第276話 簡単に攻め込めるんじゃ
バルステ王国の空の上を、公園に乗って飛んでいく。
さすがに一つの国を縦断するとなると、それなりに時間がかかるので、
「みんな、お弁当だよ~」
芝生の上にシートを敷いて、そこでお弁当を食べることに。
「しかもなんと、コークさんお手製の!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
大歓声が空に轟く。
『料理』のギフトを持ち、村一番の料理人であるコークさん。
彼が作る絶品料理はあまりにも人気で、すでにお店の予約が半年後まで埋まってしまっているほど。
幸い僕は村長ということで、いつでも好きなときに料理を食べさせてもらえることになっていた。
……うん、職権乱用だね。
「それにしても……こうしてみんなで芝生の上でお弁当を食べるって、もう十分、ピクニックじゃない?」
しかも目の前に広がっているのは、抜けるような青空と遥か彼方まで続く大自然だ。
こんな絶景を楽しみながら、美味しいお弁当を食べることができるなんて……。
てっきり海水浴かと思っていたけど、どうやらしっかりピクニックとしての条件も満たしていたみたいだね。
「「「うめええええええええええええっ!」」」
って、情緒っ!
みんな景色なんてまったく見てないし!
ちょっとコークさんの料理が強すぎたみたいだ。
次からは普通のお弁当にしようかな。
「見て、ルーク! 向こうに大きな都市が見えてきたわ!」
お弁当を食べ終えて、芝生の上に寝転がったりしていると、興奮したように叫ぶセレンの声が聞こえてきた。
公園の端から地上を見遣ると、そこには確かに、セルティア王国の王都に匹敵するほどの大都市があった。
すぐ近くには大きな川が流れていて、恐らく海にまで続いているのだろう、遥か彼方へと伸びている。
「まさかバルステ王国も、王都のすぐ上空を、隣国の人間たちが飛んでいるとは思わないだろうなぁ……」
「これ、攻め込もうと思ったら、簡単に攻め込めるんじゃ……」
苦笑しているのはベルリットさんとバルラットさんの兄弟だ。
他にもノエルくんやゴアテさん、ペルンさんやランドさんといった、お馴染みのメンバーたちも参加している。
「あれ? あの都市、城壁の外にも家が建ってない?」
ちょうど上空を通過する頃、地上を見下ろしながら僕は首を傾げた。
王都を囲んでいる城壁の内側だけでなく、その外にも無数の家々が並んでいたのだ。
「恐らくスラム街でしょう、ルーク様。城壁内に住むことを許されない人々が、その周辺に住みついていき、街が形成されていくというのは珍しいことではありません」
ミリアが教えてくれる。
確かによく見てみると、城壁の外にある家はどれもこれもみすぼらしいものだ。
しかも雑多に隙間なく建てられているせいで、まるで迷路のような街並みをしている。
「でも、セルティアの王都にはスラム街なんてなかったよね?」
「昔はうちの王都にもあったみたいだけど、宮廷貴族が嫌がって一掃しちゃったそうよ」
もちろん追い払われた人たちは、新しく住む場所を探さなければならない。
王都の近くであれば、兵士が定期的に魔物を狩っているだろうし、比較的安全だったはずだ。
万一のときは中に逃げ込むこともできるし。
そう考えると、ああしたスラム街も、受け皿として必要なのかもしれない。
「さすがに他国のことに手を出すのは……と思うけど、せめて綺麗な水と清潔なトイレくらいはあげたいかな」
というわけで、僕はスラム街の各所に井戸と公衆便所を設置していった。
「ついでに公衆浴場も置いていこうかな」
街の中は家々が密集し過ぎていて難しいので、周辺に公衆浴場を建てていく。
突如として出現した謎の建造物に、住民たちが驚いているのが見えた。
使い方とかは教えなくても、多分、なんとか理解してくれるだろう。
「念のため施設グレードアップを使って、自動洗浄機能を大幅に強化しておこう」
たとえ綺麗に使ってくれなくても誰かが掃除しなくても、勝手に綺麗になってくれるなんて、本当に便利な機能だよね。
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