第272話 身体も綺麗になるし
「(そもそも散歩がてら何度か荒野の上空を飛んだことはあるが、つい最近まで、あんなところには都市どころか、村もなかったはずじゃが……)」
目を丸くしているドーラを余所に、僕は公園を村へと着陸させていく。
「着いたよ、ドーラ。ここが僕たちの村だよ。歓迎するね」
「う、うむ……(しまった! 村の大きさに気を取られているうちに、着いてしまったのじゃ!? 今からでもどうにか逃げねば……っ!)」
「一応あの中心に立つ塔みたいなのが、僕の家なんだ」
「あ、あれが……?」
宮殿の頂上を見上げて、ポカンと口を開けるドーラ。
それから何を思ったか、少し張り合うように、
「……ま、まぁ、わらわの巣に比べれば、小さなものじゃがなっ」
「さすがドラゴンだね。よかったら今度、遊びに行かせてよ」
「別に構わぬが……(今度、ということは、わらわを食べる気はないということか? いやいや、油断してはならぬのじゃ。わらわの警戒を解くつもりかもしれぬ)」
セレンが割り込んでくる。
「ダメよ、ルーク。ドラゴンの巣に遊びに行くなんて、自分から食べられにいくようなものじゃないの」
「あはは、言われてみたら」
「(今のわらわがまさにその状況なんじゃがな!? もしやこやつら、わらわをからかっておるのか!?)」
それから僕は獲ってきたワイバーンのことは狩猟隊のみんなに任せ、ドーラを宮殿に案内することに。
ドーラはドラゴンだし、大勢の人間に囲まれたりするのは苦手だろう。
なので宮殿の最上階にある僕の自宅にて、少人数で歓待するつもりだ。
「瞬間移動を使っちゃうね」
「……瞬間移動?」
僕はドーラとセレン、それからセリウスくんにフィリアさんを連れて、自宅へと移動した。
「っ!? 一瞬で周囲の景色が変わったのじゃ!?」
「これが瞬間移動だよ。ほら、窓の外を見てごらん。あの辺が、さっきまでいた場所だよ。ワイバーンも見えるでしょ」
「ほ、本当じゃ……まさか、こんなことまでできるとは……」
普通に山脈からこっちに瞬間移動で戻ってくることも可能だったんだけど、それじゃさすがに味気ないしね。
「(ということは、そもそもこやつから逃げることは不可能ってことではないか!? ひぃぃぃっ!? 見かけによらず、なんと恐ろしいやつなのじゃ!?)」
あれ、どうしたんだろう?
なぜかドーラがブルブルと身体を震わせている。
「もしかして寒いの? ドラゴンでも、人化したら人間と同じように寒さを感じるのかな?」
この荒野も長い冬を経て、春が近づいてきていた。
それでもまだまだ寒い日は続いているし、ましてや空を飛んで戻ってきたのである。
「せっかくだから、料理ができるまでにお風呂で温まってきなよ」
「お風呂?」
「ドラゴンも水浴びとかしないの?」
「水浴びか。ごく稀にすることもあるの」
「それのお湯バージョンと思ってもらったらいいよ。……身体も綺麗になるし」
大きな声では言えないけど、長らく水浴びをしていないからか、ちょっと臭いが……。
屋外ならともかく、やっぱり空気が滞留している室内だと誤魔化せないよね。
「ミリア、案内してあげてくれるかな?」
「はい、お任せください、ルーク様」
ミリアには事前にサテンの念話を通じて、ドーラを連れていくと伝えてあった。
部屋を片づけたり、事前に準備をしてくれていたはずだ。
ちなみにワイバーン料理の方は、村の料理人たちに任せてある。
「ではドーラ様、こちらでございます(……ドラゴンが人化したと聞いていましたが……これはなかなか良いロリですね……じゅるり。もっとも、ルーク様と比べれば足元にも及びませんが)」
「(な、何じゃ? 今、背筋がぞわりとしたような……この女か? や、やはり、わらわを食べようとしておるのやも……)」
お風呂へと連れて行かれるドーラの顔は、心なしか青白く見えた。
やっぱり寒かったのだろう。
しっかり身体の芯まで温まってきてもらいたいね。
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