第29話 公衆浴場です
習得したばかりの村スキル「施設カスタマイズ」。
これを使ってベッドの数を増やそうと、僕は新たなベッドをイメージする。
すると視界に半透明のベッドが出現する。
意識次第でサイズを変更したり、場所を動かしたりすることが可能だ。
さらに半透明のベッドの脇には、数字が書かれている。
今は2ポイントで、サイズをどんどん大きくしていくとこれが3ポイントに増えたり、小さくすると1ポイントに減ったりする。
どうやらこれがベッドを作り出すのに必要な村ポイントらしい。
「そうか。新規の継ぎ足しには村ポイントが必要なんだったっけ」
2ポイントがダブルベッドのサイズだし、1ポイントのサイズでも十分だろう。
僕は二階と一階の部屋に一つずつ、新しいベッドを設置した。
「よし、これで今夜からは一人で寝れるぞ!」
ここに来てからずっとミリアとセレンに挟まれて寝てたからね。
最近は少し慣れてきてはいたけれど、やっぱり年頃の男女が同じベッドで寝るなんておかしいと思う。
……ちょっとだけ寂しさを感じたのは内緒だ。
「できたらトイレとお風呂も増やしておきたいな」
今までトイレとバスルームが一体だったけれど、家屋・中では別々になっていた。
ただ、どちらも一か所しかなく、これではまた事故が起こりかねない。
詳しくは秘密だけれど、何度かあったんだよね……。
「うわ、意外とポイントが必要っぽい」
ベッドはたったの1ポイントだったけれど、トイレは10ポイント、バスルームは5ポイントを要求された。
でも不幸な事故を避けるためにも、このカスタマイズは必須だ。
トイレとバスルームを増築した僕は、続いて村の余ったスペースに新たな施設を作ることにした。
公衆浴場だ。
〈公衆浴場を作成しますか?〉
頷くと、次の瞬間、長屋よりも大きな建造物が出現していた。
「村長、これは一体……?」
「あ、ベルリットさん。これは公衆浴場です」
ちょうどいいところにベルリットさんがやってきたので、僕は簡単に説明する。
彼は村人たちのまとめ役なので、この施設の使い方を村人たちに周知してもらいたかった。
場合によっては使用の際のルールなんかも作ってもらいたいしね。
「こうしゅうよくじょう、ですか……?」
でも、どうやら公衆浴場そのものを知らないらしい。
そう言えばアルベイル領内でも、公衆浴場があったのは領都ぐらいなんだっけ。
確かに聞いたことがなくてもおかしくない。
「じゃあ、せっかくなので一緒に中を確認してみましょう」
百聞は一見に如かず。
ベルリットさんとともに建物の中へ。
まずちょっとしたエントランスがあり、その奥に二つのルートが設けられていた。
どちらもカーテンのようなものが掛けられ、それぞれ「男」「女」という文字が書かれている。
「ちゃんと男性用と女性用に分かれてるみたいだね」
「となると、トイレのようなものでしょうか……?」
「いえ、それは公衆便所ですね」
ひとまず男性用の方へ入ってみる。
「ここは脱衣所かな」
「脱衣所、ですか……?」
何の施設か分からず首を傾げているベルリットさんを促し、奥にあった扉を開けてみた。
するとそこにあったのは巨大な浴槽だ。
木でできているのか、それらしい香りが鼻を突く。
すでに浴槽にはお湯が張られていて、湯気が視界を白く染めている。
このお湯、一体どこから湧いているんだろう……。
家屋でも無限に水やお湯が出てくるし、気にしても仕方ないか。
「もしかしてこれは、お風呂では……?」
「そうです。みんなで利用できるお風呂ですね」
「なんと……」
ちゃんと洗い場もある。
あそこでしっかり身体を奇麗にしてからお湯に浸かってもらいたい。
「今は温かいからいいけど、冬場なんかは井戸水だと辛いと思いますので」
「ああ、我々などのために、こんな素晴らしいものを作っていただけるとは……ありがとうございます!」
「と言っても、ギフトの力で一瞬だったけどね」
「これを一瞬で……ああ、やはり村長は救……はっ?」
「きゅう……?」
「いえ、何でもありません! とにかく、本当にみんな喜ぶかと思います!」
何だろう?
今、すごく必死に誤魔化した感じだったけど……。
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