第268話 ここまで追い詰めるとは
「気を付けろ! また来たぞ!」
「避けろ~~っ!」
迫りくるドラゴン。
みんなが慌てて回避行動を取る中、僕は施設カスタマイズを使った。
次の瞬間、公園の真ん中に亀裂が走ったかと思うと、それを境に、僕たちがいるのとは反対側の地面が一気に跳ね上がった。
「「「え?」」」
みんなが唖然とする中、折れ曲がった地面が九十度を超えて、こちらの頭上へと落ちてくる。
「オオオオオオオオオオッ!?」
これに最も慌てたのはドラゴンだ。
何せその巨体、このままいけば真っ先に地面と地面の間に挟まれてしまう。
しかも折れ曲がり地点の方角へと飛翔していたので、自ら地面の間へと向かっていく形だった。
急いで方向転換を試みるも、間に合わない。
ドガガガガガガガガンッ!
「~~~~~~~~ッ!?」
最初に上の地面に激突し、跳ね返って下の地面に、さらに上の地面にぶつかる、ということを何度か繰り返して、最後は地面と地面の間に挟まりながら停止した。
それでもさすがは強固な身体のドラゴン、何事もなかったかのように隙間から脱出しようとする。
だけどそうはさせない。
ワニクリップのように地面と地面でドラゴンを捕らえ、完全に身動きを奪ってやる。
「ルーク殿、これは……?」
「えーっと、必殺・地面サンド?」
「ネーミングセンスはともかく、出鱈目な技ね……」
あわよくばそのまま潰してしまおうかと思ったけれど、ある程度のところで地面が動かなくなってしまった。
「ああん、さすが村長ちゃんだわぁっ! これならドラゴンだって袋のネズミねぇっ!」
地面に挟まったドラゴンへ、ゴリちゃんが勇ましく突っ込んでいく。
「オルアアアアアアアアッ!!」
「あぶごっ!?」
だけどドラゴンもそのまま大人しくやられる気はなかったようで、比較的自由に動かせる尻尾を思い切り振って、ゴリちゃんを吹っ飛ばしてしまった。
そのまま公園の端まで転がっていき、ゴリちゃんの姿が消えてしまう。
「ゴリちゃん!?」
もしかして公園から落っこちてしまった!?
と思いきや、ぬっと公園の端からゴリちゃんの大きな手が伸びてくる。
「うふふっ、もう少しでイっちゃうところだったわぁ♡」
すぐにゴリちゃんが這い上がってきた。
どうやらギリギリ端っこのところにしがみ付いていたらしい。
「尾には気を付けなさい! 遠距離か、逆方向から攻撃するのよ!」
「「「おおおっ!」」」
セレンの指示を受けて、狩猟隊のみんなが一斉に攻撃を仕掛ける。
「腹側を狙った方がいい! 背中側よりも幾らか柔らかい!」
そう叫んだのはフィリさん。
やはり硬い鱗にはダメージが通り辛いようだけれど、腹側の方が比較的マシのようだ。
「オアアアアアアアッ!!」
ドラゴンも簡単にはやられまいと、必死に暴れている。
だけど飛行どころか身動きまで封じられてしまっては、さすがのドラゴンもお手上げだろう。
と、思いきや。
ドラゴンが大きく首を撓めた瞬間、ゴリちゃんがいつになく真剣な顔で声を張り上げた。
「っ! マズいわ! ブレスが来ちゃう! みんな離れなさい!」
「「「ブレス?」」」
直後、ドラゴンが口から吐き出したのは、猛烈な火炎の息だった。
しかも辛うじて動く首を振り、周囲一帯を焼き払うような全体攻撃。
けれどその火炎の目の前に、一瞬にして盛り上がった地面が立ち塞がる。
ブレス、という言葉にピンときた僕が、咄嗟に施設カスタマイズを使って土壁を作り出したのだ。
ドラゴンと言えばブレスだよね。
今までドラゴンに遭遇したことなんてないのにそう思うのも、前世の記憶のお陰だろう。
ドラゴンの強烈なブレスは、あっという間に土の壁を溶かしてしまったけれど、逃げる時間を稼げたことで、みんなすでに十分な距離まで退避していた。
「オァァァ……」
起死回生の一撃が不発に終わったからか、さすがのドラゴンもがっくりしている。
ここまで温存していたことを考えても、きっと何度も連発できないのだろう。
今度こそトドメを、と思ったときだった。
『このわらわをここまで追い詰めるとは……やるではないか、人間ども』
突然、頭の中に何者かの声が響いてきた。
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