第318話 誰かいたような
「……負けたでござる」
床に両手をつき、アカネさんががっくりと項垂れた。
訓練場で行われたセレンとアカネさんの手合わせ。
アカネさんも相当な実力者のようで、一進一退のほぼ互角の戦いを見せていたものの、最後にはセレンが狩猟隊隊長としての意地を見せて勝利した。
もっとも、セレンは相手に合わせて魔法を使わなかったのだけれど。
ちなみにアカネさん、村人鑑定でこっそり鑑定してみたところ、
アカネ
年齢:17歳
愛村心:低
推奨労働:武士
ギフト:侍剣技
『侍剣技』というギフトを持っていた。
通常の『剣技』と違い、サムライが使う特殊な剣技なのだろう。
「なかなか強かったわね。途中、何度か危なかったわ。東国の剣術もなかなか侮れないわね」
アカネさんの強さを称えるセレン。
一方、アカネさんはわなわなと唇を震わせ、
「サムライ代表として戦い、負けてしまったでござる……っ! しかも、業物の刀を提供されての敗北っ! 何の言い訳もできぬでござる!」
あ、来るぞ来るぞ。
「このままでは、西国の人たちに、サムライが弱いと思われてしまうでござる……っ! ああっ、これはもはや、一生どころか、末代まで続く恥っ! かくなる上は……」
すぐに止める準備をしないと。
僕が言うまでもなく、セレンもフィリアさんも、いつでも動けるように構えている。
「切腹して詫びるしかないでござるっ!」
やっぱり来た!
ナイフの方は事前にすべて回収していたので、刀を逆手に持ち、そのままお腹に突き刺そうとするアカネさん。
その刀の腹に、フィリアさんが放った矢が直撃した。
アカネさんの手から弾き飛ばされた刀が、くるくると宙を舞い、床に突き刺さる。
それをすかさずセレンが回収した。
「アカネ殿、自分の命を粗末にするのは感心しないな」
「フィリアのいう通りよ。負けて悔しかったら、もっと強くなってリベンジすればいいじゃない。また受けて立ってあげるから」
「むう……」
不服そうにしつつも、刃物がなければ切腹もできず、しぶしぶ訴えを受け入れるアカネさん。
「山脈越えも、ここの訓練場で修行して、強くなってからまた挑戦したらいいと思うよ」
ギフトで作り出したこの訓練場で鍛えれば、通常よりずっと早くレベルアップできるはずだ。
〈訓練場:武技や魔法などの訓練のための施設。成長速度アップ、怪我防止機能〉
そんなこんなで、アカネさんはしばらくこの村に滞在することになったのだけれど。
「山脈の向こう側に行ってみたいわ!」
と、ここ最近のノリでセレンが言い出した。
このところ海とか砂漠とか、頻繁にあちこち旅しているのだ。
魔境の山脈には、ワイバーン狩りのために何度も行ってるけど、山脈の向こう側まで抜けてみたことはない。
「山脈の東側ってどんな感じのところなの?」
アカネさんに訊ねる。
「現在は大きく三つの国があるでござる。拙者の出身地であるサムライの国・エドウ。それから商売の国・オオサク。そして信仰の国・キョウ。かつては激しい戦国の時代もあったでござるが、現在は長らく平和が続いているでござるよ」
他にも、忍の国・イルガや、北方の国・アヌーイ、南諸島の国・リュッキュなど、小さな国が幾つかあるらしい。
いずれにしても、ほとんど情報のない異国の地だ。
できれば案内人として、アカネさんに付いてきてほしかったのだけれど、
「山脈を単身踏破できずに、おめおめと帰ることはできぬでござるよ」
というふうに断られてしまった。
今すぐ故郷に帰るくらいなら、腹を切って死んだ方がマシだと言われては、当然ながら引き下がるしかない。
「あれ? そういえば、東の出身だっていう人、アカネさん以外にも誰かいたような……?」
そこで僕はふと思い出す。
確かその人もアカネさんと同様、ちょっと変わった衣服を着ていて……。
「あっ、思い出した。アレクさんの冒険者パーティの、ガイさんだ」
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