第281話 美味しいのかしら
「それで、肝心のクラーケンはどうやったら見つかるのかしら?」
「そういえば」
公園に乗って勢いよく海上に出た僕たちだったけれど、セレンの指摘にハッとする。
この広い大海原。
しかもクラーケンは海中に潜んでいて、海の上から見つけ出すのは至難の業だ。
「ふふふ、その心配は要らないわぁ」
「ゴリちゃん、何か策でもあるの?」
「こうするのよ」
突然、ゴリちゃんが公園の端から海へと飛び降りた。
と思いきや、よく見ると端にしがみ付いたような状態になっていて、海に浸かっているのは下半身だけだ。
「クラーケンは滅多に味わえない陸上生物が好物なのよ。だからこうしていると、体液を敏感に感知して近寄ってくるってわけ」
要するにゴリちゃんは、クラーケンを誘き寄せる餌になってくれるらしい。
そしてこの作戦はあっという間に功を奏した。
「ああんっ! 来たわぁぁぁん♡」
艶めかしい声で叫んだゴリちゃんの身体に、大きな足が絡みついていた。
ゴリちゃんが海に入ってから、まだ一分も経っていない。
さっきも遭遇していたし、それだけこの海中に多くのクラーケンが潜んでいるのだろう。
……もしかしたらクラーケンからすると、ゴリちゃんが魅力的な餌に見えている可能性もあるけど。
しかしまさか、その餌から逆襲を受けるとは、思いもしなかったに違いない。
「どおおおおっ、せええええええいっ!!」
野太い雄叫びと共に、腕の筋肉を膨張させるゴリちゃん。
そしてクラーケンを身体に絡みつかせたまま、強引に海から公園へと上がってくる。
まさに人間釣り竿だ。
「~~~~~~ッ!?」
「あらん、逃がさないわよぉっ!」
陸上に引き上げられそうになり、慌てて足を外して逃げようとしたクラーケンだけれど、ゴリちゃんがそれを許さない。
クラーケンの足を掴み、力任せに引っ張り上げようとする。
「~~~~~~ッ!!」
だけどクラーケンも必死だ。
何とか公園の端にくっ付いて、ゴリちゃんに抵抗した。
「アタシと張り合うなんて、なかなかの力ねぇっ!」
「ゴリちゃん、後は僕に任せて」
僕はクラーケンの足に触れると、
「瞬間移動」
クラーケンと一緒に公園の中央へと移動する。
「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
いきなり陸上に打ち上げられて、大いに慌てるクラーケン。
「凄いわぁ、村長ちゃん!」
「今よ!」
「「「おおおっ!」」」
そこへみんなの集中砲火が。
海という得意のフィールドを失ったクラーケンには、もはや成す術なかった。
「倒したわ! これで一体目ね! ……ところでクラーケンって、美味しいのかしら?」
「「「それは俺も思っていた!」」」
相変わらず食い意地の張った狩猟隊の面々である。
「残念だけど、クラーケンはあまり美味しくないわぁ」
「「「そうなのか……」」」
美味しくないと分かるや、露骨にモチベーションが下がってしまった。
「この様子だと、まだまだたくさんいそうだね。でも今のやり方じゃ、ゴリちゃんの負担が大き過ぎるような……」
かといって、ゴリちゃん以外にあんな真似ができるとも思えない。
「あら、心配してくれてるの? 村長ちゃんったら、優しいのねぇ♡」
「そうだ!」
僕はあることを思いついて、ポンと手を打った。
「影武者を使えばいいんだ」
「「「……」」」
浮き輪を腰に付けた僕の影武者たちが、プカプカと海に浮かんでいる。
その身体にはロープも巻き付けてあるので、遠くに行ってしまう心配はない。
影武者であれば、こんなふうに同時に複数の餌とすることが可能だ。
しかも瞬間移動が使えるため、喰いついてきたクラーケンを簡単に釣り上げることができる。
……心なしか恨めしそうな目でこっちを見ている気がするけど、気にしないようにしよう。
「影武者と分かってても、なんだか見てて落ち着かないわね……」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





