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第11話「武器の経験値」

 ソラからノーマルソードを受け取ったキリエは、装飾のないシンプルなデザインの剣をスキルでながら額に汗を浮かべる。

 その面持ちは、信じられないと言わんばかりに固くなっていた。

 まさかそんなに酷い状態なのだろうか。

 真剣な眼差しの彼女を見ていると、ついこちらも緊張して呼吸を止めてしまう。

 しばらくノーマルソードを凝視していたキリエは重たい溜め息を吐くと、ソラを見て呟いた。


「いやはや……やはりコイツはスゴイな」


「オレ、相棒をそんなに酷い扱い方してましたか」


 ソラが尋ねると、キリエは首を横に振って否定する。

 彼女はノーマルソードの刀身を、指で優しく触れながら“スゴイ”と評した理由を答えた。


「初心者用のノーマルソードの攻撃力は最低なんだけど、耐久値だけなら現環境の中でも一級品なんだ。それはすぐに壊れるような武器を初めてのプレイヤーに渡すのは酷だと思った、運営の優しい計らいだと思うんだけど」


「それをオレは使い潰したって事ですよね……」


「ハハハ、そんなに落ち込むな。アタシは逆に褒めてんだよ」


「キリエさん……」


「まったく、一体何と打ち合ったんだ。強度だけならCクラスのノーマルソードがここまで削られるなんて、ガルドの鎧をぶち抜いただけじゃ説明できないぞ」


 ノーマルソードを色んな角度で観察しながら、キリエは楽しそうに笑う。

 オレの洞察スキルでは読み取れないが、彼女の鍛冶職人スミスの目には違う物が見えているのだろうか。

 彼女が言った、ガルドの鎧以外でノーマルソードの耐久値を削った要因。

 キリエの指摘に一つだけ心当たりがあるソラは、ばつが悪い顔をした。


 まぁ、アレしかないよな。


 原因は間違いなく、魔王の攻撃を受け流した事だと思う。

 魔王の武器は確実に現段階の〈アストラルオンライン〉では一番強いだろうし、彼女の圧倒的なステータスによって放たれた斬撃は、完璧に受け流したとしても武器に対するダメージを0にはできない。

 冷静に思い出してみると、あの時にノーマルソードの耐久値は4割ほど持っていかれていた気がする。


 キリエさんに、流石に魔王と戦いましたなんてストレートに言えないよな……。


 言えば信じてもらえるとは思う。

 それにキリエは、周りの人達に言いふらすような人間にも見えない。

 でも人付き合いが苦手なソラは、そこから一歩を踏み出すことができなかった。

 踏み出せば、少しは楽になるのに。

 口を開き、言おうとして止めてしまう。

 そんな自分が情けなくてソラが視線を床に落として黙ると、見かねたロウが助け舟を出した。


「キリエさん、実は限定クエストで戦った相手がメチャクチャ強くってですね、ソラがソイツの攻撃を受け流したんです!」


「そ、そうなんだ。ノーマルソードの耐久値は、その時に削れたんだと思う」


 心の中でロウの機転に「ありがとう!」と礼を言いながら、ソラもその話に合わせる。

 名前は言えないが、少なくとも強敵と戦ったことは嘘ではない(相手はラスボスだが)。

 彼女は頷き、ノーマルソードの見た目は綺麗な刃を見ながら言った。 


「剣身の受けたダメージから察するに、かなりヤバそうな斬撃を受け流した形跡が見られるな。相当レアリティの高い剣を持った、ヒューマンタイプのモンスターとでも戦ったのか」


「!?」


 キリエの発言に、ソラは思わずドキッとする。

 剣の受けたダメージから、そんな細かい情報まで読み取ることができるのか。

 果たしてそれは鍛冶職人のスキルの一つなのか、それとも彼女が持つ能力なのか。

 どちらにしても、今の言葉でオレは改めてこのキリエという女性が只者ではない事を認識する。

 ソラが顔を強張らせると、彼女は口元に微笑を浮かべてノーマルソードを備え付けてあるテーブルの上に置いた。


「ま、ソラが何と戦ったのか今は関係ない話だな。それで、この武器はどうしようか」


「どうしようかと言いますと?」


「ああ、これは鍛冶職人スミスしか知らない事なんだけど、武器も使っているとアタシ達みたいに経験値を獲得するんだ。それが限界まで貯まるとレアリティの高いインゴットにできるんだよ」


