第253話 どうぞご自由に
カイン上級神官は、アルデラ教会長の右腕として、様々な汚れ仕事にも手を染めてきた。
その一つが異端審問である。
教会にとって都合の悪い相手――もとい、正当な信仰に反する者たちを捕らえ、宗教裁判にかけるのだ。
大抵は見せしめのために、異端者たちには非常に厳しい処罰が与えられることとなる。
そんな彼にとって、今回の仕事はまさに適任と言えるだろう。
五人の配下の神官に加えて、教会子飼いの兵である聖騎士たちを、二十人も引き連れての大々的な調査団だ。
聖騎士たちは全員が戦闘系ギフトを持つ精鋭たちで、数は少なくとも、その戦力はそこらの軍にも匹敵するはずだった。
「村長のルークは今や各地で英雄視されているというが、そんなことは関係ない。神の教えに反する異端者には、必ずや裁きを与えねばならん」
そのためには武力行使も辞さない。
今までもそうやって、教会は異端者を排除してきたのだ。
相手が誰だろうが関係ない。
荒野に現れた想定以上の大都市には少し圧倒されたものの、カイン上級神官は尊大な態度で異端調査に臨んだのだった。
「我々はアレイスラ大教会の調査団だ。この村に異端信仰の疑いがあり調査に赴いた。無論、拒否権はない。アレイスラ大教会アルデラ教会長の命に従い、これより村を隅々まで調べさせてもらう」
◇ ◇ ◇
『ルーク村長、アレイスラ大教会の調査団と称する集団が現れました』
ある日、サテンから念話によってそんな報告を受けた。
「うわ、ついに来ちゃったか」
僕は思わず顔を顰める。
アレイスラ大教会といえば、王国中の教会を束ねる信仰の総本山だ。
いずれはこの日が来るだろうと、みんなから言われてはいたけれど、どうやらそのときが来てしまったらしい。
「まぁ、勝手に教会を作って、祝福を与えちゃってたわけだしね……」
教会はその権威を保つためにも、神託のギフト持ちである神官や祝福を独占したいという。
だからこの村が独自に作った教会の存在なんて許すはずもなく、知られたら間違いなく異端認定して潰そうとしてくるはずだった。
ちなみにその辺りのことを教えてくれたのは、実は王様だ。
本当は王様も今の教会の在り方をよく思っていないそうなのだけど、王家ですら逆らうことが難しく、どうにもできないという。
「心配は要りません、ルーク様」
「ミリア、何か策があるの?」
「もちろんです。この村の教会を護る者として、ずっと前から対処法を考えていました」
大丈夫かなぁ。
なんか、別の意味で不安なんだけど……。
とはいえ、僕にいいアイデアがあるわけでもなく。
仕方なくミリアに一任することにしたのだった。
◇ ◇ ◇
「これは一体何のつもりだ? 私はひとまずこの村の長に会わせろと言ったはずだが?」
カイン上級神官は不快感を隠すこともなく、そのメイド服姿の女を睨みつけた。
とても神官とは思えない人相をしていることもあって、普通の人間ならそれだけで射すくめられていることだろう。
だがメイドはまるで臆する様子もなく、ニッコリと微笑みながら、
「ふふふ、随分と偉そうな態度ですね? ルーク様にお会いしたいのであれば、まずはその横柄さから改めていただかないと」
「……貴様、私を誰だと思っている? 私はアレイスラ大教会の教会長であるアルデラ様から、直々の命を受けているのだ。貴様こそ、その不遜極まりない態度、教会への反逆と見なすぞ?」
「どうぞご自由に」
カイン上級神官が低い声音で聖騎士たちに命じた。
「おい、あの娘を黙らせろ」
「「「はっ!」」」
聖騎士たちが前に出ようとしたときである。
メイドの後ろに控えていた村の住人たちと思しき男たちもまた、それに対抗するように前に出てきた。
しかしその数は、聖騎士たちと大差ない。
「ふん、我らアレイスラ大教会が誇る聖騎士たちと、その程度の戦力でやり合うつもりか? 随分と舐められたものだな」
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