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第120話「屋台のテーマ」

 オレの知るプレイヤーの中で最強のシェフであるシオと合流したことで、直ぐに屋台で扱うメインのテーマは料理に決まった。


 次に考えなければいけないのは、屋台でどんな料理を出すのか。


 流石に道のど真ん中でずっと立ち話をするのは宜しくないし、他の人の耳には入れたくない内容なので、先ずは移動する事をオレは提案する。


 すると良くできた妹様ことシオは、それならオススメのお店があると案内して、ソラ達は〈ヘファイストス〉王国の大通りにある小さな喫茶店の前で足を止めた。


 木製の扉を開けて中に入ると、店内は狭くも最低限の広さを確保した作りになっている。

 客入りを考えていないのか。四人が座れるテーブル席が2つに、カウンターの前には椅子が5つ程度しかない。


 竜人族の店員の女性は、アリスを見て腰を抜かすんじゃないかと思うほどに驚いた顔をしてみせるが、反応するのも面倒なのでオレ達は軽く会釈だけした。


 それから店内を見渡して、一番目立たない片隅の4席を陣取ったオレ達。


 ソラとクロが隣同士で座り、二人席の長椅子を詰めてシオとアリスとサタナスが座ると、注文用のメニュー画面が自動で開かれる。


 オレ達はコーヒーっぽいものだけチョイスして、サタナスはジュースとアイスクリームっぽい食べ物を選ぶ。


 少しだけ出店する経緯をシオに説明して、一分もしない内にやってきたコーヒーっぽい飲み物を片手にすると、ソラ達は本題に入った。


「先ず押さえておく点はいくつかあるけど、なんと言っても今回の舞台は、祭りの屋台だ。客が求めているのはお手軽さ、この一点につきるとオレは思う」


「それだけじゃないわ、問題は他にもある。道具と屋台は注文したら無料で届けてくれるっぽいけど、一番問題なのは食材を自分達で確保しないといけない事ね。

 全体で一位を求めるのなら、大量に入手できるものであり、調理に時間が掛かるのはNG、この2点を踏まえると作れるものは大分限られてるわ」


「はいはーい、串にお肉刺して焼いて出すだけじゃだめなの?」


 主に話し合うオレとシオの間に、クロが少しだけ緊張した面持ちで、右手を上げて割り込んでくる。


 ちなみに先程から大人しいが、アリスとサタナスは、この件の話し合いでは既に戦力外であることを自覚しているらしい。


 会議には一切割り込まないようにして、トランプを取り出して二人だけの世界に閉じこもっている。


 彼女達を尻目に、とりあえずオレはクロの疑問に対して首を横に振った。


「確かに手持ちには〈レッサードラゴン〉の肉が腐りそうな程にあるけど、ただ串焼きにしただけじゃダメだな」


「そうなの?」


「コストパフォーマンスは良いけど、目新しさは無いし、多分他の店と内容がモロかぶりする」


「祭りのお店って、似たようなのあるよ」


「……クロ、祭りで似たようなのが2つあったら、それだけで集客は半減するんだ。人によっては食べ比べという選択肢もあるけど、基本的にジャンルを似せるのは避けたほうが良い。