「武器が、レアなインゴットに……」


「もちろん経験値をカンストさせた武器だけだ。例えば経験値を半分くらい貯めた武器を溶かしたとしても、ソイツはレアリティの下がったしょうもないインゴットになる」


「オレの剣は、その条件を満たしているんですか」


「信じられない事だけどそうだね。アタシも流石にリリースされた昨日の今日で、武器の経験値を限界まで貯めたヤツは初めて見たから思わず自分の目を疑ったよ」


 すみません、実は今日始めたばかりなんです。

 全てを正直に語れば、きっと彼女は驚きのあまり倒れるかも知れない。

 そう思いながら、ソラは額に汗を浮かべて愛想笑いをした。


「さて、話を進めようか。インゴットにするのなら、それでアタシが新しい剣を打ってやる」


 新しい剣か……。

 相棒がグレードアップするのは大歓迎なんだが、キリエに打ってもらえばもちろんお値段がそれなりに掛かる。

 店の武器から察するに、Dランクの武器なんてできたら20万エルも請求されかねない。

 それを危惧したソラは一つ尋ねた。


「あの、すみません。それってどのくらい掛かりますか」


「アタシ達、鍛冶職人スミスの間では基本的にインゴットにするのはタダ。インゴットから武器や武具を作るのは、インゴットのレアリティによって上下するな。例えば一番低い奴なら一律1万エルくらいは貰うかな」


 キリエいわく、NPCの店の武器や武具は1000エルから5000エルの手頃なのが買えるけど、レアリティはFランクのものしかない上に性能も耐久値もイマイチのしかないとの事。

 それに比べてプレイヤーが作る武器や防具は、性能も高くて耐久値も優れている。

 高ランクプレイヤーの中には、鍛冶職人から装備を買うためにエルを貯めている人達が沢山いるほどだ。

 ちなみに鍛冶職人の武器制作は予約が殺到してる状態で、キリエは現在はお断りしてるらしい。

 そんな彼女が作ってくれるというのだ、ここは腹を括るべきだろう。

 ソラは意を決すると、頭を下げた。


「それじゃ、キリエさんお願いします」


「よし、それじゃお近づきの印として今回は、インゴットのレアリティに関係なくタダでやってやるよ」


「──え。い、良いんですか!?」


「ああ、その代わりにフレンド登録よろしくな」


「もちろん!」


 とんでもない破格の条件に即答するソラ。

 店の商品を見る限り、キリエの腕前は確かだ。

 普通に頼めば、確実に何十万エルもするのは間違いない。

 そんな彼女にハンドメイド品をタダで作って貰えるのなら、フレンド登録なんて安いものである。


 ……あ、でもオレだけこんな良くして貰って良いのかな。


 ハッとして後ろにいるシンとロウを見ると、やはり二人とも此方を見て物凄く羨ましそうな顔をしていた。

 当然そうなる事を予想していたキリエは立ち上がり、カウンターの後ろに消える。

 戻ってきたと思ったら、彼女は沢山の武器が入ったボックスを持ってきた。

 それをシンとロウの前に置くと、キリエは胸を張って言う。


「もちろん、ソラだけに美味しい思いはさせないさ。二人にもこの中から一つずつプレゼントをやるよ。アタシが作った、Eランクの作品達でよければだけどね」


「「貴女は女神ですか!?」」


 今扱っているFランクのノーマルソードと違って、Eランクの武器でしかも彼女のハンドメイドだ。

 普通に売り物にしたとしても、確実に何万エルとする代物の筈である。

 初めてまだ5時間もプレイしていないオレ達からしてみると、正に天の恵み。

 彼女の許可を得ると二人は目を輝かせて、ボックスの中に入ってる武器を吟味しだす。

 選ぶ楽しさもお店の楽しみの一つだ。

 アレはあれで良いなぁ、と心の中で思いながらもソラはキリエに向き直る。


「それじゃ、時間掛かりそうだからこっちも始めようか」


「はい、相棒をよろしくお願いします」


 そう言うとキリエはノーマルソードを手にして、代わりに一本の黒い鞘に収められた剣をソラに手渡す。

 何事かと首を傾げるオレに、彼女はウインクして一つだけ頼み事をしてきた。


「作業している間は手が離せないから店番お願いね、それとその間にこれの持ち主が来たら渡しといて」


 そう言って、キリエは店の奥に消える。

 漆黒の剣に視線を落としたソラは、一人その剣のレアリティに震えた。

 【カテゴリー】片手直剣

 【武器名】夜桜ヨザクラ

 【レアリティ】Cランク

 【攻撃力】C+

 【耐久力】D+

 【製作者】キリエ





 ヒェ、一本30万エル……。




 

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― 新着の感想 ―
[一言] この章をありがとう
[良い点] 今よくある生身の肉体がゲーム空間にダイブするタイプのゲームの物語に加えて、ある意味でお約束とも近い美少女系描写で読者に読む疲れを生じにくくさせる工夫(?)もありながら、だからと言ってただの…
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