第477話 もう倒しちゃったんで
その日、僕はミランダさんに呼び出された。
彼女が居候している部屋に入ると、エミリナさんもいた。
「話って何ですか?」
「ああ、実はよ……そろそろ、オレたちがなぜ封印されていたのか、話すべきときが来たと思ってよ」
「そうですか」
「って、何で回れ右して帰ろうとしてんだよ!?」
僕は溜息を吐きながら向き直って、
「だって、どうせまた出鱈目を言って僕を揶揄うつもりでしょ」
「いやいや、今までのは悪かったって。だが今回はマジだ。よく見てみろ、オレもエミリナも全然酔ってねぇだろ?」
「言われてみれば」
珍しく部屋の中が整頓されているし、アルコールの臭いもしない。
「うふふふ、わたくしたちだって、いつでも飲んでるわけではないんですのよ」
「いつでも飲んでますよね?」
最近は飲んでいないところを見たことがない。
だからこそ、こうして素面でいるのが信じられないほどだ。
まさか、今回は本当に真面目に話すつもり……?
「でもこいつらのことだし、手が込んだ真似をしてまた僕を揶揄う気かもしれない」
「……心の中の声が完全に外に漏れだしてんぞ? まぁ、とりあえずオレの話を聞いてみろって。最近、世界的に魔物の動きが活発化してきてるだろ?」
「え? なぜそれを? というか、唐突に何ですか? ミランダさんたちの話と何の関係が?」
僕が少し食いついてきたからか、ミランダさんは満足そうに頷いてから、
「実は関係大ありだぜ。今から何百年も昔の話だが……悪しき神によって、世界中の魔物が力を得た。数が増えたばかりか、より凶悪で狂暴になりやがったんだ。だが、実はそれはほんの序章に過ぎなかった。その神の加護によって、恐ろしい魔族の王が誕生したんだ」
えっと……どこかで聞いたような話なんだけど?
「そいつは自らを魔王と名乗った。そして他の魔族を従え、狂暴化した魔物を操りながら、人間の国々に襲い掛かったんだ。その結果……人類国家の半分以上が滅ぼされた」
うん、つい最近、聞いたばかりの話だ。
「もはやこのままじゃ、人類は完全に魔族に支配されちまう。だがそんな状況で、魔王に立ち向かう人類の希望が現れた。それがオレたちだ。オレとこいつ、それからあと二人の英傑たちが、力を合わせて魔王に挑んだ。戦いは熾烈を極めたが……ついには魔王を打ち破ることに成功する。ただ、絶命の間際、魔王はこう告げた――」
「――いずれ新たな魔王が誕生する。今度こそ貴様ら人間どもは滅びるだろう、と」
「そこでオレたち四人は、自らを封印することにした。新たな魔王が現れたときにオレたちもまた復活し、再び魔王を倒すためにな」
「うふふふ、その前に誰かに無理やり封印を解かれたりしないよう、人の手が届かない場所を選んだはずだったんですのよ?」
「まさか、普通にオレたちのとこまで辿り着きやがるとは思ってなかったぜ。お陰でほんの少し、復活のタイミングがズレちまったようだ」
「というわけですので、魔王の討伐はわたくしたちにお任せくださいまし」
これは一体、どういうことだろう?
今回の一件を利用し、また僕を揶揄っているってこと?
うん、そうだ。そうに違いない。
「はぁ……そうまでして、僕を騙したいんですか……」
「あ? 何を言ってやがる? 今回のはマジのマジだぜ」
「昼間から部屋に籠ってお酒ばっかり飲んでるのに、どうやって情報を得たんですか」
「……何の話ですの?」
不思議そうな顔をする二人。
「そもそも残念ですけどそれ、もう成立してないですよ? 最新の情報を仕入れられなかったようですね。お陰でちょっと喜劇みたいになってますから」
「おい、どういうことだ? 本気で意味が分かんねぇんだが?」
「だって……魔王なら、もう倒しちゃったんで」
「「はい?」」
二人の頓狂な声がハモった。
「正確には、邪神の呪いを解いて魔王を正気に戻したんです。それで魔族たちも正気になって、すでに和平を結びました」
「は? は? ちょっ……な、何を言ってやがる?」
珍しく焦った様子のミランダさん。
「演技が上手いですね。だけど、もう僕は騙されないですよ」
「いやいやいや、演技じゃねぇって! 魔王を倒した!? それはマジで言ってんのかよ!?」
……あれ?
さすがに演技にしては、ちょっと迫真すぎる気も……?
「はぁ、だからやり過ぎるとオオカミ少年になると忠告しましたのに……」
エミリナさんが大きな溜息を吐く。
「村長さん、今回こそは本当なのですわ。そしてあなたのおっしゃることも本当だと信じることにしますの。……今までの意趣返しに、嘘を吐いているというわけではありませんわよね?」
「僕は嘘なんて吐いてないよ。魔族と和平を結んだ証拠に、村に遊びに来ているよ」
「マジか!」
ミランダさんが部屋の窓から外を覗く。
地上は遥か下なので人が豆粒くらいにしか見えないけど、視力がいいのか、あるいは魔法によるものなのか、すぐに確認できたようで、
「……マジで魔族がいやがる……いつの間に……あれ……つーことは……オレたち……何のために封印から解放されて……」
「どうやら本当に、わたくしたちの役目が終わってしまったみたいですわね……」
……どうやら今回は本当に本当だったらしい。
ええと……こんなとき、なんて言ったらいいんだろう……?
「つまり……もう何も気にせず、毎日毎日飲んで食ってぐうたらしてたらいいってわけだな!」
「そういうことになりますわねぇ!」
「開き直った!?」
「「ひゃっほおおおおおおおっ!!」」
そうしていつも以上にハイテンションで酒盛りを始める二人。
僕は思わず呟いた。
「また封印できないかな、この二人……」
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