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聖女様お披露目の夜会

私の拙作を見てくださっている方がいるみたいで感激です!

せっかくなので次話まで投稿します。ちなみに7話完結予定でしたが、8話まではかかりそうです。すみません。


エリザベス視点


「アンナ、おかしなところはない?」


「ばっちりですよ、エリザベス様!今日は一段とお美しいです!」


侍女のアンナに太鼓判をもらい、もう一度鏡の中の自分を見つめる。

いつも以上に念入りな手入れと化粧。プラチナブロンドの髪はアンナが綺麗にアップにまとめてくれた。纏うドレスは明るい紫色の上質な生地のもので、キラキラと輝く金糸の刺繍が美しい。これは、レイモンド様に贈っていただいたもの。

胸元に思わず手を伸ばす。ネックレスもレイモンド様からの贈り物で、大きなルビーが輝いている。


今日は、聖女様のお披露目パーティーを兼ねた夜会が王宮で催される。

そして、私が婚約者としてレイモンド様にエスコートしていただく初めてのパーティーだ。

聖女様が現れた当初は、そのお披露目パーティーに、こんなにも幸せな気持ちで参加できることになるとは思いもしなかった。


悲しみに暮れる毎日を送る私のもとに10年ぶりに会いに来てくださったレイモンド様。

レイモンド様と過ごすようになって、ジークハルト様を想って涙を流すことも、胸が苦しくなることもなくなっていった。

私を救い上げてくださった温かい人。彼が私をずっと想ってくれていたなんて。

あのロマンチックなプロポーズを思い出してつい笑みがこぼれてしまう。

そんな私を見てアンナも嬉しそうに笑ってくれた。


レイモンド殿下は隣国の王太子殿下であらせられるから、このパーティーが終わった後は数日かけて準備し、私も隣国に移る予定だ。

その後、1年後には婚姻となる。

10年ジークハルト殿下の婚約者だったことを考えると随分短い婚約期間になるけれど、レイモンド様が早く結婚したいとおっしゃってくださってこの日程になった。もちろん、私も早くレイモンド様の妃になりたいと思う。

国が違うとはいえずっと妃教育を受けていたこともあり、少しの準備で済みそうでよかった。

レイモンド様の弟君と妹君であるユリウス第二王子殿下、マリアンナ第一王女殿下も私とレイモンド様の結婚を楽しみにしてくれているらしい。マリアンナ様はわざわざお手紙まで送ってくださった。

聖女様が現れて、簡単にジークハルト様との関係が終わり、絶望していた時には考えられなかった幸せ。


「お待たせエリザベス。・・・今日は一段と綺麗だ。君をエスコートできる日が来るなんて本当に夢のようだよ」


別室で準備していたレイモンド様は私を見て目を見張った。その手をとり、幸せをかみしめたまま馬車に向かう。


「フェリクスはそのまま王城から会場に向かうそうだよ」


「まあ。お兄様は相変わらずお忙しいみたいね」


「私としては愛するエリザベスと二人でいられる時間が長くなって嬉しいけどね」


レイモンド様は甘い言葉をこれでもかと贈ってくださる。嬉しいけれど恥ずかしくて、真っ赤になった私の顔を見ながら、レイモンド様も幸せそうに笑っていた。


「今日は・・・・無理をしていないかい?」


レイモンド様は私の顔を覗き込み、ふと不安そうな声を上げた。


「ええ、自分でもびっくりするほど何も感じないのです。ただ幸せになってほしいとだけ。・・・きっとレイモンド様のおかげですわ」


「エリザベス・・・・」


心のままにはにかむと、感極まったようにレイモンド様が抱きしめてくださった。

今日は聖女様のお披露目であるとともに、その婚約のお披露目でもある。

そう、ジークハルト殿下は長年の夢をついに叶えたのだ。

私とレイモンド様の婚約が結ばれたその少し後に、ジークハルト殿下と聖女様も婚約したと聞いた。私との婚約解消からすぐに婚約したものだと思っていたから、随分遅いのだなと意外に思ったくらいだった。でも確かに、レイモンド様がいてくださらなければ、その知らせを聞くのは辛くて仕方なかったかもしれない。ただ、今は本当に心から、彼の望みが叶ってよかったと思える。

