第75話 笑って誤魔化さないの
セレンに見つからずにこっそりダンジョン探索についていこうと考えた僕は、荷物の中に隠れ、ゴアテさんに背負ってもらうというアイデアを思い付いた。
「そ、村長を……?」
「はい。どうしてもダンジョンに行って、試してみたいことがあるんです」
「ですが、セレン班長に見つかったら……」
「もちろんすべて僕の責任ですから、ゴアテさんが責められないようにします」
そんなふうゴアテさんを説得し、どうにか探索チームに紛れ込むことに成功。
そのままバレることなく、まんまとダンジョン内に入れたところまでは良かったんだけれど。
「……ちょっと待ちなさい。中から微かに音がしてない? 呼吸音みたいな……」
(あ、やばい。もしかしてセレンに気づかれた……?)
どうやら僕が隠れている荷物に異変を覚えたらしい。
それでもゴアテさんが誤魔化して、一度はどうにかなったと思いきや、
「隙あり」
突然、鞄の布地越しに僕の身体が掴まれた。
さらにセレンは、そのまま揉み始める。
それがちょうど脇腹の辺りだったせいで、僕はまったく我慢できなかった。
「っ!? あっ、ちょっ! あはは……っ! あはははははっ!」
セレンの容赦ない揉みしだきのせいで、荷物の中で笑い転げる僕。
「せ、セレン! こそばゆいってば! あははははっ!」
「おかしいわね? 食べ物だったら痛くも痒くもないはずだけど?」
「わ、分かったから! もうやめてよ! あははっ……あはははっ!」
「じゃあ大人しく出てきなさい」
僕は観念し、荷物の中から這い出したのだった。
「ひ、ひぃ……笑い死ぬかと思った……」
「「「そ、村長!?」」」
みんなが驚く中、セレンが僕を睨みつけてくる。
「言ったでしょ、危険だからダメだって?」
「あ、あはは……」
「笑って誤魔化さないの」
……こ、怖い。
まぁ見つかってしまったなら仕方がない。
最低限の目的はすでに果たせたしね。
と、そのときだ。
「っ! 奥から何か来ます!」
叫んだのは、確か『危険察知』ギフトを持つマルコさんだ。
僕たちがダンジョンの奥に視線を向けると、大きな影が猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。
「ワオオオオオッ!!」
「ブラッドハウンドよ!」
全長四メートルはあるだろう狼の魔物だ。
どうやらブラッドハウンドというらしい。
「私に任せろ」
「村長は後ろに!」
フィリアさんが素早く弓を構えながら前に出て、僕は後ろへと追いやられそうになる。
うん、これはむしろチャンスかもしれない。
もし今からやることが上手くいったら、きっとセレンも考え直してくれるはず。
フィリアさんが矢を放つ前に、僕は迫りくる狼の眼前に土塀を生成しようとする。
〈村ポイントを20消費し、土塀を作成します〉
「ギャンッ!?」
いきなり現れた土塀に激突し、狼が悲鳴を上げる。
よし、まずはちゃんと施設を作ることができたぞ。
すかさず僕は施設カスタマイズを使い、その土塀を操作。
そこに現れたのは、人の形をした身の丈五メートル級のゴーレムだ。
そのゴーレムが狼を殴りつける。
無論、狼も反撃してくるが、ゴーレムなので痛くも痒くもない。
さらにゴーレムは狼の身体に覆い被さったかと思うと、完全に拘束してしまう。
「ガウガウガウッ!?」
必死に抜け出そうと必死に藻掻く狼。
「な、何が起こっているのだ……?」
「フィリアさん、今のうちに仕留めてください」
「りょ、了解したっ」
フィリアさんが連続で放った矢がすべて、身動きを奪われた狼の脳天を射貫く。
狼の目から光が消えた。
「さすが。全部命中しちゃった」
「そ、そんなことより、今のは一体、何なのだ!?」
「そうよ! あれどう見てもあなたの土塀よね!?」
フィリアさんとセレンが同時に詰め寄ってくる。
僕は少し得意げになりながら、言った。
「このダンジョンを領地強奪のスキルを使って、村に組み込んでみたんだ。これで施設を作り放題だし、今みたいにゴーレムを作って戦わせることだってできるよ」
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