第82話 ダンジョンマスターは死ぬ
階段がなければ作ればいい。
領地強奪によってダンジョン内を村の一部にした今、それは容易いことだった。
セレンが呆れた顔をして言う。
「つまりこれ、階層間の移動がいつでもできたってことじゃ……」
「地下に降りる方はね。上にはたぶん上がれないかな?」
ただ、さすがにこれを最初から使っちゃうのはズルい気がして、使わないでおいたのだ。
ダンジョンマスターが明らかに僕たちには通れない階段を出してきたので、それならこっちも多少はズルしてもいいだろうとの判断だった。
階段を降りると、小さな部屋に出た。
「あれは……」
その部屋の奥に、大きな物体が浮かんでいた。
球形の結晶のようなもので、淡い光を放っている。
そしてまるで生きているかのように脈打っていた。
「ダンジョンコアだな」
フィリアさんが答えてくれる。
「ダンジョンコア、ですか?」
「このダンジョンの核であり、ダンジョンマスターの命と言ってもよいものだ。これを破壊されるとダンジョン諸共、ダンジョンマスターは死ぬ」
と、そのときだ。
キラキラした鱗粉めいた輝きを撒き散らしながら、小さな影が僕たちの前に飛んできた。
「まだ死にたくないんですケド! だからどうかっ、どうかダンジョンコアだけは壊さないでほしいんですケドおおおおおおおおおっ!」
それは空に浮かびながら器用に跪き、涙目で頭を下げてくる。
そんな芸当ができるのも、彼女には翅が生えていたからだ。
「妖精……?」
手のひらサイズに収まるほどの、小さくて可愛らしい女の子。
御伽噺なんかで聞いたことのある、あの妖精だった。
「もしかして君がダンジョンマスター?」
「そ、そうなんですケド! アリーっていうんですケド!」
どうやらこのダンジョンを管理していたのが彼女らしい。
「あれを壊されるとアタシも死んじゃうんですケド! だから許してほしいんですケド!」
「いや、別に壊す気はないけど……」
「本当に!? あらヤダ、よく見たらとっても可愛い男の子なんですケド!」
先ほどまでの涙目から一変、目がハートの形になる。
なんだか忙しい妖精だ。
「……良いのか、ルーク殿? ダンジョンコアを破壊すれば、特別な力が手に入ると言われているが」
「特別な力、ですか?」
「ああ。私も詳しくは知らないが、ギフトに近い類のものらしい。攻略報酬の受け取りを拒否し、代わりにコアを壊すことでそれを得る者が多いのも、それだけ大きな力を得られるからだという」
「ちょっ、余計なこと言わないでほしいんですケドおおおっ!」
フィリアさんの言葉に、妖精――アリーが血相を変えた。
「今はまだ過疎ってるから大した報酬は出せないケド、いずれもっと凄いのを出せるようになるから! だから今日のところは許してほしいんですケド!」
再び涙目になって訴えてくる。
「どうやったらダンジョンって成長していくの?」
「ダンジョン内に人がたくさん来れば、ダンジョンポイントがたくさん入ってくるんですケド!」
「……ダンジョンポイント?」
詳しく聞いてみると、どうやらダンジョンを広げたり、魔物を生成したり、あるいはトラップを作ったりするには、すべてダンジョンポイントなるものを消費しないといけないらしい。
そしてそのダンジョンポイントは、通常は少しずつしか加算されていかないけれど、ダンジョン内に人が増えれば増えるほど、加算量が増していくのだという。
もちろんその分、攻略される危険性も高くなってしまうため、諸刃の剣ではあるみたいだ。
「へえ。僕の村ポイントと似てるね」
「村ポイント? 聞いたことないんですケド?」
「うん。村の中に施設を作ったりすると消費されちゃうんだ」
「施設……」
アリーはしばらく首を傾げてから、何かに気づいたらしくハッとして、
「って、アタシのダンジョンを浸食して勝手に変なもん作ってたの、アンタだったんかああああああああああいっ!」
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