第261話 余に追いついてみよ
「お待ちくだされ、陛下~~っ!」
「はははっ、余に追いついてみよ、公爵~~っ!」
陽気なメロディーと共に、模造の馬に跨った二人のおっさんが、まるで子供のようにキャッキャフフフとはしゃいでいる。
正直言って、なかなかにシュールな光景だ。
しかも彼らはただのおっさんではない。
信じられないことに、この国の国王と公爵なのだ。
だがそんな姿を嘲笑うことなど、私にはできなかった。
なぜなら私もまた、この〝メリーゴーランド〟なる謎の遊具の虜となってしまっていたからだ。
「いやっほ~~~~っ!」
思わずそんな叫び声を上げてしまう。
巨大なテントのような建物で、複数の馬が上下動しながら、ぐるぐるとその場を回り続ける。
……なのでもちろん、前の馬に跨る人に追いつくことなどできない。
一体どうやって動いているのか、なぜこんなものを作ったのか、さっぱり理解できないものの、ひとたび馬に跨って回転がスタートするや、心の奥に仕舞い込んだ童心が一気に湧き上がってきてしまうのだ。
しかもここにあるのはメリーゴーランドだけではない。
あちこちに無数の遊具が設置されていて、そのどれもがやはり童心を掻き立てる。
「公爵よ、次は向こうのコーヒーカップとやらに乗るぞ!」
「おおっ、あれも楽しそうなのじゃ!」
「私も乗せてください!」
馬の回転が止まるや、すぐに次の遊具へと向かおうとする国王と公爵を、私は嬉々として追いかけるのだった。
「はっ!? わ、私は一体、何をしていたのだ……?」
ようやく我に返ったのは、日が暮れるまで遊具を楽しんだ後だった。
「確か、鉄道なるものを使って、本当に王都まで三時間ほどで着いてしまって……」
それに驚いているのも束の間。
我が国の王都のそれを大きく凌駕する城壁に息を呑み、やはり清潔な街に驚嘆し、さらには聳え立つ王宮に圧倒された。
その後、国王陛下に謁見しようとしたところ、陛下は遊園地なるものの視察に行かれている聞いた侯爵が「遊園地とは何じゃ?」と興味を抱き、行ってみることになったのだ。
そこにあったのは広大な土地を使った巨大なレジャー施設で、気が付いたら童心に帰って遊び惚けてしまっていたというわけだ。
何なら使者としての任務をすっかり忘れていたほどである。
もしかして魅了魔法にでもかかっていたのではないか?
ああ、しかし、あのジェットコースターとやらにもう一度乗りたいなぁ……って、いかんいかん。
そんな風に我を忘れていたのは私だけではなかったようで、
「……ごほん。余としたことが、どうやら少しはしゃぎ過ぎてしまったようだな……軽い視察のつもりだったのだが……」
「へ、陛下、私もなぜか遊具を見ていると、なんだか無性に興奮してきまして……」
国王と公爵も恥ずかしそうに首を傾げている。
「それにしても、この国には、都市にこんなものを作る余裕があるなんて……」
周辺を城壁で囲んだ都市というのは、人口が増えれば増えるほど、深刻な土地不足に悩まされるものだ。
なにせ土地を増やそうとすれば、城壁を広げなければならない。
そのため余計な施設を作る余地などないはずなのだが、ここはただ遊びのためだけに信じられない規模の土地を使っている。
それがまずあり得ない話だった。
経済的な余裕もあるのだろう。
見たところ国民から搾取してこのような施設を作った様子もなく、そもそも今後、一般国民にここを開放するつもりらしい。
我が国には到底できないことである。
「ははは、どうやら我が国はすんなり撤退して正解だったようだな……」
これだけの国力を持つ国に戦いを挑むなど、まさしく愚の骨頂。
我が国に戻ったらすぐにこのことを報告し、今後は友好的な関係を築くことに全力を尽くすべきだと陛下に進言するとしよう。
「しかし本当にこれが、ほんの少し前まで内乱状態が続いていた国なのか……?」
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