第462話 おい、筋肉女
呪いから解放されたアルマル族の五人が、しばらく力を貸してくれることになった。
「アルマル族の集落がどこにあるか、情報がなかったから助かるかも」
「村を避けていけばいいってことだな! それくらい任せておけ! 危険の少ないルートも教えてやれるぜ!」
呪いがなければ、割と気のいい兄ちゃんたちといった印象だ。
五人とも村の若い男たちだけれど、彼らは運よく徴兵を免れたらしい。
「村の若い男は半分くらいが徴兵されちまったからな。いや、うちだけじゃねぇ。この辺りの村のほとんどがそうだろう」
「お陰で食料を確保するのに苦労してるぜ」
「まぁ呪いのお陰か、それに不満を抱くこともなかったわけだが」
みんな喜んで徴兵に応じていったらしく、むしろ選ばれなかった方が悔しがって泣いたほどだとか。
呪いというか、もはや洗脳に近い感じである。
「そういう兵士どもで構成された軍は一番怖ろしいぜ。仮にどんなに撃退されても、諦めずに何度でも攻めてきやがるだろうからな」
ラウルが苦々しい顔で呟く。
「犠牲を抑えるためにも、なんとしてでも魔王を倒さねばならぬ」
ビビさんが決意を新たにする中、僕たちはアルマル族の案内もあって、スムーズに一帯を抜けることができた。
「ぜひ頑張ってくれ!」
「死ぬんじゃないぞ!」
「魔王をぶっ倒せ!」
アルマル族と別れ、さらに魔大陸の奥地に向かって進んでいくと、大きな川に突き当たった。
流れの緩やかな川だけれど、川幅は広く、数百メートルはあるだろうか。
かなり濁っているので、水の中はまったく見えない。
「さて、この川を越えれば目的地まであと僅かだが……問題はこれがなかなか厄介な川だということだ」
「この距離くらい余裕で泳げそうだけど?」
ビビさんの言葉に、セレンが首を傾げる。
……うん、確かに僕以外のみんなは余裕そうだけど。
「せ、拙者、泳げぬでござる……」
あ、ここにもう一人、難しそうな人がいた。
「確かに流れこそ緩やかだが、ここを泳ぐのは自殺行為だ。なにせ凶悪な魚の魔物、マッドピラニアが棲息し、水中に少しでも浸かると最後、やつらに全身の肉という肉を噛み千切られて、あっという間に骨と化すだろう」
「そんなに恐ろしい川なんだ……」
「それだけではない。ブラッドアリゲーターという全長十メートルを超すワニの魔物や、ボルトシルリと呼ばれる電気ナマズの魔物なんかも棲息している。ボルトシルリの電撃は五十メートル以上離れた場所にいる大型魚すら感電死させるほど強力なもので、万一泳いでいるときに喰らったら仮に即死でなくとも、気絶で溺死するだろう」
ますますこの川を泳いで渡るという選択肢はなさそうだ。
「船を作る?」
「はっ、んなもん時間の無駄だろ。このくらいの距離なら跳べばいい」
「と、跳ぶって……三百メートルくらいはあるよ? もっと川幅の狭いところに移動すれば……」
「生憎とこの場所が最も狭いところだ。広いところなら軽く一キロ以上はあるからな」
どうやらこの場所を頑張って越えるしかなさそうだ。
「オレが手本を見せてやる。おい、筋肉女、手伝え」
「うふん、任せて♡」
いくらラウルでもこの距離を跳躍するのは無理だろうと思っていると、やる気満々のゴリちゃんがなぜか川の方に近づいていく。
「行くぜ」
そのゴリちゃんに向かってラウルが走り出したかと思うと、巨体を頭の上から飛び越えて、
「行くわよぉんっ!! そぉれぇぇぇぇぇっ!」
ゴリちゃんが思い切り突き出した拳を足場に、ラウルが天高く飛び上がった。
そのまま軽々と川の上を舞い、あっという間に対岸に着地してしまった。
「えええっ!? そんな方法が!?」
「これなら余裕で行けそうね!」
困惑している間に、セレンがラウルを追ってあっさり川を飛び越えてしまう。
「パワーなら俺も負けちゃいねぇぜ」
ゴリちゃんだけでなく、ゴアテさんも〝発射台〟を務めるらしい。
身軽なディルさんやハゼナさん、マリベル女王、カシム、それにチェリュウさんやチョレギュさんも軽々と川の向こうへ行ってしまった。
でも、さすがにこんなの全員やるのは難しいんじゃ……。
「村長、心配は要らない。ぼくたちの魔法でサポートするから」
「セリウスくん……でも、仮に向こうまで行けても着地が……」
「大丈夫よぉ、村長ちゃん♡ あっちで何とかしてくれるはずよぉん。と、いうわけで」
ゴリちゃんが僕の身体を片手で持ち上げた。
「そもそも村長ちゃんは軽いから、自分で跳ぶ必要はないわぁん。せーのぉっ……」
「うわあああああああああああっ!?」
そのまま僕は片手で放り投げられてしまう。
気づけば川の上空を飛んでいて、そのまま向こう岸へ。
「~~~~っ!?」
「はっ!」
最後はセレンにキャッチされた。
「ふふ、ルークは軽いから余裕ね」
「うぅ……なんか色んな意味で癪だ……」
それから細身なビビさんだけでなく、大柄なバルラットさん、バンバさん、アレクさん、ガイさんもこっちへ跳んできた。
フィリアさんとセリウスくんが風でサポートしたお陰だ。
心配なのがアカネさんである。
以前の体型ならよかったけど、なにせ今は太ってしまっているのだ。
「次は拙者の番でござるな!」
「行くぞっ、おらぁぁぁっ……って、まずい、少しズレたか?」
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