第287話 なぜ今日は食えぬのじゃ
ゴアテさんの協力もあって、どうにか巨大サメの身を切り出すことに成功した。
金属のように硬かった皮と違って、身は意外と柔らかいみたいだ。
また、サメの恐ろしい外見とは裏腹に、淡いピンク色で美味しそうな印象を受ける。
「まずは刺身で試食してみるとしよう。ふむ、新鮮だからか、臭みはまったくないな」
そう言って、コークさんがサメの切り身を軽く〝醤油〟に付け、口へと運ぶ。
「~~~~~~っ!? う、美味いっっっっっ!!」
目を見開き、コークさんが叫んだ。
「コリコリッとした食感なのに、噛めば噛むほど口の中いっぱいに脂の甘みが広がっていくっ! これはめちゃくちゃ美味いぞっ!」
その大絶賛に、おおおおおっ、と歓声が上がる。
「村長も食べてみるといい!」
「う、うん」
凄い勢いで勧められて、僕も刺身を醤油で食べてみる。
ちなみにこの醤油は、僕が前世の知識を元に、料理人たちに再現してもらった調味料の一つだ。
「ほ、ほんとだっ! すごく美味しい!」
筋肉質だからか、少し歯応えがあるけれど、その中にしっかりと脂が詰まっている。
なのでコークさんが言う通り、噛むほど脂が溢れ出してくるのだ。
「「「俺にも食べさせてくれ!」」」
「「「私も!」」」
料理人たちが次々と手を上げ、試食を願い出てくる。
調理の様子を見学していた他の村人たちも殺到してきそうになったけれど、彼らにまで食べさせていたらキリがないので、今は料理人たちだけということに。
「調理するにはまず味を知らないとダメだからな!」
「そうそう!」
ちなみに僕は村長特権ということで。
あと、料理人ではないけれど、調理に必要不可欠なゴアテさんにも試食させてあげることにした。
「「「うめええええええええええええええええっ!!」」」
◇ ◇ ◇
「今日もワイバーンを持ってきてやったのじゃ!」
好物のワイバーンを捕まえ、意気揚々と荒野にある人間の村へとやってきたドーラだったが、その日はどういうわけか、ワイバーン肉の料理が出せないという。
「どういうことじゃ!? なぜ今日は食えぬのじゃ!?」
「実は村の料理人たちを挙げて、サメの調理をしていまして」
「サメ?」
「はい。気になるのであれば、見に行ってみてはいかがでしょうか? 村の広場の方ですので」
気になるので、ドーラは言われた場所に行ってみることに。
そこで彼女が見たのは、
「な、何じゃ、あれは……っ!?」
全長二十メートルはあろうかという巨大な魚の魔物が横たわり、人間たちによって解体されつつあったのだ。
そのサイズは、ドラゴン状態の彼女に匹敵している。
「あら、見慣れない子ね?」
「ひゃっ!?」
そのとき急に背後から話しかけられ、ドーラはビクッとしてしまう。
振り返ると、ドーラの知らない村の女性が立っていた。
「きゅきゅきゅ、急に後ろから声をかけてくるでないっ!」
「ふふ、驚かしてごめんなさいね。それより、あの魔物が気になるの? 凄い大きさよね。どうやら海で捕まえてきたらしいわ。村の料理人たちが集まって調理しようとしてるってことは、きっと美味しいんでしょうねぇ、じゅるり」
「~~~~っ!」
涎を垂らすその村人に、ドーラの背中がぞくりとする。
「……あら、どうしたの? なんだか、顔が青いけれど……大丈夫?」
「だだだ、大丈夫なのじゃ! は、ははは……っ!(いつの間にか油断しておったが、こんな村にいたら、いつわらわも食材にされるか分からぬ……っ!)」
踵を返し、慌ててその場から逃げ出すドーラ。
「や、やっぱり人間は恐ろしいのじゃああああああああっ!」
もう二度とこの村には来まいと誓うドーラだった。
――数日後。
「あれ、ドーラ? 久しぶりだね。最近どうしてたの? しばらく来なかったよね?」
「ちょっと、用事があっての……」
「そうなんだ。また食べてく?」
「う、うむ……」
頷きつつ、ドーラは内心で叫ぶ。
「(二度と来ないと誓ったのに、ついまた来てしまったのじゃあああああああっ!)」
この村のワイバーン料理を食べなくては生きていけないように、いつの間にか餌付けされてしまっていたドラゴン幼女だった。
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