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第198話「予言と歌姫の決意」

 船の上で数日が経ち、海の国に二日後には到着するというのに、オレはラウラと奇妙な関係になっていた。

 具体的に言うと挨拶も交わす事ができない状態で、彼女は意図的に避けた後に物陰からジッと此方を見ている状況だ。


 何か話しかけたいようだが、告白して振られたから声を掛け辛い。


 そのような雰囲気を感じ取ったので勇気を振り絞り、せめて挨拶だけでもしようと自分からラウラに近づいたら、


「ご、ごめんなさい!」


 残念ながら、彼女は顔を真っ赤に染めて脱兎(だっと)の如く逃げてしまった。

 しかし(しば)らく経つと再び離れた所から見てくるので、オレは常にラウラの視線を受けながら、船の上を過ごすことになる。


「どうしたら良いんだこれ……」


 本日も四人で日課となっている大型モンスターとの戦いを終えたオレは、独り言をつぶやく。

 戦闘の時は以前と変わらず連携を取ってくれるのだが、会話をしようと思ったらラウラは逃げてしまう。

 内容が内容なだけに、女子であるクロとイノリを頼るわけにはいかない。

 この状況で自分に残された選択肢は、ただ待つしかなかった。


(でもこれが続くのは、良いとは言えないよな……)


 もしもこのまま大災害〈アスモデウス〉との戦いに突入して、万が一にもミスが発生してしまったら、取り返しのつかない事になる。

 だけど勇気を振り絞った此方からのアクションは、見事に失敗してしまった。

 再度チャレンジしたとしても、同じ展開になるのは目に見えていた。


(……こうなったのは、オレのせいでもあるんだ。期日が迫ってきたら、多少強引にでも捕まえて話をしないといけないか)


 でも捕まえたとして、一体何と言えば良いんだろう。

 告白を断ったのは自分なんだから、何を言ったとしても逆効果なのではないか。

 いくら考えても、良い答えは全く浮かんではこない。

 釣りをしながら、どうしたものかと困っていると、誰かが隣に腰掛けた。

 感知スキルで常に、周囲はチェックしているので、わざわざ見る必要はない。

 クロの母親のアリサだった。


「こんにちは、ソラ君」


「あ、アリサさん」


「振ったお姫様にストーキングされて、いかにも困ってますって顔してるわね」


「正直に言って、自分で()いた種とはいえ少しだけ参ってます……」


「うふふ、モテる男の子は大変ね」


「そうですね。……でも正直なところ、何で彼女が自分なんかに好意を抱いてくれるのか、イマイチ分かっていないんですけどね」


 苦笑いして答えたら、アリサは手足を伸ばし、どこか楽しそうな顔をして答えた。


「だってソラ君は、常に皆の前に立って戦ってるでしょ。強くてカッコよくて自分を守ってくれる存在に、女の子は惹かれるものなのよ」


「そうなんですか?」


「ええ、見ている限りではラウラちゃんは典型的な夢見るお姫様タイプね。……まぁ、彼女に関しては心配はいらないわよ。きっとその内、向こうから話をしに来ると思うわ」


「……そうだと良いんですが」


 神妙な面持ちになると、手応えを感じてハンドルを巻いて竿を引き上げる。

 しかしどうやらハズレを引いたらしく、釣り針には何の価値もないゴミアイテムの長靴が引っ掛かっていた。

 不運が続くことを暗示しているかのような長靴に、オレは少しばかり不安になる。

 そのまま手に取り、近くにあるゴミ箱に放り入れると、気を取り直して再び竿を海に向かって振った。

 そして温かい日差しを浴びながら、少しだけぼんやりしていると、


「お、あの遠くに見える孤島は、私が活動拠点に使ってたヤツね。ということは、ここら辺で私達は会ったのかしら」


「え、そうなんです?」


「地形とか点在する孤島の位置とか見覚えがあるから、間違いないと思うわ」


「……そうですか、ここでオレはイヴリースに負けて、アリサさんに助けられたんですね」


 つい最近の出来事なはずなのだが、何故か遠い過去のように懐かしく思う。

 オレは口元に小さな苦笑を浮かべると、彼女に改めて礼を言った。

 

「アリサさん、色々とありがとうございます。貴女がいなかったら、この旅は途中で失敗していました……」


「うふふ、どういたしまして。でもお礼なら、私をこの周辺に行くように指示をくれた、光の国〈オレオール〉にいる可愛い魔術師のエムリスちゃんに言ってあげて」


「エムリス……?」


 初めて聞いた名前に首を傾げると、アリサは綺麗なウィンクをして説明をしてくれた。


「実はあの日、あそこにいたのは偶然じゃないのよ。ハルト君と別れて直ぐ、エムリスちゃんからメッセージが飛んできて、ソラ君達が危ないからこの辺りにいるように頼まれたの」


