第72話 これはダンジョンだ
「セレン。春になったし、ちょっと調べに行ってもらいたいところがあるんだ」
「どういうことかしら?」
その日、僕はセレンにあることをお願いしていた。
「実はこの村から西に行ったところにちょっとした岩場があるんだけれど、それが少し変なんだよね」
「変って、どういうことよ?」
「どういうわけか、その一部分だけ村から除外されてるんだ」
僕の村は、レベルアップに伴い、勝手にその面積が拡大していく。
レベル6になったときには、荒野の大部分を占めるほどになっていた。
ただ、先ほどセレンに言った場所の一部が、なぜか村から除外されているのである。
気づいたのは真冬で、雪の中で調査に行ってもらうのも、と思って、疑問を抱いたまま春まで待っていたのだ。
ちなみに岩場になっていると分かったのは、物見塔の上からギリギリ目視できたからだ。
「だから直接、調査しようかなと思って」
「そういうことね。分かったわ」
「できたら僕も……」
「ダメ」
自分も行きたいと言おうとしたら、言い切る前に断られた。
「何でさ? 狩猟チームと一緒なら安全でしょ?」
「それでもダメ。この村はあなたがいるから成立しているわけなんだから。そのあなたにもし何かあったらどうするのよ」
「過保護だなぁ……」
その岩場まで片道せいぜい十キロほどだ。
あのオークの群れと戦ったことに比べたら、それを往復するくらい大したことじゃないと思うんだけど。
魔境の森を通ってエルフの里にだって行ったし。
「……少なくとも、まず私たちでそこを調べてからよ。もしかしたら危険な魔物が隠れてるかもしれないもの」
「それで安全が確認できたら僕も行っていい?」
「いいけど、安全が確認できたらよ?」
◇ ◇ ◇
「あれがルークの言っていた岩場ね」
セレン率いる狩猟チームは、その岩場へと向かっていた。
あれからエルフも加わり、さらに人数が増えた狩猟チームだが、その中から十五人ほどを選抜しての調査隊だ。
「一見、ただの岩場にしか見えないが……しかしルーク殿が言っていたのならば、きっと何かあるのだろう」
その中にはエルフの戦士長だったフィリアもいる。
『弓技』と『緑魔法』というダブルギフトである彼女は、この狩猟チームにおいて大きな戦力となっていた。
他には『剣技』のバルラットや『盾聖技』のノエル、それに『巨人の腕力』のゴアテなど、お馴染みのメンバーたちの姿もあった。
よほどのことがない限り十分な戦力だろう。
やがて目的の岩場へと辿り着く。
荒野にはこうした岩場があちこちにあって、決して珍しいものではない。
「一応、魔物のニオイはしませんね」
そうはっきりと告げたのは、『獣の嗅覚』というギフトを持つメンバーだ。
その名の通り、獣並みの嗅覚で、魔物などの接近をいち早く察知することができ、狩猟チームに大いに貢献してきた。
「あの中央付近に見える大きな岩……あそこから嫌な気配がします」
一方で、そう警戒を示したのは、『危険感知』ギフトを持つメンバーだった。
「魔物のニオイはしないけどなぁ……」
「魔物じゃないのかしら?」
「……分かりません。ですが、何かあるのは間違いないと」
「十分注意して近づいていくべきだな」
そうして一行は、岩場の中心にそびえるひと際巨大な岩に向かって進んでいった。
やがて巨大岩のすぐ目の前まで来たとき、彼女たちはそれを発見した。
「これは……?」
「洞窟か?」
巨大岩の足元に、ぽっかりと穴が開いていたのだ。
縦に三メートル、横に二メートルほどの大きな穴である。
警戒しつつも入り口付近から中を覗いてみると、穴は緩やかな下り坂になっていて、ずっと奥まで続いているようだった。
かなり深いらしくて、すべてを見通すことはできない。
「この中、危険な感じがビンビンしてます……っ!」
「ここまで来て分かりましたが、奥から微かに魔物っぽいニオイが……」
セレンとフィリアが顔を見合わせる。
どうやらそろって同じ考えに至ったようだった。
「……間違いないわね」
「ああ……これはダンジョンだ」
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