第465話 おいらだけが正気なんだ
どうやら僕たちに先駆け、すでに父上たちもこの魔王の拠点に辿り着いていたらしい。
「はっ、先に着てやがったか。てっきり追い抜いちまったと思ってたがよ」
「……僅か五人で、しかも何の情報もないままここまで来るなんて、さすが父上たちだ」
さすがに僕らよりは時間がかかったみたいだけど、こっちはビビさんの案内があったからね。
どこに魔王がいるかも分からない状態から、魔大陸の中心地にあるこの場所まで到達するなんて至難の業だろうに。
「あれが親父さんなのか……全然似てないな。それに身長も……」
「そ、それで、今はどこにいるの?」
「あの魔王の拠点に乗り込んだよ。おいらが案内してやったんだ。正面から乗り込むのは危険だから、比較的安全な裏ルートを通ってな」
小柄なダイモン族の男は、どうやら父上を手助けしたらしい。
「何で僕たち人間に協力してるの?」
「さっきも言ったが、おいらは正気なんだ。……そう、おいらだけが正気なんだ」
彼が言うには、ほんの少し前までは、ダイモン族の中に人間の大陸に侵攻しようなどという考えは微塵もなかったという。
「おかしくなったのは、あいつがダイモン族の新しい王になってからだった。突然、自らを魔王と名乗り始め、同胞たちを扇動し始めたんだ。そしてどんどんそれに従う者たちが増えていき……気づけばみんなすっかり今の有様だ。まるで洗脳されちまったかのように」
「あなただけ正気なのは?」
「多分、おいらの特異体質のお陰だ」
「特異体質?」
「ああ。おいらは昔から、どんな病気も状態異常も一切かからない体質なんだ」
それで邪神の呪いを受け付けなかったのかもしれない。
「おいらは一族を、以前の平和な頃に戻したい。そのためには多分、魔王を倒すしかない。けど、脆弱なおいらじゃ何もできないし……だからもし、魔王を倒しに来た人間たちが現れたら、力を貸そうと思ったんだ」
嘘を言っているようには見えない。
それにもし呪いに侵されている状態なら、こんな友好的な態度、演技でもできないだろう。
「どうする? 罠かもしれないけど……」
「そうね……考えてみたら、わざわざ私たちを罠にかける意味もない気がするわ。すでに敵地のど真ん中にまで入り込んでるんだもの」
確かにセレンの言う通りだ。
「はっ、どうせ正面から乗り込むか、この罠をぶち壊してやるか、どっちかしかねぇわけだ。ごちゃごちゃ考えてるだけ時間が勿体ねぇよ」
「そうだね……よし、ひとまず彼の言うことを信じてみるとしよう」
仮にもし彼が僕たちを騙そうとしているのなら、協力に応じた父上たちのことが心配だ。
まぁそれ自体が彼の嘘の可能性もあるわけだけど……。
「本当かっ? よし、じゃあおいらに付いてきてくれ! おっと、そういや名乗るのが遅れたが、おいらの名前はモンモルだ」
モンモルが近くの岩の下部にある穴へと飛び込む。
僕たちはそのあとを追った。
「こっちだ。次はこっち。それからここを登る」
モンモルが選んだルートは、非常に複雑なものだった。
ほとんど岩の外に出ることなく、穴の中をひたすら進んでく。
もはや方角も分からない。
同じ道を戻れと言われても戻れないだろう。
「おい、本当にこれで魔王のとこに行けるんだろうな? もし怪しい動きをしやがったら、問答無用で叩き斬ってやるぞ?」
「できるだけ危険な道を避けているから、どうしても複雑なルートになってしまうんだよ! 最後には確実に連れて行ってみせる!」
ラウルに脅され、慌てて応じるモンモル。
「……確かに……魔族を……しっかり、避けている……」
頷くのはディルさんだ。
と、そこで僕はあることに気づく。
「あれ? この壁の変な痕、さっきもあったような?」
それはまるで剣のような紋様で、自然にできたものとは思えない。
って、もしかしてこれ……アルベイル家の紋章……?
よく見ると、アルベイル家の紋章に描かれている剣とそっくりだった。
「……多分、メリベラだ。通った道が分かるように、こっそり壁に魔法で刻んでいったんだ」
四将の一人メリベラは、黄魔法を得意としている。
岩の表面にこういう紋様を刻むくらい朝飯前だろう。
「じゃあ、このルートを父上たちも通ったってことだね」
そうこうしていると、モンモルが足を止めた。
「……ここから先が魔王の拠点だ。後はほとんど道なりに進んでいけば、魔王の元に辿り着けるはず。無論、警備も厳しいから戦闘は避けられないだろう」
どうやら外から見えていた、あの渦巻き状の巨岩の内部までやってきたらしい。
「おいらが案内できるのはここまでだ。生憎、付いていったところで何の戦力にもなれないからな」
「十分だよ。ありがとう」
「……生きて戻ってきたら、また話をしよう」
「そうだね! ぜひ!」
そうしてモンモルと別れ、僕たちは先へと進む。
「急ごう。……父上たちが心配だし」
モンモルによれば、父上たちをここまで送り届けたのは、ほんの三十分ほど前のことらしいけど、すでに魔王と対峙しているかもしれない。
「そう簡単にやられる連中じゃねぇだろ。だが、むしろせっかくここまで来たのに、すでに魔王を倒しちまってたら癪だからな」
ラウルが先陣を切って走り出す。
ここまで来たらもういつ魔族に見つかってもおかしくないので、こそこそ進む意味はない。
螺旋状の坂道を、みんな全速力で駆け上がっていった。
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