「……なるほど、それならいつか光の国に行ったら、そのエムリスさんにもお礼を言わないといけないですね」


 釣りをしながら、オレはふと心の中で思う。

 果たして光の国とは、一体どんな所なんだろう。

 これまで立ち寄った国を参考にするのならば、光がテーマとなっているのは間違いない。

 そう考えると、光の国と呼ばれているのだから、恐らくは国全体がきらびやかな場所なのだろう。

 詳細をアリサに聞いてみても良いが、それではどこか面白みに欠ける。

 やはりファンタジーの世界で新しい場所は、個人的な趣向だけど初見で訪れるのが一番楽しい。

 そこそこ大きい魚を釣り上げながら、まだ見たことがない国に思いを()せていると、


「そういえば、ソラ君達はこれで三つ目の指輪を手に入れたのよね」


「え……?」


 アリサは小さな声で、不意に予想もしていなかった質問をしてきた。

 余りにも突然の事だったので、竿に集中していたオレは、びっくりして手にしていた魚を海に落としてしまう。

 隣りにいるアリサに視線を向けると、彼女は真剣な顔をして此方を見ていた。

 少しだけ考えた後に、自分は聞き間違いだった時の事を考慮して、念の為に再度確認する事にした。


「指輪って、天使の指輪ですか……?」


「そう、ソラ君達が集めている、四つの指輪の事よ」


「……えっと、そうですね。クロが持ってる〈翡翠(ヒスイ)の指輪〉と、ここには居ない親友が持っている〈紅玉の指輪〉と、自分がまだ所持している〈蒼玉の指輪〉で合計三つです」


「つまり後一つで、四つの指輪が集まるって事ね」


「そうなりますね。……それがどうかしましたか?」


 アリサの意味深な言葉に、怪訝(けげん)な顔をすると、彼女はあっさり質問した意図について語った。


「実はメッセージと同時に、エムリスちゃんから貴方に予言を届けるようにお願いされたの。内容は」


 何もない空間をタッチしたアリサは、フレンド欄を表示して、そこからエムリスのメッセージを開く。

 そして記載されている予言を、周囲を警戒しながら小さな声で口にした。


「──四つの指輪が集まりし時、神に選ばれた天使達は、汚れた魂を断罪するだろう」


「神に選ばれた天使が、汚れた魂を断罪する……」


「何が起きるのかは分からないけど、彼女の予言は必ず当たると言われているわ。こっちの世界でも、リアルの方でも用心しといた方が良いのかも知れない」


「……わかりました。貴重な情報提供をありがとうございます」


 天使が汚れた魂を断罪する。

 それは果たしてゲーム内で起きるイベントなのか、それともリアルの方で起きる新たな問題なのか。

 どちらにしても、今となっては何が起きたとしても不思議ではない。

 何せ現実では遂に、巨大モンスターの大乱闘が発生したのだから。


「さて、これで私の用件はおしまいね。それじゃ、ソラ君。──さっそく仲直りの時間よ」


「え、──ぬわぁ!?」


 油断していたオレは、背後から接近してきたラウラの体当たりを受けて、バランスを崩すとそのままもつれるように海に落ちた。

 幸いにも今は休息時間なので、アリサが放つ威嚇で周囲にモンスターの姿はいない。

 とはいえ、これは一体どういうつもりなのかと思い、ラウラを抱え海面に浮上すると、


「ぷふぁ、ソラ様! 妾、諦めない事にしました!」


「え、えぇ……?」


 覚悟を決めた清々しい顔をしたお姫様に、オレは流石に困惑を隠せなくて目を白黒させる。

 ラウラは、そんな自分の反応を一切気に留める事なく、この数日間考えていた思いをぶつけるように語りだした。


「イノリ様から教わりました! 愛とは諦めない事だと! 当たって砕けても何度もぶつかるのが大事ですと!」


「…………」


「だから、妾は考えました! ソラ様を遠くから眺めながら、考えて考えて考え抜いた結果、ソラ様の事を諦めない事にしました! 例え思い人がいたとしても、ずっと好きでいさせて下さい!」


「……ラウラ、オレは」


 こんなにも思われていても、彼女の好きという言葉に応える事はできない。

 苦々しい顔をして口を開こうとすると、その唇をラウラは右手の人差し指で止めた。


「答えないで下さい、ソラ様の答えは分かっています。これは妾の自分勝手なワガママなんです」


「ラウラ……」


「それにソラ様が許してくださるのでしたら、妾は公娼(こうしょう)でも全然構いません」


 彼女の考えに呆れてしまい、ツッコミを入れるための言葉すら出てこない。

 オレは色々な感情を吐き出すように、深いため息を一つだけした。


「まったく、オレの周りは諦めが悪い女の子ばっかりだな」


「ごめんなさい、でも大好きなんです」


 そう言うと、正面で向かい合っているラウラは、満面の笑顔を浮かべた。

 その笑顔が眩しくて、自分は直視する事が出来なかった。

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