第296話 轢き殺しちまえ
砂でできていたはずの防壁が、一瞬にして石造りの城壁へと作り替えられた。
より硬く分厚く、しかも高い壁だ。
「「「……へ?」」」
激突までの僅かな一瞬で、砂賊たちは思った。
もしかして今まで自分たちが見ていたのは、幻覚だったのだろうか、と。
砂漠で極限状態に陥ったときには、よく幻覚が見えるようになるものだが、サンドリザードが曳くソリに乗り、水も食糧も不足していない今、幻覚というのは考えられない。
かといって、他の原因など思い至るはずもなく。
いずれにしても、今まさに防壁を破壊すべく突進しようとしていた彼らには、停止する余裕などなかった。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
凄まじい轟音と共に、サンドリザードたちが頭から城壁に激突する。
一瞬遅れて、砂賊たちが乗っていたソリもまた、城壁に思い切り正面衝突した。
「「「があああああああああああああっ!?」」」
ソリの中から投げ出される砂賊たち。
サンドリザードはそろって気絶し、粉砕したソリの破片が周囲に散乱したのだった。
◇ ◇ ◇
「な、何が起こったのだ……?」
地獄絵図の裏側では、突如として出現した城壁にマリベル女王が唖然としていた。
「城壁を作ったんだ。今頃は向こう側でひっくり返ってると思うよ。あ、今から開けるね」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
ちょうど自動ドアのような感じで城壁を動かし、反対側が見えるようにする。
「ああ……痛いよぉ」
「うぅぅ……」
「し、死ぬ……」
すると乗っていたソリが砕け散り、砂の上に放り出された砂賊たちが苦しげに呻いていた。
「な、な、な、何なんだよ、これはよぉっ!?」
「さっきまで間違いなく砂を固めただけの壁だったはずだろうっ!?」
一団の後ろの方にいたのか、どうやら一台だけ激突を免れたソリがあったみたいだ。
「と、とにかくこれじゃ分が悪ぃっ! とりあえず逃げるぞっ!」
「シャアアアアッ!」
慌ててサンドリザードに鞭を打って方向転換し、逃走しようとしている。
砂漠の彼方に逃げられてしまっては、追いつくのは不可能だ。
「逃がさないわぁん」
城壁の上から凄まじい勢いで跳躍し、ソリの前に着地したのはゴリちゃんだった。
「な、何だ、この筋肉の化け物はっ!?」
「構わねぇ! 轢き殺しちまえ!」
「シャアアアアッ!」
ソリを曳くサンドリザードが、立ちはだかるゴリちゃんに正面からぶつかっていく。
「せぇのっ♡」
がしっ!
可愛らしい掛け声とは裏腹に、サンドリザードの下顎を掴んだゴリちゃんは、そのままぐっと腰を落としながらトカゲの腹側に入り込んで、
「どっせええええええええええええええええええええいっ!!」
豪快な雄叫びと共に背負い投げを繰り出したのだった。
「「「投げたあああああああああああああああっ!?」」」
サンドリザードと砂賊たちを乗せたソリがひっくり返りながら宙を舞い、そうして砂の上へと叩きつけられる。
「~~~~~~ッ!?」
「「「ぎゃあああああっ!」」」
……さすがゴリちゃん。
単純なパワーも凄いのに、あんな風に柔よく剛を制すような投げ技までできるなんて。
「うふぅん、我ながら上手く決まったわねぇ」
「ば、化け物っ……」
「あらん? こんな美女を捕まえて化け物だなんて、失礼しちゃうわぁ?」
「ひぃっ!」
ゴリちゃんに怯えているのは砂賊たちだけじゃなかった。
「クルル……」
サンドリザードもまた喉を震わせながら怖がっていた。
意外と鳥みたいな鳴き声を出すんだね。
その後、エンバラの兵士たちによって砂賊たちは拘束された。
そして彼らを問い詰めた結果、どうやらこのオアシスの情報が、砂賊側に漏れてしまっていることが分かったのだった。
「いつまでもここに留まっているわけにはいかなくなった。かといって、他に相応しい場所があるかと言えば……。それにまだここを目指して、我々と合流しようとしている兵たちがいるはず……一体、どうすれば……」
頭を悩ませるマリベル女王。
そんな彼女に、僕はあることを提案したのだった。
「マリベルお姉ちゃん。いっそのこと、すぐに国を取り戻しに行くっていうのはどうかな?」
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