第0話「アストラルオンライン」
はじめに
この作品は、作者が息抜き程度に書き始めたものです。
設定に粗が数多くあり、読む人によっては耐え難い違和感を感じる可能性が予想されます。
特に『VRMMO』として完成されたゲーム性を楽しみたい方はブラウザバック推奨です。
以上のことを踏まえた上で、読んで面白いと思って頂けたら幸いです。
VRゲームが一般的となっている現代。
据置型のゲームや携帯ゲームは殆ど市場から姿を消して、どのゲーム会社もVRゲームの開発が今は主流となっている。
異なる世界を体感できるVRゲームは、一種の麻薬みたいなものだ。
一度魅了されてしまえば、此方の世界よりもあちらにいる時間の方が長くなる。
それはVR中毒症と呼称されて、世間では問題視されていた。
という自分もVR中毒症の日本男子であり、神ゲークソゲーというジャンルや高評価低評価に関わらず、数多のVRゲームをクリアしてきた雑食系廃人の一人である。
例えば、この前クリアするまでプレイした『剣豪』というゲームは実に難易度の高いものであった。
ストーリー性は皆無。
ゲームのシステムも基本的に回避という概念がなく、せっかくのVRゲームなのに敵の攻撃は刀で受け止めるか、受け流すか、弾くかの三択しかない。
オマケに失敗すると大抵一撃で即死して、死んだ場合にはスタート地点か中間地点からのやり直し。
道中の雑魚の攻撃すら最悪の場合は即死するので、何度もトライアンドエラーを繰り返すことになる。
そんな地獄を生き抜いて、最後にラスボスを倒して一安心するのもつかの間。
城の頂上で囚われていた姫が、刀を手に襲いかかってきたのは、実に衝撃的で忘れられないトラウマだ。
おまえ、なんで捕まってたんだよ!
思わずそうツッコミを入れたくなる程に姫は強く、ラスボスよりも苦戦した末に何とか倒した後のエンディングロールでは、燃える城の頂上から自分が飛び降りて終わるという何とも言えない結末だった。
クリアした感想としては当然のことだが、
二度とやるかこんなクソゲーッ!
と叫んで、掲示板にクリア報告と証拠の動画を添付した。
みんなの反応は「流石は雑食王!」「絶対に真似したくないことをする、そこにシビれる憧れねぇ!」と褒めてんだか何だかよく分からないものだった。
そんな今年で神里高校一年生になった上條蒼空は、簡素な自室のベッドの上で一つのゲームソフトを片手にいつになく緊張している。
そのパッケージされているタイトルは、
〈アストラルオンライン〉。
キャッチフレーズは、
“これは現実を空想が変える物語”
何とも心を揺さぶる言葉だ。
しかも昨日発売したばかりの新作VRMMORPGで、発売した当日に1億本も売れたベストセラー作品である。
作品の大筋としては、プレイヤーはアストラル大陸を冒険者となって旅をして、世界を侵略しようとしている〈魔王〉シャイターンを倒す事が最終的な目標だ。
しかし〈魔王〉を倒す事以外にも遊び方はある。
武勲を積み重ねて貴族になることもできるし、ギルドを作って商業したり、クランを作って仲間と冒険する事もできる。
自由度が高いらしく、調べることができた情報によるとこのゲームは店を作ったり、プレイヤー同士で結婚もできるらしい。
今まで色々なゲームをプレイしてきたが、こういうオンラインゲームに手を出すのはとても久しぶりだ。
昔とある理由で、今も大人気のVRMMORPGゲーム〈スカイファンタジー〉を引退してから、実に3年くらいオンラインゲームから離れている。
そんな自分が、急になんでこのゲームをプレイすることにしたのか。
それもこれも一ヶ月くらい前に、親友の高宮真司と上月志郎が、二人でやるのはつまらないからと土下座までして頼んできたからだ。
しかもお昼休みの教室で、みんなが見ている眼の前で。
更には予約済で、自分達がお金を出してオレの分も買うから、と中々に魅力的な提案で。
そこまでされたら、流石のオレも首を横に振ってNOとは言えなくなった。
まったく、実に迷惑な友人達だと蒼空は苦笑する。
しかし半ば強引にプレイすることになったが、今は期待に胸の高鳴りを感じているのも事実。
