表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/458

第232話 また獣人か

「まさかこんな短期間で、地下にこれほどのものを作ってしまうとは……」


 そう驚きを口にするのは、初老の偉丈夫。

 ここ王国の北方を治めるカイオン公爵だ。


 王国で二つしかない公爵家の一つで、最大の領地を所有している。

 ただし領地全体が非常に寒い地域にあって、冬になると都市間の移動すら難しくなるような豪雪地帯だった。


 そんな公爵領最大の都市である領都の地下に、鉄道駅なるものが作られたのだ。

 彼は今、それを視察しにきていた。


「それにしても未だに信じられぬな。ここから王都まで、このデンシャとやらを使えば、僅か数時間で行けてしまうなど……」

「それなら一度、乗ってみますか?」

「構わぬのか?」

「はい。すでに王都まで線路を敷き終えていますので」


 カイオン公爵とやり取りしているのは、この地下空間をあっという間に作ってしまった張本人だ。


「それにしても……ルーク殿は少年であると聞いていたのだが」


 どこからどう見ても、そこにいるのは可愛らしい少女である。


「あ、はい。今は事情があってこんな格好をしてますが、男です」

「そ、そうか……」


 どんな事情があるのか、カイオン公爵にはまったく想像もできなかった。

 ちなみに公爵は知らないが、目の前にいるのはルーク本人ではなく影武者である。


 それから公爵は実際にデンシャに乗って、その性能に驚愕することとなる。

 僅か三十分ほどで、公爵領の南端の都市へと辿り着いてしまったのだ。


「こ、ここは確かに、キリエの街だ……っ! 本当にこんな短期間で移動してきたというのか……?」


 その街並みを見回しながら、公爵は呆然と立ち尽くす。


「しかも地下を移動するということは、雪の影響も受けぬということ……これなら、冬の間も使うことが可能だろう。これだけの早さで、大量の人と荷物を一年を通して運ぶことができる……途轍もないな……。国王陛下が国中にこれを展開させようとされるのも当然だ」


 間違いなくこの国に、そしてこの領地に、多大な恩恵をもたらすことになるだろう。

 公爵と言え、領地のことを思えば、この流れに抗うことなどできない。


「(王家は中央集権化を目指しているという。その布石でもあるのだろう。確かに第二のアルベイルを出さないためにも、必要な措置ではあるが)」


 代々このカイオン公爵家は、王家と友好関係を保ってきた。

 よほど領地にとって理不尽な要求でなければ、今後も王家とは上手くやっていくつもりではあった。


「(果たしてこの先に、どのような未来が待っているか……。我が公爵家にとっても今が大きな転換点と言えるだろう)」


 それから再び領都へとデンシャで戻ろうとしたが、


「帰りはもっと簡単な方法にしますね」

「なに?」


 次の瞬間、公爵の目の前には、見慣れた彼の居城があった。


「瞬間移動です」

「……デンシャ要らないのでは?」


 公爵が呻くように言った、そのときだ。


「くそっ! 放せ!」

「動くな! 大人しくついてこい!」


 何やら騒がしい声がして振り返ると、罪でも犯したのか、捕縛された誰かが兵たちによって連行されるところだった。

 よくよく見てみると、抵抗して騒いでいるのはまだ若い少女である。


「また獣人か」


 カイオン公爵は溜息を吐いた。


「獣人?」

「もしかして初めて見るのか。獣のような耳が付いているだろう?」

「確かに……」

「あれと尻尾が獣人の最大の特徴だ。奴らはこの公爵領のさらに北に棲息していて、村や街を襲っては略奪を繰り返している。長年、我が領地が悩まされている問題だ」


 ここ公爵領は、王国にとって獣人族の侵略を防ぐ防波堤のような役割も果たしていた。

 王家から対アルベイル軍の協力を要請されながらも、すんなりと応じられなかったのは、万一に備えて領兵を動かすことが難しかったためでもある。


 東西に広く伸びる広大な領地を、いつどこから襲ってくるか分からない獣人族から護るのは、簡単なことではないのだ。


「高い身体能力を持つ獣人を捕まえるのは難しい。それでも運よく捕まえた場合は、連中の情報を知るためにも、ああして必ず城へ連れてくるようにと命じてあるのだ」


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
[一言] 此れは新しい仲間(獣人)が増える予感。(´∀`*)ウフフ 人より身体能力高い方が多い筈なので、是非とも村に呼び込みましょうw。
[気になる点] 電車って電気はどこから取ってるの?
[一言] 鉄道輸送による兵站の短時間移動が、ナチスドイツの戦略上の成功の秘訣でした。つまり、兵力を、数倍に増やしたのと同じことになったのです。ドイツ国内の鉄道網の充実。ヨーロッパの他の国では、鉄道網が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