嘘偽りのない気持ちでお祝いを言えそうで本当に良かった。




会場に入ると、レイモンド様にエスコートされる私に注目が集まった。

ジークハルト殿下の私との婚約解消、並びに聖女様との婚約はつい数日前に貴族家の皆様に通達があったばかり。

レイモンド様と私の婚約はまだ知らない人も多いのだろうと思う。


「緊張している?」


少しだけ身を固くした私をレイモンド様が気遣ってくださる。


「少しだけ。でも、レイモンド様との初めての夜会という楽しみの方が大きいですわ」


笑いかけると、微笑み返してくださる。

そんな私たちの姿に会場にいる令嬢たちから感嘆のため息が漏れた。


レイモンド様とゆっくり夜会を楽しんでいると、会場の一角が俄かに騒めくのを感じる。

声のする方に視線を送ると、そこにいたのは久しく姿を見ていなかったジークハルト殿下と、殿下にぴったりと寄り添う可愛らしい女性。初めて見る聖女様だった。

10年間、殿下の婚約者として共にあり、こんなに長い期間姿を見なかったのは初めてのこと。その隣にいる聖女様の姿も含めて、もう今までとは違うのだなと感慨深く思う。

けれど、懸念していた胸の苦しみは襲ってくることはなく、すっかり過去になったのだと確かめることができた。

そんな私の様子にレイモンド様も安心したようだった。


「今日の良き日に皆に聞いてほしいことがある」


陛下が立ち上がり声を上げる。


「もう知っていることと思うが、先日、150年ぶりに我が国に聖女が現れた」

陛下に促され聖女様が進み出て礼をする。離れていても分かる程ぎこちないカーテシーだった。

「並びに、聖女、シャリーナ・コロランドと我が息子であり王太子、ジークハルトとの婚約を発表する!」

その言葉に会場が沸く。中には私へ気づかわし気な視線を送る人も数人いた。

それに気づいたレイモンド様がそっと私を自分の方へ引き寄せてくださる。

大丈夫ですわ。レイモンド様がこうして隣にいてくださるもの。


ただそれよりも、ジークハルト殿下が少しだけ浮かない顔をしているように見えたのが気になった。聖女様が現れてからはそのご対応、私との婚約解消、そして聖女様との新たな婚約。ここ数か月はきっとお忙しかっただろう。

この夜会までに聖女様の隣に婚約者として立つべく、相当無理をなされたのかもしれない。

けれど、長年の願いが叶ったのだ。これからはそのお顔に憂いが浮かぶこともなくなっていくだろう。



そんなことを考えながら陛下のお言葉を聞いていると、会場の私たちのいる場所とは逆方向から嫌な騒めきが起こった。

なんだろうと思う間もなく大きな音でグラスが割れていく。


「きゃー!!!」


何人もの悲鳴が続く。人々が波のように動き始めた。

近衛騎士が慌てて剣を取り、陛下の前に立つ。聖女様をジークハルト殿下が庇い、その前に護衛騎士が躍り出た。

その顔にはよく見覚えがあった。私が王宮にあがったときにはいつも付き添ってくれていた護衛騎士だ。

それは一瞬のことだった。

会場に潜んでいたらしい賊が聖女様を狙って襲撃したのだ。思惑は失敗し、近衛騎士に捕らえられる。相変わらず止まない悲鳴。

だが終わらない騒ぎの中で、あの護衛騎士が捕まる直前の賊の刃に切り伏せられ、血に濡れて倒れていくのが見えた。


咄嗟に足が動いた。後ろでレイモンド様が私の名を大きな声で呼んでいる。

前に進みながらジークハルト殿下の姿を探す。彼は聖女様をかばう形のまま身を固めていた。

聖女様は呆然としたまま動かない。


どこか夢のように体がふわふわとしているのに、頭の冷静な部分で考える。

あの方は聖女の力をまだ自分のものにしていないのかもしれない。


切り伏せられた護衛騎士に仲間の騎士が駆け寄り声をかけている。

襲撃犯はいつの間にか会場から連れていかれていて、もうそこにはいなかった。

会場の騒めきが遠く感じる。


振り向くと、追いついていたレイモンド様と目が合った。

私の考えがわかったのか、頷き、側に寄り添ってくれた。


悲惨な光景に少し足がもつれるけれど、レイモンド様に支えられながら、切り伏せられた騎士のもとへ近づく。

私に気付いた周りの騎士が道を開ける。


聖女様ができないのなら。






私が彼を助けるしかない。





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