ソフトをセットした完全ダイブを可能とするヘッドギアを手に、蒼空はベッドに横たわった。
「……ふぅ、なんだか緊張してきたな」
呟き、壁にかけてある時計に視線を移す。
時刻は午前8時30分。
開始の時間は午前の8時ピッタリなので、既に約束の時間から30分が経過している。
普通なら、遅刻だと慌てるところだ。
それなのにオレは、なんで未だにVRベッドギアを手にしたまま、ログインをしないのか。
もちろん、これにはちゃんとした理由がある。
これは真司の提案なのだが、約束した時間になったらスマートフォンのチャットアプリで、準備完了のスタンプが3つ並んでから同時にログインすると決めたのだ。
だが蒼空と志郎がスタンプを飛ばして以降、三人目の真司から、スタンプはおろか既読すらつかない。
これは一体、どういうことなのか。
言い出しっぺが遅刻とは、良い度胸だ。
これは後で、キツイお説教が要る。
一人で憤慨していると、志郎からは「真司寝てます?」と確認のメッセージが飛んで来た。
相変わらず昔から、リアルでもスマートフォンのやり取りでも、変わることのない親友の敬語にオレは苦笑する。
間違いなく寝ているだろ、と蒼空は志郎にメッセージを返した。
予想だと、アイツは日課の早朝ジョギングを済ませてから、ベッドで一休みしてそのまま寝てしまったのだろう。
昨日あれほど、運動後に横にはなるなと忠告したのに、あの阿呆は。
このまま昼まで返事が無かったら、どうしてくれようか。
志郎と二人で、真司に対する罰ゲームをあれやこれや考えていると、時計の針が8時50分を指す。
するとやっと起きたらしい真司から、土下座と準備完了のスタンプが、グループチャットに連続で送られてきた。
当然、オレと志郎は怒りのスタンプを送りつける。
真司から「寝落ちして本当に申し訳ありませんでした」とメッセージが届いたので、蒼空達は「明日アイス奢りな」と息を合わせて送ると、了解のスタンプが帰ってきた。
「まったく、アイツは」
苦笑混じりのため息を吐いて、蒼空はヘッドギアを装着してゲームを起動させた。
するとヘッドギアが、ソフトから膨大なデータを読み上げ、ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成する。
まず最初に表示されるのは、何度も見るVRゲームの基本的な注意事項。
・野外でのプレイは危ないので禁止。
・プレイするときは、事前にトイレと水分補給をする事。
・プレイ中に、身体が動いても怪我をしないように、ベッドとか衝撃を吸収するような物の上でプレイする事。
トイレと水分補給は済ませてある。
枕元にはスポーツドリンクを置いたし、心置きなくゲームに集中できる。
「それじゃ、ゲームスタート!」
オレの音声を認識して、真っ暗な闇が真っ白な世界に染まる。
先ず最初に始まったのは、パッケージに記載されていたゲームの内容を、少女のような声で説明する所から。
真司を待っている間に、何度も読んだ説明が終わると、次に画面が切り替わった。
アストラルオンラインで活動するための、キャラメイクが始まる。
目の前に現れたのは付属していた器具(値段が5万と高い原因)で、事前に頭の天辺から足の爪先までスキャンした、現実世界の自分の写し身だ。
このゲームはスキャンしたデータを元にしているので、性別とかは変えられないらしい。
だから今選べるのは、全身の細かいパーツまでだ。
しかし直ぐにゲームを始めたかった蒼空は、面倒なのを省略して表示されている姿のままOKボタンをタッチする。
すると最後に、プレイヤーネームの入力画面になる。
ふむ……名前か。
下手な名前にすると二人に何を言われるか分からない。
ここはいつも通り仮想キーボードを操作して、無難なネーム「ソラ」を入力して決定する。
『入力は以上です。困った事があればサポートシステムにお尋ね下さい。それでは貴方様のご武運をお祈りします』
耳に心地よい少女のメッセージを聞いた後に、蒼空の視界は切り替わる。
さて、いよいよ始まるぞ。
期待と高まる気持ちを胸に、頬が緩む。
この時を持って上條蒼空は、冒険者ソラとしてアストラルオンラインの始まりの街に降り立つ。
──はずだった。