に〈暴食の大災厄〉の影響が出てしまうんです。ですから姉上達に被害が出るのを避けるためにも、頼るわけにはいきませんでした……』


「ラセツ……っ」


『各村の宝玉を全て集めれば、邪悪を()(はら)う天使の封印を解くことができます。〈ウリエル〉様にお力を頂ければ、この状況を打破する事ができるはずです』


 スクリーン映像の中にいる少女は、笑顔でこれを見ている姉に向かって最後にこう言った。


『だから心配しないで、姉上……うちは必ず帰ってくるから』


 ──これはもう、一刻も早く助けに行かないといけない。


 映像が消えると重たい空気に、この場にいる全員が押し黙る。

 仲間達を見たら、彼等も同じ気持ちを抱いているらしく決意に満ちた顔をしていた。


 午前はゆっくりしたし、セツナもたっぷり休んで休息は十分に取った。

 ここからは苦しんでいる妹を、最速で助けてやるのがゲーマーってやつじゃないのか?


 一人覚悟を決めると、そこでようやく(うつむ)いた姿勢で固まっていたセツナが口を開いた。


「みんな、うちから一つだけお願いをしても良いかな……」


 何を言うかはわかり切っているが、全員あえて彼女の言葉を最後まで待った。

 周りが口を閉ざす中で、苦しむ妹を助けたい強い願いを抱く鬼の姫様は、涙を拭い去って立ち上がりオレ達を見渡す。


「うちにできる事だったら何でもする! 妹を、ラセツを助けるのを改めて手伝って欲しい!」


「分かった、任せろ!」


 オレが答えた後、仲間達は全員頷いた。

 全員今の映像で更に気合が入ったらしく、メラメラと燃えるような闘志を(みなぎ)らせる。


「立ちふさがる敵は全員切り倒すよ」


「クランの仲間達にも声を掛けとくわ。多分この調子だと六之村辺りで決戦になるでしょ」


「アイテムの供給は我に任せるのじゃ! 錬金術で作ってきた強化ポーションを開放するのじゃ!」


 クロ、シオ、イノリの女性陣がセツナの周りに集まって彼女の手を強く握り。


「ボクは騎士として皆の盾になってみせます」


「火力支援なら俺の役目だな。切り離したデカバエに、特大の魔法を叩き込んでやるぜ」


「というわけで、今から五之村に行ってそのまま六之村に向かおう!」


 ロウとシンの言葉に頷きながら、オレは今後の方針を口にした。


「今日中にラセツを助ける、異論はあるか?」


 全員の答えなど、尋ねなくとも最初から決まっていた。

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