不穏な気配
良い匂い。
匂いに釣られるように私は部屋を出て、食卓へ向かう。
そこには黄色い丸いパンのようなものがあった。
これはもしやホットケーキというものでは?
「おはよう。」
あっエリカだ。
「おはよう。」
うん?
エリカ?
アーリーじゃなくて?
「何よ。私が朝食を用意しただけでこの世終わりみたいな顔しないでよ。」
えっ、だってあのエリカだよ。
「朝起きれたんだね……。」
「私だって起きようと思えば起きれるのよ。」
だっていつも昼まで寝てるんだよ。
普通に考えて、ねぇ。
でも、それ以上に驚きなのはエリカが朝食を作ったことだ。
エリカは絶対料理出来ないと思ってた。
「残念ながらあなたと違って料理くらい出来るのよ。」
くっ!
なんか無性に腹が立つ。
いやもしかしたら見た目だけで美味しくない可能性もある。
というわけで、
「頂きます。」
「どうぞ。」
モグモグ。
ゴックン。
モグモグ。
ゴックン。
パク。
パクパク。
パクパクパク。
「そのぐらいにしておきなさい。」
はっ!
食べるのに夢中だった。
くそぅ。
悔しいけどすごく美味しい。
なんならアーリーが作るより美味しいのでは?
非常に不愉快ではあるけど、その可能性が高いことは認めよう。
判断は公正明大にしなければならないから。
非常に不愉快ではあるけど。
「大事なことだから口に出して言うけど非常に不愉快!」
「……何が?」
何が言うと怒られそうだから言わないんだよ。
「おはようございます〜。」
「サラ、おはよう。」
「おはよう。」
「エリカさんも起きてたんですね〜。エ……エリカさんも起きてたんですね?」
「何で疑問系なのよ……。」
「日頃の行いだよ、エリカ。」
「レーカちゃん?今の言葉どう言うことかしら?」
あっ。
この後アーリーが起きてくるまでめっちゃ怒られた。
ぴえん。
「あはは、そんなことがあったんですね〜。」
「笑い事じゃないよ、アーリー。エリカずっと鬼のような顔してたんだよ。」
「そうですよ。私まで巻き込まれたんですから。」
「自業自得でしょ。それにレーカに至ってはまだ怒られたいようね。」
「ごめんなさい。」
「冗談よ。」
えっ?
いやいや。
あの顔は絶対本気だった。
「それにしてもエリカ先輩は本当に料理が上手ですね〜。また今度教えてください。」
「アーリーは、私より上手よ。アーリーはね。だから安心しなさい。」
「ねぇサラ。なんか料理出来ない私たちに対する嫌味に聞こえるんだけど。」
「いや、私料理できますよ。」
「はぁ?……サラ、そんな見栄を張らなくても大丈夫だよ。」
「いや、そもそも私お母さんが料理好きなので……。その影響で苦手ではありますが、一応作れますよ。」
?
「チョットナニイッテルカワカラナイ。」
「え〜、この中で料理出来ない人いるんですか〜?」
クッソ〜、エリカの煽りムカつく!
「そこまで言うならやってやる!」
「砂糖と塩間違えないようにね〜。」
大丈夫。
私もそこまで馬鹿ではない。
料理なんてレシピ通りやれば出来るんだから!
「私が超美味しい料理を作ってギャフンと言わせてやる。」
ガタガタ
ゴトゴト
グツグツ
バチバチ
ドカーン
ボフン
……なんで?
「ふふふ、いや逆に凄いよね、ふふ。どう料理したら爆発するの?しかも、レシピ見ながら作ってとか、ふふ。」
「ひ、人には向き不向きがありますから。」
「そうだよ。なんか食べたいものあったら私たちが作ってあげるから。」
料理、もうやらない。
レシピなんてもう信じられない。
「いや〜これはギャフンってなっちゃったな〜、ふふふ。」
あ〜、アーリーが作ったクッキー美味しいな〜。
「だめだ、もうレーカは頭が働いてない。キッチンの修理もしなきゃだし、今日は休みにしようか。」
「そうですね。そうしましょうか。」
クッキー美味しいな〜。
「そう言うわけで今日は1人なんです。」
「へー。それで珍しく騎士様1人なのね」
急に休みが出来てしまった私はと言うと、いつも通り冒険者ギルドに来ています。
まぁ休みと言われてもやることがないですし、日々の積み重ねは大切ですからね。
「それにしてもレーカちゃんは料理が苦手なのね。意外だわ〜。」
「爆発するのは苦手で済むのでしょうか?」
「……気にしないでおきましょう。それにあなたにとってもチャンスなんじゃない?」
チャンス?
「小さいのになんでも出来ちゃうレーカちゃんの欠点!あの食べ物大好き猫面が料理が出来ないなんて、料理で胃袋を掴めって神が言ってるようなものじゃない!」
料理で胃袋を掴む?
「レーカちゃんの好きな料理を毎日作ってあげたらレーカちゃんもきっとあなたに惚れるに違いないわ。」
レーカちゃんが惚れる?
私に?
「そうなればゆくゆくは結婚……。」
けっ、結婚?!
「って何を言ってるんですか、アクアさん!」
「私はいいと思うわよ。それにしても、ふふふ騎士様は可愛いわね〜。」
「そんなこと考えてませんから!」
レーカちゃんと結婚なんて考えてません!
そもそも同棲だし!
年齢も少し離れてるし!
「そんなこと考えたことありませんから!」
「ふふ、そう言うことにしておいてあげる。はい今日の依頼はゴブリンね。1人だし簡単そうなのにしたわ。」
そうです、依頼をこなしに来てるんです。
余計な考えはいりません!
「ありがとうございます。では、行ってきます。」
レーカちゃんと結婚……。
ダメッ!
行きます!
依頼自体は簡単ですね。
「それにしてもあまり苦戦しませんね。1人で戦ったのは久しぶりなのですが……。」
1人ごとは口に出すと思考がまとまるってレーカちゃんが言ってました。
だから、私もなるべく口にするようにしています。
まぁはたから見たら変に見えるかも知れませんが。
「そういえば、今日のゴブリンはあまり群れていませんね。普段なら1匹見つけたら10匹はいるのに……。」
偶然?
それとも何かあったのでしょうか。
「まぁ私も1人ですし有難いと言えば、有難いのですが。」
今の私だったらどれくらいのゴブリンを相手に戦えるのか?
試したい気持ちもありますが、流石に危険ですし、そもそもいない相手と戦うことは出来ません。
「帰りましょうかね?」
私は森の中でも一層開けている道を通り、町に戻りました。
「お疲れ様でした。」
「あんまり群れてなかったので意外と楽にこなせました。」
「例え群れていようとなかろうとゴブリンを楽に倒せるのは騎士様の実力ですから。ですが、最近群れていないゴブリンが多いですね。」
最近、多い?
「オークは元から単体と遭遇することよくあったのですが、最近では、ゴブリンやウルフまで単体で遭遇することが増えたんです。」
「それは、おかしいですね。」
「そうなんだけどね〜。な〜んか上から圧力かかってるみたいでギルドとしては捜査出来ないんだよね〜。」
「それは……。」
絶句する。
もしかしたら街の危機かも知れないというときに。
権力というものは本当に……。
「だからさ〜、ここからは個人的なお願いなんだけど、ちょっとだけでいいからこの事を気にかけといて。」
「はい。」
私は王女として出来ることをする。
決心を胸に私は家に帰ったのでした。




