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第183話「知恵の試練」

 【第二問】始まりの都市ユグドラシルにある神々が人々に召喚の媒体として与えた世界樹の枝の名前は『スモールユグドラシル』である。〇か✕か。


 【第三問】精霊の森から妖精国に向かう際に通る道の名は『制約の道』である。〇か✕か。


 【題四問】風の精霊王の名前は『シルフ』である。〇か✕か。


 【第五問】ヘファイストス王国に設置されているマグマの活動を抑制するアイテムの名は『竜結晶』である。〇か✕か。


 【第六問】竜の国の高級品リフラクトリィ・スイートポテトの価格は一つで『一万エル』である。〇か✕か。


 第一問から第六問までは、まるでこれまでの旅のおさらいをするかの様な問題だった。

 残念ながらオレの頭のメモリー容量は少なくて、最初のゴーレムとアリアの母の名前以外は既に削除されていた。

 しかし最強の冒険者の欠点を補うかのように、これまでの全てを記憶しているクロが率先して正解の道を即答。

 彼女の背中に付いて行くことで、ソラ達は一つも間違えることなく地下七階までストレートに降りる事ができた。

 そんな彼女の快進撃に待ったをかけたのは、最後の問題だった。


 【第七問】海の国エノシガイオスで一番人気がある店は、港付近にある『パン屋』である。〇か✕か。


 なるほど、全く分からん。


 オレの記憶の中で港付近のパン屋といえば、あのクエストを受ける事ができる店くらいしか思い浮かばない。

 あのパン屋には、何度か出入りはしていた。

 しかし一番人気があるという情報に関しては、誰からも聞いたことがない。

 クエストを目的にした以外では、確かに冒険者で利用する者は多かったけど、彼らの目的はパンというよりはどうにかして可愛い娘さんとお近づきになりたいといった、煩悩をもった変態達だったので人気店の理由の一つにカウントして良いのかは微妙なところ。


