第70話 随分と古いけど
エルフの里には代々、祈祷師と呼ばれている人がいるという。
僕たち人族でいう神官に当たり、『神託』に相当する『祈祷』というギフトで、エルフたちを祝福するのが祈祷師の役目だ。
なので、エルフたちは例外なく祝福を受けていた。
238人のうち、ギフトを授かっているのは20人ほど。
未祝福の子供を入れてもだいたい十分の一くらいで、人族よりやや少ない印象かもしれない。
彼らのギフトは、種族の特性なのか、『弓技』や『白魔法』、それから『緑魔法』の割合がかなり多かった。
そんな中にあって、フィリアさんは『弓技』と『緑魔法』の両方を持っているという。
セレンと同じダブルギフトだ。
一方で、ドワーフたちには、神官や祈祷師に相当する者はいなかった。
そのため彼らは全員がギフトを持っていない。
「『神託』でもギフトを授けられるのかな?」
「実際に試してみましょう」
そこでミリアが『神託』を使い、ドワーフたちを祝福することにした。
種族が違うとダメなのかな? と思いきや、
「どうやら上手くいったようです。10人ほどにギフトを授けることに成功しました」
その後、エルフの『祈祷』でも祝福を与えることができ、いずれも種族を問わないことが分かった。
サンプルが少ないけれど、ドワーフで多かったのは『鍛冶』や『採掘』、それに土や石に関する魔法の才能である『黄魔法』といったものだった。
やっぱり種族特性があるらしい。
そんな中、珍しかったのが、
ドナ
年齢:11歳
愛村心:低
適正職業:職人
ギフト:兵器職人
「『兵器職人』……?」
随分と物騒なギフトだ。
十一歳になったばかりの少女なので、まだギフトを授けることはできていないけれど、彼女は名前をドナと言った。
そんな彼女は、大人たちが地下に籠っている中にあって、よく地上に出てきては興味深そうに村の建物なんかを眺めていた。
好奇心が旺盛な子なのかもしれない。
中でも、僕が施設カスタマイズを使い、武具を量産していると、必ずと言っていいほど見学に来ていた。
シャイな子らしく、何も言わずにじーっと座って見ている。
「武器が好きなの?」
作業しながら声をかけてみた。
基本的に男性は厳つく、女性はふくよかなドワーフたちだけれど、子供の頃の見た目は人族とあまり変わらない。
むしろ幼く見えるくらいだ。
エルフほどじゃないけれど、寿命が長いドワーフも幼い期間が人族より長いらしい。
そのため十一歳のドナも五、六歳くらいの子供に見えて、つい小さな子供に話しかけるような口調になってしまう。
「……」
ドナは無言のまま小さく首を縦に振ったかと思うと、背中に隠していたそれを見せてきた。
「……石板? 随分と古いけど……」
年季の入った石板だ。
そこには何やら文字らしきものが書かれている。
「うーん、読めないや。古代文字かな? ドナは読めるの?」
「……」
ドナは首を左右に振ってから、
「洞窟に……昔から、ある。たぶん、昔のドワーフ」
「昔のドワーフ? ということは、先祖が遺した石碑かな?」
「……ここ」
ドナは石板の端を指さした。
そこには何やら絵らしきものが描かれている。
人型のようだけれど、胴体に比べると頭が大きい。
手が長くて足が短く、ずんぐりとした体形だ。
「何だろう? ゴーレムかな?」
「……兵器」
「兵器?」
「ん。昔の、兵器……ドワーフが作った。ゴーレムと違う……中に、乗れる。ここ」
言われてよく見てみると、確かに頭の中心に窓のようなものがあって、そこに人の顔らしきものが描かれている。
「人が乗り込んで戦う兵器、ってことか……」
もしかしてフィリアさんが言っていたのって、これのことかな?
ドワーフが強力な兵器を開発して、それで世界を支配しようとしたって。
人が乗って操縦していたとなると、すでに失われた技術がふんだんに使われていたのだろう。
きっと現代じゃ、作るのは難しいに違いない。
「あ、だけど。形だけなら作れるかも?」
「?」
ふと思い至って、僕は石垣を作り出した。
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