第39話 夢でも見ているのでは
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「はっ……も、申し訳ありませんっ……つい、熱くなってしまって……」
「あ、うん、大丈夫です。僕もあんなに戦争ばっかりして馬鹿みたいだなって思ってますんで」
我に返って謝ってくるマオ村の村長マックさん。
僕がはっきり自分の考えを口にすると、マックさんは目を丸くした。
領主の子がそんなこと言うのか、というような顔だ。
「つまるところ、このままだと冬を越せないので、この村に出稼ぎに来たいってことですね」
「は、はい、そうなります……」
「いいですよ。出稼ぎどころか、移住していただいても構いません。特に人数の制限もないです。幸い食料は沢山ありますし、何なら全員まとめてでも」
「ほ、本当ですか!?」
今の時代、村を捨てて別の領地に逃げ出すなんて話、珍しいことじゃないしね。
それにしても、今までで最大規模の戦争か。
となると、どこと戦いを始めるつもりなのか、大よその予想が付く。
アルベイル家とは領地が隣り合う犬猿の仲にして、共に現在の五大勢力の一角に数えられるシュネガー家だろう。
もしアルベイル家が戦いに勝てば、他の大領主たちを差し置いて、最大の領地を得ることになるはずだ。
「ラウルも戦場に出るのかな? まぁ僕の知ったことじゃないけど」
そんなやり取りをしていると、そこへセレン率いる狩猟チームが帰ってきた。
「ただいま。今日は大猟よ」
やけにセレンの機嫌がいい。
見ると、狩猟チームはたくさんの獲物を抱えていた。
最近は冬に備えて狩りを頑張ってもらっているのだけれど、随分と獲ってきてくれたようだ。
「うおっ、すげぇ美少女――は? ひぃっ!?」
セレンを見て分かりやすく表情が緩んだマンタさんが、彼女の後ろの成果物に気づいてその場にひっくり返った。
「お、お、お、オークっ!?」
マックさんもまた目を剥いて思わず逃げ出そうとする。
「心配要らないわよ。すでに死んでるから」
「ま、まさか、このオークを、あなたたちが……?」
「ええ、向こうに見える森でね。もちろんこの一体だけじゃないわ」
「ひえっ!?」
今日の狩りの成果は、どうやらアルミラージが五匹とオークが三体のようだ。
魔物ばかりなのは、動物より肉が美味しいからである。
ただ、このくらいの成果なら、セレンが自信満々に大猟と言うほどじゃないと思う。
これまでにもオーク三体くらい何度かあったはずだし。
「ふふふ、あれを見なさい」
言われて視線を向けてみると、恐ろしく巨大な何かがこっちに引き摺られてくるのが見えた。
「え? 何あの大きなの?」
「グレートボアよ」
それは猪の魔物だった。
体長はゆうに五メートルを超えていて、四肢の一本だけで僕よりも大きい。
鼻の近くからは野太い牙が生えている。
あんな怪物の突進を受けたら、オークでも吹き飛ばされるだろう。
「ちょっ、あんなのどうやって倒したの……?」
「ノエルとゴアテが大盾で動きを止めて、後は首を狙って一斉攻撃ね。ルークが作ってくれた鉄の大盾が役に立ったわ」
何でもないことのように言うセレン。
実は剣や槍だけじゃなく、盾も一緒に作っていたのだ。
鉄格子を何本もくっつけて作った巨大な盾は、『盾聖技』ギフトのノエルくんと、『巨人の腕力』のゴアテさんが使ってくれている。
とはいえ、よく見るとその大盾が思い切り凹んでいる。
かなり分厚く作ったはずなのに……。
グレートボアの突進の威力に僕は戦慄する。
ちなみにそのグレートボアを引き摺ってきているのがゴアテさんだ。
三十代半ばのゴアテさんは、身長こそせいぜい170ほどだけれど、ギフトのお陰で自分より遥かに巨大な魔物を軽々と引いている。
……ちょっと現実味がない光景だ。
「「あ、あ、あ……」」
マックさんとマンタさんは、グレートボアの巨大さに驚愕しているのか、あるいはゴアテさんの異常な怪力に驚いているのか、言葉を失ったように立ち尽くしてしまった。
「親父、俺もしかして夢でも見ているのか?」
「……引っ張ってやろうか?」
「あ、ああ、頼む……いでっ!? い、痛いってことは、夢じゃな――いでででででっ!? お、親父っ!? いでっ、いでぇって!? いつまで引っ張ってやがる!? いででででっ!?」
この親子、なんだかすごく仲がいいなぁ。
……ちょっと羨ましくなってしまった。
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