 極論だけどまったく同じ綿あめ売ってる店が三つ並んでたら、その全部の店で一つずつ買ったりはしないだろ」


「あー、なるほど」


「まぁ、被っても他に絶対に勝てるという強みがあるなら、話は別だけどな。

 例えばネームバリューがあるとか、芸能人みたいな人が売り子をするとか」


 それを聞いたクロとシオの視線が、オレに突き刺さる。


 二人が何を言いたいのか、それは口にしなくてもソラは十二分に理解していた。


「もちろんオレとアリスの名前を、全面的に出す。しかし名前だけで店の中身が手抜きなのは、オレのプライドが許さん」


「……という事は、お兄ちゃんには何か考えがあるのかな?」


「いや、言い出しっぺで悪いんだけど、今の所は良いアイデアはないんだ。

 まぁ、数々のVRゲームで色んな料理を食ってきたオレの経験から言うのなら、やはり注目するべきなのは〈レッサードラゴン〉の肉質だと思う」


 実際にアイテム一覧から一つだけ取り出すと、左の手のひらに四角い肉の塊が出現する。


 見た目は赤身が多く、何度か食した感想を言うのならば、柔らかい食感は牛肉のヒレに近い。


 だが何よりも凄いのは、凝縮ぎょうしゅくされた旨みだ。


 調理されて出てきたコイツの無限に食べれてしまう深い味わいは、現代知識を使って一手間や二手間加えたら最上に至ること間違いなしである。


「クロが言った通り、この肉は下処理をしっかりして串焼きにしたら、十分にそれだけでメインをはれる食材だ。

 でも良い肉をただ焼くだけって、もったいないような気がするんだよな」


「牛肉のヒレ、ヒレといえば……基本的にはステーキにするのが王道だもんね」


「ローストビーフとか?」


「屋台でローストビーフは面白そうだけど、お手軽じゃないかな……」


 うーん、考えても思い浮かばない。


 やはりシオやクロが提案した通りに、焼いたほうが良いのだろうか。


 そう思っていると、30代くらいの女性の店員さんがアイスクリームが乗った皿を手に持ってくる。


 アイスクリームを盛り付けて持ってくるだけだと思うのだけど、注文してからやけに時間が掛かったものだ。


 彼女は「お待たせいたしました」と言ってサタナスの前に皿を置くと、続いて「ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」と頭を少しだけ下げて歩き去った。


 皿の上には変わった色のアイスクリームが、2個だけポツンと乗っている程度。


 こんな手抜きに時間が掛かったのか、と少しだけ苦笑してしまうソラ。


 サタナスは喜んで、色合いからバニラっぽいアイスクリームをアリスに教わりながらナイフで切り分け、フォークを刺して食べる。


 すると、


「サクサクしてて美味しい!」


 と、聞き捨てならない言葉を口にするサタナス。


 ……アイスクリームでサクサク?


 疑問に思ったソラは、アリスにサタナスが何を食べているのか聞いてみる。


 すると竜の姫は、こう答えた。


「フライドアイスクリームといって、パン粉をつけたアイスクリームを油で揚げるの。昔は母上とよく食べてた、変わった氷菓ひょうかの料理ね」


 ……油で揚げた料理だと。


 その時、ソラの頭の中を電流が駆け抜けた。


「シオ!」


「あー、なんで気づかなかったんだろ! 油があって牛肉っぽいのなら、アレができるじゃない!」


 オレの言葉にハッとした顔をするシオは、やや興奮気味に頷いた。


 クロは海外にいて馴染みがないのか、ソラとシオの思い描く料理が、分からないらしい。


 そんな彼女を置き去りにして、テンションが上がったソラとシオは不敵に笑った。


「ふふふ、油があるのならアレができるぞ」


「それなら一工夫しましょう。クロちゃん、アリスさん、ちょっと良い? レッサードラゴンの肉で、こういう料理を作ろうと思っているんだけど……」


 ヒソヒソと、シオが料理の説明をする。


 すると話を聞いた二人は、少しだけ驚いた顔をすると、次に面白いと口にして笑みを浮かべた。


「美味しそうだね!」


「良いわ、やりましょう!」


 話を聞いて、二人も乗り気になったようだ。

 しかし、問題はまだある。


「今は13日で祭りは17日だ。オレ達に残された猶予は残り少ない。

 調理がシオだけなのは不味いから、今から王都〈ユグドラシル〉に戻って、オレとクロは〈料理〉スキルだけでも取りに行くぞ」


「りょーかい」


「ええ、そうね。持っているのと持っていないのとでは、雲泥うんでいの差よ」


 よし、これで話は決まった。


 今からやるべき事もすべて。


 だがまだ、もう一手欲しい。


 そこでソラは、長く手元にある切り札の一つを投入する事にした。


「キリエさんのところにも行こう。実はアップデートの時に、おもしろい追加があったのを思い出したんだ」


「「「面白い追加?」」」


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべるサタナス以外の三人に、ついてからのお楽しみだと伝えると、ソラ達は喫茶店を出ることにした。

 

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