 これにはクロとイノリも首を傾げ、分からないといった雰囲気を漂わせる。


 ノーミスで此処まで来たが、誰も答えを知らないのであれば一か八か勝負に出るしかない。


 不正解のペナルティで出てくるゴーレムは、ラウラからレベル100の強敵と聞いている。

 しかしこのパーティーにはレベル180のアリサがいるので、彼女を前衛にオレとイノリがバックアップをしたらそこまで苦戦はしないだろう。


「皆さん、一つだけ思い出しました!」


 そう思って多数決を取ろうとしていたソラ達に待ったをかけたのは、大きく右手を上げたラウラであった。

 今まで活躍の場面が無かったからなのか、彼女は自信ありますと言わんばかりの顔をした。


「あのパン屋はお父様とお母様が変装して、お忍びで行かれるほどに美味しいんです。ズバリ答えは〇です!」


 なるほど、国王と王妃がわざわざ足を運ぶほどか……。


 キーキャラクターである彼女の口から出た情報に、オレは少し考えた後クロ達に自分の素直な意見を述べた。


「この土壇場のタイミングでラウラの口から出てくるということは、判断材料の一つとしてはかなり重要な気がするかな」


 どうせ二分の一の確率、下手なギャンブルに走るよりは部が良い方に賭けた方がお得だ。

 自分としては、ラウラの選択を支持したい。

 この考えに同じ廃人ゲーマーであるアリサとイノリも賛同。

 少し考えた後にクロも賛成をしてくれて、一か八かの多数決を取るのは中止。この場はラウラの言葉を信じて〇を選択する事になった。

 とはいえ、確実な正解ではない。みんな緊張した面持ちで武器に手を掛けて、いつでも抜けるようにして左の通路を進む。

 すると一定のラインまで進んだ後に、これまでと同じピンポーンという軽快な音が鳴り、下の階に降りるための階段がゆっくり姿を現した。


「やりました! 最後はなんとか貢献する事ができました!」

「おー、やったなラウラ!」


 大喜びするお姫様に、オレ達は惜しみない拍手を贈る。

 続けて頭上から機械的な少女の声が『以上で知恵の試練を終了いたします』とアナウンスをした。

 クイズを全てノーミスでクリアした報酬によって、ソラ達は経験値を大量に獲得。

 レベルが一気に二つも上がり、ソラは85から87になった。


「ふぅ、これで〇✕クイズも終わりか」


 少しばかり緊張していたソラは、ホッとして吐息を一つ。

 先頭になって最後の階段を下りる。

 長い階段の道中、背後でクイズ形式の試練に対してクロが、興奮冷めやらぬといった感じでこう言った。


「ファンタジーゲームってこういうのもあるんだね、やったことなかったからビックリしちゃった」

「まぁ、ゲームにも色々あるんだけど、クイズ形式の謎解きは珍しくないかな」


 過去にプレイしたオンラインゲーム〈スカイファンタジー〉では、本気の謎解きがイベントで出た事がある。

 オレも最初は頑張って、序盤から中盤までは何とか解くことができた。

 しかし終盤の謎があまりにも難し過ぎて、解けないプレイヤー達が続出。

 SNSで誰かが謎を解いて、掲載してくれるのを待つ者達。

 誰よりも先に解こうと協力する者達。

 個人で頑張って解こうとする者達。

 色々なスタンスのプレイヤー達と共に、当時はお祭り騒ぎになっていた事を思い出す。


「イノリも確か報酬に錬金術で使える素材があったから、頑張って全部解いてたよな」

「そうじゃの。あの時はもう頭の中から湯気が出そうなくらいに、問題とにらめっこしてたのじゃ」

「ほんと、真面目だよなぁ。オレは序盤で諦めて、解いてくれる人が公開してくれるのを待ってたのに」

「自分の力で得ることに、大きな意味があるのじゃよ。……とはいえ、我も謎を解いてからどうすればいいのか分からなくて何度か困ったのじゃ」


 問題を解いたからといって、必ずしも次に進めるとは限らない。

 自力で解いていたイノリは正解と思われる数字を見て、それを次にどうしたら良いのか分からなくて右往左往していた。

 確か答えの一つにウィンドウ画面を開いて初心者指導をテーマにした漫画のページ番号とか、型番の武器を装備しろとか色々とあった気がする。

 報酬は美味しかったし皆でお祭り気分で楽しかったのだが、問題の難しさと少ないヒント。それと十時間以上も掛かった謎解きイベントをもう一回やりたいという声は、当然ながらどこからも上がってくることはなかった。

 運営も本気になり過ぎたのを反省したのか、後のクイズイベントの難易度が大幅に下がったときは、一時間程度でクリアできた。

 だけどこれはこれで、プレイヤー達からは「物足りない」だの「これで良い」だの賛否両論の意見が飛び交い、後のイベントの難易度を上下させる事となった。


「ま、ほどほどって難しいよな」


 昔話をしている間に、大きな門が見えてくる。

 洞察スキルで見てみると、そこには『勇気の試練』と大きく表示されていた。

 『知恵』に続いて『勇気』か。某有名なファンタジーゲームならば次に来るのは『力の試練』かな?

 ラウラが手のひらをかざして扉を開く、重低音と共にゆっくりと開かれた先には何の変哲もない洞窟が続いていた。


「なんじゃ、勇気というからすごいのを想像しておったのじゃが、普通の洞窟ではないか」

「あ、バカ!?」


 拍子抜けしたイノリが肩をすくめて、一歩踏み出す。

 ソラが制止するが、もはや手遅れ。

 エリアに入ったのがトリガーとなり、彼女の背後にいくつもの交差したレーザーみたいなものが出現。

 振り返ったイノリは状況を理解して、しまったという表情を浮かべた。


「イノリ、ゴールまで走れ! 後ろのレーザーに追いつかれると継続ダメージで殺されるぞ!」


 額にびっしり汗を浮かべて、ソラはイノリに忠告する。

 『勇気の試練』──その内容とは単純なもので、背後から迫るトラップから逃げつつ目の前に出現するトラップを回避しなければいけない、時間制限付きの厄介な試練だ。

 トラップを見抜く目になれない代わりに、せめてもの支援としてソラはイノリに〈素早さ上昇付与〉を五つ使用する。

 バフのアイコンを確認した彼女は、脇目も振らずに走り出した。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ! こんなところで死ぬのは嫌なのじゃあ!」


 叫び声を上げながら、あっという間に背後から迫るレーザーを背にしながら洞窟の奥に消えるイノリ。

 しばらくして断末魔のようなものが奥から響き渡り、それと同時に何か鈍い音がした。

 左上に表示されているパーティーメンバーの一覧で、彼女のHPがゼロになった事から全てを察したソラは、淡い光が隣に集まり人の姿を形成するのを見守る。

 体育座りでリスポーンしたイノリは、よほど恐ろしい目にあったのか小刻みに震えていた。

 ソラは少女の肩にそっと手を置いて、慈愛のこもった目でこう言った。


「良かったな、リスポーン地点がここで」


 イノリは涙目で、何度も頷いた。

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