第250話 ノリツッコミしてる
「あ、帰っていく」
「はっ、懸命な判断だな。どっかの誰かさんみてぇに、無策で突っ込んでくるような真似はしねぇか。って、それオレのことじゃねぇか!」
「ラウルがノリツッコミしてる……」
バルステ軍に動きがあった。
どうやら回れ右をして、自国へと戻っていくようだ。
「つーか、国軍が出向いた意味はまったくなかったな。まぁ鉄道ですぐに帰れるからいいからよ。これがなけりゃ、またすぐ攻めてくる可能性に備えて、しばらくこっちに待機させておく必要があっただろうな」
「結局、諸侯への援軍要請も必要なかったね」
そんなわけで、勝手に指揮官にされてしまっていたけれど、これで役目を果たしたってことでいいよね。
「ま、まさか、戦わずして勝ってしまうとは……」
タリスター公爵はまだこの状況が信じられないのか、ワナワナと唇を震わせている。
後のことは彼に任せよう。
僕はラウルと一緒に王宮へと戻った。
報告のために王様に謁見する。
「敵軍は撤退しました」
「……て、撤退? 一体どういうことだ?」
僕は掻い摘んで状況を説明した。
「…………」
「? ええと、王様?」
「はっ!? す、すまぬ……驚きのあまり意識が飛んでいたようだ……」
疲れているのかな?
「いや、さすがは街ごと王都に持ってきてしまうだけのことはある……。まさかそんな方法で、あっさりと国難を解決してしまうとは……」
「今回はとにかく長い城壁を作っただけですけどね」
ちなみに、谷のような深い堀を作ってしまう案も考えたけど、これだと完全に行き来ができなくなったり、誰かが落ちて死んだりするかもしれないのでやめておいた。
「と、ともかく、この度もご苦労であった。貴殿には感謝してもし切れぬ。何かその実績に報いることができればと思っているのだが」
「いえ、気にしないでください」
特に報酬が欲しくてやっているわけじゃないし。
強いて言うなら平和でのんびりした日々が欲しい。
「……ところで、ルークよ。我が娘、ダリネアのことなのだがな」
「では失礼します」
「ちょっ、まだ話は終わっておらぬぞ!?」
僕は聞き終わる前に瞬間移動で村へと戻った。
だって嫌な予感しかしないんだもん。
◇ ◇ ◇
私の名はマリア。
神に仕える敬虔な信徒です。
この国最大の信教拠点であるアレイスラ大教会へ、幼い頃に入信してから、長年にわたりシスターとして働いて参りました。
そんな私はこの度、教会長より直々にある使命を戴くこととなりました。
「マリアよ。荒野の街へと移住し、調査を行うのだ」
「調査、でございますか?」
「うむ。実は件の街には、我が教会が認めておらぬ、非正規の教会が存在しているとの疑いがあるのだ」
「非正規の教会、ですか……?」
そんな言葉は初めて聞きました。
そもそも我がアレイスラ大教会の許可なく教会を名乗るなど、許されることではありません。
第一、神官がいないはずですが……。
神託のギフトを得た者はその瞬間から、教会の信徒として生きることを義務付けられるからです。
「それがどういうわけか、その街には我々が認知しておらぬ神託のギフト持ちがいる可能性があるのだ」
「な……」
もしそれが本当なら由々しき事態でしょう。
「畏まりました。必ずやその存在を突き止めて参ります」
「頼んだぞ、マリアよ」
そうして私は重大な使命を帯びて、その荒野の街へとやってきました。
大教会が管轄する自治領から出るのも生まれて初めてだった私は、その大都市に圧倒されてしまいました。
「こんなに巨大な建物が幾つも……それに、人も多くて、活気がある……」
初めてのことだらけで挙動不審になる私は大変怪しかったと思いますが、他にもたくさんの移住者がいるせいか、幸い怪しまれることなく、村での生活をスタートさせることができました。
そうしてしばらく経ったとき。
私はついに、ある噂を聞きつけました。
この街の村長――なぜか村長と呼ばれているようです――に仕えているメイドさんが、定期的に村人を集めて、何やら集会を行っているというのです。
しかもその集会場は地下にあるそうです。
かつては地上にあったらしいのですが、旅人などが多くやってくるようになってからは、人目が付かないよう地下に移動したと言います。
「……明らかに怪しいですね」
私は早速、その集会とやらに参加してみることにしました。
そこで私が見たものは――
「「「ルーク様っ! ルーク様っ! ルーク様っ! ルーク様っ! ルーク様っ!」」」
「そうです! ルーク様こそ、神が地上に遣わした世界の救世主なのですっ!」
――どう考えてもヤバい教義を信仰してましたあああああああああああっ!
壇上で力強く説教しているのは、間違いなく村長に仕えているメイドさんです。
……なぜか今もメイド服を着ています。
誤った教えを広げるなど、神に背く重大な過ちです。
絶対に許してはなりません。
すぐに教会に戻って、このことを報告しなければ。
トントン。
そのとき不意に肩を叩かれました。
振り返った私は、思わず「ひっ」という声を漏らしてしまいます。
「ふふふ、あなたは今日が初めてですね? では礼拝が終わり次第、ルーク様の素晴らしさをマンツーマンで教えて差し上げましょう」
にっこりと微笑むメイドさんが、私には邪神の化身に見えたのでした。
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