第231話 すごい喜ばれてるよ
影武者の部屋にいた謎の美少女。
影武者はどこに行ったのか問うたラウルは、返ってきた答えに思わず眉根を寄せた。
「は? なに言ってんだ? どう見ても……いや待て。今の声は……ま、まさか……」
「うん、僕が影武者だけど」
ラウルは驚愕した。
確かによくよく見てみると、目の前の少女はルークにそっくりだ。
「何でそんな恰好してんだよ!?」
「本体に命じられたから」
「あいつ何を考えてんだ!?」
「あ、今は本体もこれと同じ格好してるよ」
「……ますます意味が分からねぇ」
しかしそう言いながらも、ラウルは内心で、
「(めちゃくちゃ似合っている……というか、似合い過ぎだろ……も、もしかして、実は女だったとか……考えてみたら、元から女みたいな顔して……いやいや、んなはずはねぇ)」
思わず兄弟の性別を疑ってしまうラウルだった。
「ルーク様っ♪ ルーク様っ♪ お城で会えるルーク様っ♪」
謎の歌を口ずさみながら、スキップで王宮の廊下を進むのは、この国の王女であるダリネアだった。
ルークによって救われた彼女は、それ以来、密かに(?)彼に思いを寄せていた。
「ふふふ、考えてみれば、あたくしの近くには常に影武者様がいらっしゃいましたわ! 本物ではないけれど、いつだって好きなときにルーク様成分を補給できますわ!」
なにせその影武者は、本物と瓜二つなのだ。
見た目だけでなく、声も話し方も一緒だった。
そうして影武者用に設けられた部屋へやってきたダリネアは、嬉しそうにノックしてから中に入る。
「影武者様、午前中のお勉強が終わって、遊びに来ましたの!」
だがそんな彼女の笑顔は、一瞬にして曇ることとなった。
「……あなた誰ですの?」
そこにいたのは、見たことのない美少女だったのだ。
思わず睨みつけてしまうダリネア。
「っ? 待ってください、この匂いは……くんかくんか……っ!? ルーク様!?」
しかしどうやら彼女は、匂いで目の前の美少女の正体を察したらしい。
ちなみに本体と影武者は匂いもまったく同じなのである。
「あたくしには分かりますわ! 武闘会の最中、ずっと隣の席に居てルーク様の匂いを嗅いでいましたもの!」
唐突にしなくてもいい暴露をするダリネア。
影武者が「え……」と思わず頬を引き攣らせる。
「それにしても、なぜ女装を……」
突然のことに驚きつつも、ダリネアは、
「めちゃくちゃ可愛いですわああああああああああああああああああっ!!」
女装姿のルークに激萌えした。
「ルーク様ルーク様ルーク様~~っ♡」
「ちょっ!?」
思わず抱きつき、頬ずりしてしまう。
戸惑う影武者を余所に、ダリネアは鼻息荒く聞いた。
「ふああああっ! ペロペロしてもいいですの!?」
「良いわけないでしょ!」
本体と比べるとやや感情が薄いはずの影武者も、さすがに全力で拒否するのだった。
『という感じで、各地でこの格好が波紋を呼んでるんだけど』
『……うん、そうだろうね』
各地にいる影武者からの報告を受けて、僕は微妙な顔で頷いた。
当然、予想していたことだ。
『ええと……周りの人たちには一か月限定だから、気にしないようにって言っておいて』
『いや、一応そう言ったんだけどね』
『? 何か不都合なことでもあったの?』
『実は……』
影武者は少し言いにくそうにしながら言った。
『ぜひ一か月と言わずに、もっと長く続けてほしいってさ』
『絶対に嫌だ!』
一か月でも恥ずかし過ぎて地獄だというのに、これを延長するなんてとんでもない。
村の中でもそんな声が多数上がっているけれど、僕は完全に無視することに決めていた。
『でもすごい喜ばれてるよ?』
『ちょっと待って? 影武者、まさかこの格好を気に入ったりしてないよね!?』
『……………………してないよ?』
『じゃあ今の間は何っ!?』
影武者の反応に危機感を覚える僕だった。
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